プロローグ
現状未完結のを放っておいて新作書いてる罪悪感。
あとがきにおねロリ(AI絵)あり。苦手な方はブラウザバック推奨。
雪が積もっている山道から、民家のものと思しき煙の立つほうへ歩き続けている。
もうずっと、何時間も。
寒い。いつもの木こり用の作業服しか着てないし、防寒着が欲しい。
この格好のまま進むのはまずい。風邪ひくくらいで済めばいいけど、これ以上長引くようなら最悪凍え死ぬかもしれない。
未成年が飲酒うんぬん言ってる場合じゃないし、お酒でもあればある程度誤魔化せるかもしれないけど……そもそも森の中だし、そんなに都合よくお酒なんて手に入るわけないか。
あと、食料もない。
ポケットへ入れておいた、おやつ代わりのトウモロコシくらいしかない。
食べて元気を出すにはあまりにも心許ないけど、食べられそうな木の実とかはあたりには見当たらない。
……疲れた。
さっきから何度か山賊に襲われて、返り討ちにするたびに体力を消耗している。
アジトが近いのかしら? まったく面倒な……。
どいつもこいつもあんな薄着でよく動けるもんだわ。防寒具の足しにもなりゃしないし臭い。
あとどれだけ歩けばあの煙の下まで辿り着くんだろうか。
無事に着いたとしても、お金がないからどこかに泊めてもらえるかどうかも分からない。
最悪な状況だわ。どうしたもんかしら。
でも、弱音なんか吐いてられない。
私がしっかりしなくちゃ、なんにもならない。
私のやるべきことはただ一つ。
『お姉さん』が死なないように守り抜くこと。
この人は命の恩人だ。
それに……このお姉さんは、もしかしたらこの世界の希望なのかもしれないのだから。
『グジャァアアアアアッッ!!!』
「びゃぁあああっ!? ポエルちゃん助けてぇぇぇええ!!」
……その、世界の希望かもしれないお姉さんですが、現在なぜかデッカいクマに追い回されています。
「って、アンタ何やってんの!?」
「く、クマがいたから追っ払おうとしたんだけど、逆にこっちに寄ってきちゃったのぉおお!!」
「ああもう! 分かったからさっさと下がりなさい!!」
どう考えても手ぇ出しちゃダメなヤツでしょうが! 死にたいのアンタは!?
『グジャァアアッ!!』
「ふんんぬぁああっ!!」
『ガッ!?』
大急ぎで割って入り突進を受け止めて―――
「うらぁああッ!!」
『ゴガバッ?!!』
背負っていた斧でクマの首を刎ねた。
「こ、こ、怖かったぁ……!」
「……私はアンタの危機感のなさが怖いわ。いい? こういうヤバそうなのがいたらすぐに私に声をかけて。アンタじゃどうしようもないことくらい分かるでしょう」
「はーい……」
まったく、肝が冷えたわ。
……まあ、防寒具と食料が乏しい状況だったから、熊の肉と毛皮が手に入って結果オーライだったけど。
「おお? このお花、ランプみたいに光っててキレイだねぇ……あれ、なんか、せかいがまわってりゅぅ……?」
「バカ、それ泥酔花じゃないの!? 早く離れなさい!」
クマを仕留めて解体して毛皮と肉の一部を手に入れて、ようやく一段落ついたかと思ったら、今度はそのへんに生えてた危険植物に近付いて死にかけていた。
泥酔花には迂闊に近付いちゃダメだなんて子供でも知ってるわよ? バカなの?
