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異物侵入



「えい! とぉーっ! ……ふんぎゃっ!? い、いっったぁぁ……!!」


「はぁ……鞭もダメっぽいわね」


「あぅあぅあぅ……!」



 今日も今日とてお姉さんの持っている加護を検証しているけれど、結果は芳しくないわね。

 あれから色んな種類の、それはもう『コレはないだろ』と言いたくなるような武器も試してみてるけど、まるで上手く扱えていない。

 今も、鞭を使わせたら的じゃなくて自分の顔を引っ叩く始末。ダメだこりゃ。


 けれど、全部が全部悪いってわけでもない。

 稀に、極稀に光るものの片鱗を見せることがなくもない。



「現状で比較的マシなのが『投擲』と『短剣』と『弓矢』かしら。……それにしたって、加護の恩恵云々どころか人並み以下だけど」


「うぐぐぐ……! これでも頑張ってるもん……!」


「努力は認めるけど、ここまでポンコツだとホントにどうやって生きてきたのか不思議だわ」


「ポンコツって言わないでよ! 泣いちゃうよ!?」



 そうは言っても、実際ポンコツだし。

 いや、私だって人のことを貶めるようなことを言いたくはないけれど、記憶がないにしてもここまで得意なことがないのは逆にすごいと思う。



「それでも少しは進歩があったみたいでなによりだわ。なんだかんだで、これまでの頑張りは無駄じゃあなかったんじゃないの?」


「そうかな……そうかも……」



 粉々に砕けた投擲訓練用の的を眺めながらそう言うと、なんとも微妙な顔で悩むように呟いている。

 ちなみに的を砕いたのもお姉さん。何百回も投げては外してきた小石が、やっと命中した結果がコレ。

 思った通り、当たりさえすればすさまじい威力のようで、この的は壊れてもう使い物にならない。




「君たち、しばらく訓練場出禁ね。こないだもなぜか稽古台がひとりでに壊れたばっかりなのに、これ以上壊されたんじゃたまったもんじゃないよ。まったく……」


「「ごめんなさい」」



 その結果、訓練場を管理している衛兵さんに叱られて出禁に。残当。

 ……まあ、ここで試せるような武器は大体試したし、今後は森のほうで訓練することにしましょうか。






 訓練場から家までの帰路の途中、急に頭が重くなる感覚に襲われた。

 お姉さんが後ろに回り込んで、無駄にそのデカい胸を頭に乗せてきたらしい。



「お姉さん、胸を頭に乗せるのやめて。重いのよ」


「えへへー、楽チーン」


「嘘つけ。乗せるためにわざわざ屈んでるからかえってつらいでしょうが。いいからやめて」


「ぶー。乗せてると肩がこらなくて楽なのにー」



 まったく、ことあるごとに……っていうか何もなくてもベタベタとスキンシップしてくるのなんとかならないかしら。

 ハグしたり今みたいに胸を乗せてきたり、どうにも私の頭に胸を押し付けてくる癖がついてきてるみたいだ。

 私が男だったら絶対性癖歪んでたところだわ。教育上よくないボディしやがって。……羨ましくなんかないぞ。



「ポエルちゃん、お腹空いたよぅ……」


「家に着くまで我慢しなさい」


「おーなーかーすーいーたー!!」


「うるっさいわ!! これでも食べてなさい!」


「もごががが!?」



 帰宅の途中でお姉さんが空腹のあまり大声で喚くのにイラついたので、口の中にダイコンを突っ込んで黙らせてやった。

 途中で寄った野菜屋で買ったものだけど、小腹を満たすくらいはできるでしょう。

 ああもう、堪え性なさすぎてこっちまで短気になってくるわ。



「もがもがもが……!」


「まったく、ソレ食べたらさっさと帰るわよ。……ていうかいつまでもくわえてないで早く食べなさいよ」


「もぐぺっ……! か、かじろうとしたけど、ノドの奥まで入ってるせいでうまく噛めなくて……」


「大抵の生き物の口ってのはそういうものよ。何かが喉まで入れば噛めずに飲むか吐くかしかできないから、横着せずに少しずつ食べなさい」


「はーい……あぅあぅ、口の中がからいよー」




 なんて呑気なやりとりをしていると、甲高くけたたましい音が耳に入ってきた。

 音のするほうへ目を向けると、村の見張り台にある警鐘がカンカンと何度も打ち付けられているのが見えた。



「な、なに、この音?」


「警鐘みたいだけど、火事でも起きたのかしら……?」



 警鐘はしばらく鳴り続け、音が止んだかと思ったら今度は見張り番の叫び声が村中に響き渡った。



「た、大変だ! 大きくて黒い、妙な獣が村の中に入ろうとしてる! 訓練場近くの防護柵を破ろうとしてるぞっ!!」



 焦った声でそう告げるのが聞こえた直後、訓練場の外周から何かが突き破られるような、派手な音がした。

 村を囲ってる防護柵が、破られた!?

 獣除けの薬草も植え込んであるはずなのに、どうして……!?



「ぽ、ポエルちゃん、アレ……!!」


「え? ……っ!?」





『グジュゥウ……フシュウゥゥウ……ッ!!』





 防護柵を破って村へ侵入してきたのは、見慣れない獣だった。

 見た目は黒いトラ、いや、ヒョウ……?


