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不穏の足音



「ぜぇぇぇえいぃっ!!」


『グルッ……!!』



 ひしゃげた盾を構えながら、黒い獣に向かって突貫。

 もう盾と言うのもはばかられるくらいボロボロだけど、無いよりマシだ。


 急接近してきた私に向かって魔法を放ってくるのをできる限り避けて、避け切れない分を盾で受ける。

 あと2~3発も受ければ、この盾は壊れてしまう。その前にどうにか一発、黒い獣の頭に叩き込んで仕留めてやる!



『グルァッ!!』


「っ!?」



 目の前まで接近したところで、黒い獣が一際大きく吠えた。



 その直後、ドゴォンッ と落雷に似た轟音が響き渡った。

 黒い獣を中心に爆発と突風が起こり、私の体は吹き飛ばされてしまった。


 こ、これは……これも、この黒い獣の魔法……!?

 くそ、炎の弾だけじゃなくてこんな魔法まで使えるなんて!

 大して傷は負っていないけれど、距離を離されたうえに今ので盾も壊れてしまった。



『ガァァアアッ!!』



 ダメ押しと言わんばかりに、獣の放った魔法が襲いかかってきた。

 おびただしい数の炎の弾が私に迫ってくる。


 こんな数の弾が直撃すれば、『剛力』の加護がある私でも耐えられるか分からない。

 このままじゃ、やられる……!




「『ライト・ウォール』ッ!」




 炎の弾が私に当たる寸前、誰かの叫び声が聞こえたと思ったら、突然目の前に光る壁が現れた。

 炎の弾は光る壁に阻まれ、私の体を焼くことなく霧散していった。

 こ、これは……?



「ポエルさん、ご無事ですか!」


「シスター……!?」



 声が聞こえた後ろを振り向くと、シスターが杖を構えているのが見えた。

 杖を降ろすのと同時に、光る壁が消えた。

 どうやら先ほど炎の弾を防いだ光の壁はシスターの魔法らしい。



「間に合ってよかった! 妙な獣が村へ入り込んできたと警報が出されて様子を見に来たのですが、ポエルさんが抑え込んでくれていたのですね……!」


「……助けてくれてありがとう、シスター。こんな魔法が使えるなんて知らなかったわ」


「この村は平和ですから、使う機会などそうそうありませんので。……もっとも、今はそうでもないみたいですが」


『グルルルル……!!』


「魔法を使う、黒い獣……まさか『魔物』が村へ入ってくるなんて……」


「『魔物』って、アレが? ……初めて見たわ」


「私もです」



 腑に落ちた。魔物ならあのバカげた強さや魔法が使えることにも納得できる。

 妙な獣だとは思っていたけれど……でも。



「どうしてこんなところに……!? 今まで魔物なんか見たこともないのに!」


「そのあたりのお話は後にしましょう! 今は目の前の脅威に対処することを考えてください!」


『ガルァァアッ!!』


「っ! あの炎の魔法は私が防ぎます! ポエルさんはなんとか隙を見つけて、魔物を叩き伏せてください!」



 飛んでくる炎の弾を光る壁の魔法で防ぎつつ指示を出すシスターの言葉に、頼もしさを感じつつ歯噛みした。

 あの魔物は魔法も脅威だけど、とにかく素早くて動きを捕らえるのは簡単なことじゃない。

 そのうえ、不用意に近付けばさっきみたいに妙な爆発を起こす魔法で吹っ飛ばされるだけだ。



「この、チョロチョロと鬱陶しい……! 村のガキんちょどもくらいすばしっこいわね!」


「あの、さすがに子供たちを魔物と比較するのはどうかと思いますが……」


「一回あいつらと追いかけっこでもしてみなさい! 魔物顔負けの速さ……ってうわぁっ!?」


『ガルルァッ!!』


「ポエルさん!?」



 思わず悪態を吐いたのをシスターに咎められ、さらに言い返してやろうとしたところで突進をモロに受け、そのまま馬乗りの状態にされてしまった。

 まずい、早く体を押しのけないと、噛み殺されてしまう!



『ガァァアアアッ!!!』



 魔物が大口を開けて私の頭を噛み砕こうと、その牙を向けてきた。

 くそ、間に合わない……!!