「あぅあぅあぅ、アタマがクラクラする~」
「泥酔花の光を見た生き物は徐々に血がお酒に変わっていくのよ。すぐに目を瞑れば大丈夫だけど、光を長く見続けてると酔い潰れてそのまま肥料にされるから気を付けなさい」
「は~い。えへへ~、なんかいいきぶ~ん」
千鳥足で歩くのはやめなさい。……仕方ない、酔いが冷めるまで少し休みましょうか。
っていうか、この人酔っぱらうのね。お酒が弱点だなんて知らなかったわ。
……光を見ないように採取すればいいお酒の材料になるし、花をそのまま食べればちょっと酔うけど体温が上がる有用な花だ。いくつか摘んでいこう。
「ねぇねぇ、こっちにいい宿屋さんがあるんだって。誰もいない山かと思ったけれど、近くに村でもあるのかな? いやー助かったねー」
「安くしとくよぉお嬢ちゃぁん。そっちの小さい子もオレ好みで ゴホゴホッ、……とにかく、こっちへ来なよぉ」
「……その客引きの腕に巻いてある赤い布、さっきから襲ってくる山賊が着けてるものにそっくりなんだけど……」
酔いが冷めてしばらく歩いてたら、どう考えても怪しい勧誘に引っかかりそのまま攫われそうになったりもしていた。
……とりあえず山賊は駆除してしまって、路銀の足しになるものをもらっていくとしましょうか。
「ず、ずびばぜんでじだ……! もうゆるじでぐだざい……!」
「せ、せめて、そのデッカいのをひと揉みだけでも ゴヘァッ!?」
「おー……すっごい飛んだねー……」
「無駄口叩いてないでさっさと寄越しなさい。それともコイツみたいにぶっ飛ばされたい?」
「は、はいぃ……」
「……この幼女怖すぎだろ……」
声をかけてきた山賊をボコってアジトまで案内させて、金目のものを根こそぎいただいてきた。
どいつも錆びた貧弱な武器しか持っていなかったから楽勝だったわね。
「あぅあぅ、山賊さんたち怖かった……」
「知らない人から声をかけられても迂闊にホイホイついて言っちゃダメよ。ただでさえアンタ無防備なんだから」
「うかつ? むぼーびってなに?」
「……はぁ~~~……」
きょとんとした顔で頭痛がするような返しをしてくるお姉さんに。思わずため息が漏れてしまった。
なに? この人、野生に放たれた家畜かなんかなの? むしろ加工済みの食用肉か? 警戒心のかけらも感じられないんだけど。
そろそろ胃に穴が開きそう。今日だけで何回死にかけてるのこの人。
なんでこんな足手まといと一緒に旅なんかしているのかしら。
もう今すぐどこかに捨てて帰りたいくらいなんだけれど、そうもいかない。
この人を放っておいたら一時間後くらいには死んでそうだし。
こんなどうしようもない人でも、一応恩人なんだから守らなければ。
まあ、現状の問題はおおむね解決できたし、さっさとあの民家のものらしき煙の下に行くとしましょうか……はぁ……。
~~~~~
ことの始まりはおおよそ半月前。
いつものように森の中で薬草採取をしていた時から。
お母さんの病気が少しでも良くなるように……いや、少しでも楽になってほしいから、痛み止めになる薬草を持って帰ろうとしていた。
お母さんは重い肺の病気にかかっていて、毎日血の混じった咳を吐いていた。
私の前ではつらそうな顔を見せようとしないけれど、日に日に痩せこけていくお母さんを見ていると、もう長くないことが嫌でも分かってしまう。
なんで、なんでお母さんがこんな目に合わなければならないのか、誰に問えばいいのかも分からずただ理不尽な運命を呪うばかりだった。
お父さんはお母さんの病気を治せる医者や治癒師を探し回っているけれど、まともに治療できる人はいまだに見つかっていない。
遠くの地方ならもっと優秀な医者がいるかもしれないけど、遠方からここへ来てもらおうにも時間がかかりすぎる。
こっちから伺おうとしても、遠出に耐えられるほどの体力がもうお母さんには残っていない。
近隣の医者の見立てだと、おそらく今月中に限界がくると言われてしまった。
「……これくらいでいいかな。早く、帰らなきゃ……」
袋一杯に詰め込んだ薬草を抱えて帰路に着く途中で、視界が滲んで足が止まった。
日に日に痩せていって、死に近づいていくお母さんの顔を不意に思い浮かべてしまって、涙が溢れてきたせいだ。
どうしようもない、どうすることもできない。
自分の無力さに歯噛みしても何も解決しない。
「……う……ぁっ……あぁっ……!」
嗚咽を漏らしながら、ただ一人泣いた。
誰も見ていないから、弱さを表に出して泣いた。
だれか……誰か、お母さんを、助け―――
「びゃぁぁあああああっ!! 誰か助けてぇぇえぇぇえええええあああぁぁあぁああああ゛っ!!!!」
!?
静かに、誰にでもなく救いを求める弱音を漏らしたところで、誰かが甲高い絶叫を上げながら救助を求めるのが聞こえてきた。
恥も外聞も感じられない必死の叫び。
というか、耳痛った!? 声がデカすぎて鼓膜が破れそうなんだけど!