 鼻息は荒く、空気を吸い込み吐き出すたびに禍々しい黒い蒸気が口と鼻から噴き出している。

 体格は普段狩っているヒグマと大差ないほど大きく、危険な獣だということが一目で分かった。


 私たちをエサだと認識しているのか、口からダラダラと涎を垂らす様からは理性というものを感じられない。



「何よ、アイツ……!?」



 村の防護柵を簡単に壊せるということは、クマやオオカミなんかとは段違いに凶暴で強いに違いない。

 あの獣が街で暴れたりしたら、どれだけの被害が出るか分かったもんじゃない……!



「近くの衛兵は集まれ! あの獣を抑えこむんだ!」


「住民は建物の中へ避難しろ!!」


「急げ! あんなバケモノに狙われたらどうなるか分からんぞ!!」



 衛兵たちが大声で警告しながら黒い獣を取り囲もうとしている。

 盾を構え槍を突き出して威嚇する前衛と、弓矢で遠距離から狙う後衛による連携。

 並の獣相手ならこれで十分駆除できるだろうけれど、アレ相手に果たして通じるかどうか……。



『ガグァッ!!』


「なっ ガハァッ!?」


「うわぁああっ!!」



 黒い獣が一際大きく吠えたかと思ったら、前衛を務めていた衛兵たちの体が吹っ飛んだ。

 いったい何が起きているのか、黒い獣が衛兵たちを次々と蹴散らしていく。


 アレは、何も特別なことなんかしていない。ただ体当たりしているだけだ。

 それだけで、鎧を着込んだ大の大人がなすすべもなく打ち倒されていく。



「や、矢を放て!」


「喰らいやがれ! このチクショウが!!」



 遠くで構えていた弓から矢が一斉に放たれたけれど、掠りもしない。

 全て見切って避けられてしまっている。



「あ、当たらない!? なんて速さだ……!」


「バカが! 矢ぁ避けるのに必死で周りが見えてねぇ! 死ねぇ!!」


『グルッ……!』



 矢を避けた先に剣を持った衛兵が斬りかかった。



『ガルァッ!』


「っ!? ゴハァッ!!」



 爪を振るって剣を弾き、そのまま爪で衛兵を切り裂いた。

 速い! 速すぎて、まるで動きが追い付いていない!


 衛兵たちも決して弱くない。

 それぞれが得意の武器を扱うための加護を持っているし、野生の獣相手ならそれで十分対抗できる。

 なのに、あの黒い獣相手にはまるで歯が立たない。



『グルァッ!』


「うっひょえぇえっ!!?」


「! お姉さんっ!!」



 衛兵たちをあらかた蹴散らしたところで、今度はこちらに狙いを定めたようだ。

 頑丈な鎧に包まれた衛兵よりもこっちのほうが食べやすそうだとでも判断したのか、真っ先にお姉さんを襲ってきた。



『グガァアッ!』


「ひいぃっ!? いった!?」


『ガヴァァア!!』


「んわぁあっ!? あいたたた顔打った!」


『ガル……!! ガギャアァアアッ!!』


「びゃぁぁぁあああっ?! 助けてぇえええ!!」



 お、おおう、なんかすごいことになってる……!?

 黒い獣が目にも止まらない速さでお姉さんに向かって突進したり、爪で引き裂こうとしたり噛みつこうとしてくる。

 それを、お姉さんはずっこけたり足を滑らせてバランスを崩したり、顔を打った拍子に痛がりながら地面を転がり回ったりして紙一重で回避している!

 

 ……コレ、狙ってやってるのかしら。

 それともドジ踏んだり痛みにのたうち回ったりしてるのが、たまたま奇跡的に回避する形になっているのか。どっちにしてもすごいわ。



『グルッ……!!』


「ちょちょちょ!? えええなにそれ待って待って!!」



 唖然としながら眺めていたら、黒い獣の周りに炎の玉が漂い始めた。

 あれは……まさか、攻撃魔法!? 動物が魔法なんか使えるの!?

 あのままじゃお姉さんが……! くそ、防がないと!



「ちっ……!」


「うわわわわ!? ぽ、ポエルちゃん……!?」


「伏せてじっとしてて! 下手に動いたら守り切れないわよ!」



 お姉さんへ向けて飛んでくる炎を、訓練場に置いてあった大盾で防いだ。

 重い……! 盾に着弾するたびに、すさまじい衝撃が襲い掛かってくる!



「す、すごい音してるんだけど……! ポエルちゃん、大丈夫なの!?」


「このくらい、どうってことないわよ……! いいから、そのまま伏せてなさい!」



 一発一発がヒグマの体当たりを思わせるほどの爆発力。

 私じゃなかったら、盾ごと吹っ飛ばされてお陀仏でしょうね。


 でも、受け切れないほどじゃない。

 これくらいなら何十発だろうが耐えられる。


 魔法は『魔力』を消費して放つ術だ。

 魔力が無くなれば、魔法を撃つことはできなくなるはず……っ!?



「っ……盾が……!」



 まずい、何度も受けているうちに盾がひしゃげてきた。

 鉄製の頑丈な盾でも、これだけ強い衝撃だと耐え切れないみたいだ。

 このままだと、私より先に盾が壊れてしまう!


 防ぎ続けていても、盾が壊れた時点でやられるだけだ。

 ……仕方ない、こうなったら多少の傷は覚悟のうえで反撃するしかない!



「お姉さん、立って! すぐに後ろに向かって走って!」


「え、え? ええ……?」


「いいから早く!」



 盾が原型を留めているうちに突進して、魔物の矛先を私に集中させてお姉さんを逃がしつつ接近を試みた。

 剛力の加護があれば、盾で受け切れなくなっても致命傷にはならないだろう。多分。

 魔法でやられる前に、接近して殴り倒してやる!



 お読みいただきありがとうございます。

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