『アアアアアアッ!!  ゴボガッ?!!』



「っ! ……えっ?」



 私の頭に噛みつく寸前、魔物が変な悲鳴を上げて動きを止めた。

 思わず閉じてしまっていた目を開くと、そこには――――




「……え、だ、ダイコン……?」


『ゴ、ゴフッ! ガフッ……!!』



 口の中に、特大のダイコンが突っ込まれて苦しそうに悶えている魔物の姿があった。

 ……なんだこれ。私が目を瞑ってる間に何があった。

 いったい何がどうなったらこんな状況に……?


 いや、それよりも……!



「いつまで乗っかってんのよ! 降りろっ!!」


『ガガバッ!?』



 突っ込まれたダイコンに気を取られて、押さえつける力が弱まったところで魔物のどてっ腹へパンチ。

 たまらずダイコンを吐き出しながら、痛みに悶えて地面を転がりまわっている。



「拘束します! 『ライト・バインド』!」


『ガフッ……!? ガ、ガルァッ……!?』


「ポエルさん! 今ですっ!!」



 シスターが魔物に向かって魔法を唱えると、光る鎖が魔物に絡みついて動きを封じた。

 さっきまで縦横無尽に駆け回っていたから捉えきれなかったけれど、痛みに悶絶してる隙をうまく捕まえたわね。

 もう、逃がさない。ここで仕留める!!




「くたばれぇぇえええっ!!!」


『ゴギュギャァアッ!!?』




 地面に拘束されて身動き取れなくなった魔物の頭を、思いっきり殴りつけてやった。

 拳に撃ち抜かれた頭が地面にめり込んで大穴が空き、さらに穴の周りにヒビが広がっていく。


 ……硬い。クマやイノシシくらいなら頭が破裂するくらいの強さで殴ったのに、まだ原型を留めている。

 でも、中身はグチャグチャでしょうね。頭、陥没してるし。



『ガッ……!! カ、カッ……ァ……!』



 魔物は何度か大きく体を揺らした後、動かなくなった。

 ……やっと死んだか、恐ろしいやつだったわね……。



「ふうぅ……シスターが駆けつけてくれなきゃ死んでたわね」


「ご無事でなによりです。しかし、さっき噛みつかれそうになっていた時は本当に焦りました……」


「そうね。……ところで、このダイコンを魔物の口に突っ込んだのは誰なのかしら……?」



 魔物の死骸の傍に転がっているダイコンを見ると、今更ながらそんな疑問を浮かべた。

 いや、なぜダイコン……? っていうかどこから出てきたのコレは。



「ポエルちゃん、だいじょーぶー!!?」


「え? ……うわっふ!?」



 ダイコンを眺めていたら、お姉さんの心配そうな声と顔面に柔らかな衝撃が襲ってきた。

 逃がしたはずのお姉さんが駆け寄ってきて、私に抱き着いてきたみたいだ。

 ……胸を顔に押し付けるのホントにやめてほしいんだけど。



「ケガしてない!? 痛いとこない!? へーき!?」


「た、大してケガなんかしてないし、どこも痛くないわよ。っていうか、なんかあるたびに抱き着いてくるのやめて、苦しい……!」


「よかったぁぁ……ダイコンが当たらなかったらどうしようかと思ったよ……」


「……え? あのダイコン、まさかアンタが……?」


「うん。ノドの奥までなんか入ってると噛めないようになるって言ってたから、持ってたダイコンを投げて口の中に突っ込んだの!」



 嘘でしょ、ノーコンのアンタが? あんだけ練習して一発しか的に当たらなかったのに?

 練習の成果が出たのか火事場の馬鹿力か、奇跡的に狙い通りに投げられたのか分からないけれど……まさか、この人に助けられるとは思わなかったわ。



「……ありがと」


「ん、どうしたの? あ、やっぱりどこか痛いの!?」


「……なんでもないわ。それより、息苦しいから離して、マジで苦しいから……!」


「本当に仲がよろしいのですねぇ、尊いです……」



 やめてシスター。そんな微笑ましいものを見るような目をしないで。



「それにしても、この魔物はどこから湧いてきたのかしら……?」


「……やはり、時期が近付いているのでしょうか」


「時期って、なんの話?」


「……」



 魔物の死骸に向かい、膝を落として祈り、十字を切るシスター。

 魔物への供養を済ませた後に、ゆっくりと口を開き、答えた。




「魔物、そして魔族たちの長……『悪魔』の目覚めが、です」



お読みいただきありがとうございます。

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