さっきまでの悲しみすら吹き飛ばすほどの、地面が揺れてるんじゃないかってくらいデカい声が耳を劈いてきた。
「いやぁぁああああ゛!! 死ぬぅぅうううっ!!」
何事かと思って叫び声がするほうへ駆けていくと、誰かが何かに追い掛け回されているのが見えた。
草木が邪魔で頭くらいしか見えないけど、艶のある金髪を両側面に二つ結んでいる、なんとも可愛らしい髪型だ。
女の人みたいだけど、なんでこんなところに……?
少し開けた場所まで出たところで、追いかけっこをしている姿がはっきりと目に映った。
……って―――
「デカッ……!?」
その女の人を見て、思わず声が漏れた。
背の高さのことじゃない。いや、身長もかなり高いけれど、圧倒的に大きい立派なものが胸に二つほど実っていた。
歩を進めるたびにたぷんたぷんと大暴れしていて、凄まじい存在感を醸し出している。
片方だけでも明らかに私の頭よりデカい。なんだあれは、なんだあれは……!?
『ガァァアアアッ!!』
そしてその人の後ろには、牙と爪を剥き出しにしながら追いかけているトラの姿が見えた。
……森の中でクマやイノシシはよく見かけるけど、トラは初めて見るわ。どこからあんなの連れてきたのかしら?
「こないで! こっちこないでぇぇええ!!」
『ガゥッ! ……ガァッ?』
「わーん! 当たんなーいぃ!」
逃げながらその辺に落ちてる石や木の切れ端なんかを投げて応戦しているけど、どれも明後日の方向へ飛んでいくばかりで掠りもしない。
投げられた礫自体は凄まじい勢いだけれど、壊滅的なノーコンぶりが全てを台無しにしているわね……。
気のせいか石を投げつけられたトラも、警戒してたのにまったく当たらないから軽く困惑してるように見える。
って、呑気に眺めてる場合じゃない、あのままじゃ喰い殺されてしまう。
……仕方ない、パパっと助けましょうか。
『ガルァァアアッ!!』
「ひいぃいっ!? も、もうダメ……!!」
「……下がって!」
飛びかかってきたトラと、悲鳴を上げて蹲る女の人の間に飛び込み、前足を掴んで動きを封じた。
なかなか力強いけど、クマやイノシシに比べたら弱いわね。
『ガウッ!? ……ガァァアッ!!』
前足を掴まれて面食らったようだけど、すぐに標的を私へ変えて大口を開けて噛みつこうとしてきた。
この顎で噛みつかれたら、痛いじゃ済まないわね。
「ふんっ!」
『ゴベェッ!?』
「ぜぇいっ!!」
『ブギィっ!!』
すかさず下アゴへ蹴りを入れて口を閉じさせ、さらに頭突きを鼻っ柱へ叩き込んでやった。
人間が相手ならこれで終わりだろうけど、野生の獣相手じゃ決め手にならないか。
「はぁあっ!!」
『ガッ!? カッ……!』
怯んでる隙に背負っていた斧を振りかぶり、脳天に叩き込んでトドメを刺した。
あ、しまった。これだけ立派なトラなら頭を剥製にすれば結構なお金になっただろうけど、割っちゃった。
……いや、そこまで考える余裕がある状況でもなかったし、毛皮だけでもそこそこのお金になるからいいや。
「あ……ああ……」
獲ったトラの皮算用をしていたところで、庇った女の人が尻餅をつきながら呆然とこちらを見ているのに気付いた。
……こんなグロいもの見せられてショックなのは分かるけど、助けてあげたんだからそれくらい大目に見なさい。
なんて、気まずい雰囲気に耐えかねて顔を逸らしたところで―――
もにゅっ と、柔らかいなにかを押し付けられるような感触が、顔面に襲い掛かってきた。
「っ?!」
「わぁぁぁんっ!! ありがとうぅぅう!!」
いきなりなんだと思ったら、助けた女の人が急に泣きながら抱き着いてきた。
身長差があるせいで、顔が胸に押しつぶされる形になっていてすごい圧迫感。
「ちょ、く、苦しい……」
「ふぇええぇええ!! ごわがったよぉおお!!」
「分かった、分かったから、離れて……!」
心細かったのは分かるけど、ホントに息苦しいから勘弁してほしい。
私が男だったらこのまま窒息死しても悔いはないくらい幸せな状況なんでしょうけど、私にそっちの趣味はないから。
ものすごい包容力でいい匂いがするのは認めるけど……なんか、心地よくて眠くなってきた……。
いや単に酸欠で意識が遠のいてるだけだコレ。ガクッ……。