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自動販売機.

作者: つなまお

駅から徒歩7分 大通りを抜け住宅街に入った狭い通路で僕は働いている。人通りの少ないこんな道に僕を配備したって売上を見込めないのに...そう思っていた時前から女性が歩いてきた。この場所には似合わない綺麗な女性が僕の前で止まる。透明感のある肌、サラサラとした光沢のある髪、街を歩けば誰もが振り返えってしまうほどの美貌だ。僕はこの女性を知らない。彼女が社会人なのか学生なのか、何のためにこの道を使うのかも僕は知らない。だけど僕だけが知っていることがある。彼女は毎日この時間この場所で缶コーヒーを買うのだ。ただそれだけの事なのに僕だけが知っていることがあるということがたまらなく嬉しい。知らず知らずのうちに僕は彼女に魅入ってしまっていた。


今日も彼女が来た。いつもと同じ時間、いつもと同じ場所。見慣れた光景のように見えるが今日はいつもとは違った。何故なら彼女は男と歩いていたからだ。彼女はその男と話しながら歩いていた。表情はいつも通りクールだが、心なしか安心しているように思える。彼女の声を初めて聞いた。透き通った綺麗な声だ。初めて声を聞いたのに僕は嬉しく思えなかった。僕はただの傍観者。彼女のそばに入れるわけはないのに何を期待していたんだろうか。

彼女が僕の前で止まる。そしていつもと同じ缶コーヒーを買いその場を後にした。話をしている彼女を僕はただ見送ることしか出来なかった...


翌日になっても僕の心は晴れなかった。

こんなモヤモヤした気持ちは経験したことがなかった。

彼女のどこに惹かれたのか?外見はもちろんだがそれだけでは無いような気がしていた。彼女のことを知らないはずなのに昔から知っているような気がする。そんなわけは無いのに..そんなことを考えていたら前から彼女が歩いてきた。彼女の顔は暗く、いつもより元気がなさそうに見えた。そんな彼女を心配しながら僕の前まで来るのを待った。僕の前で止まった彼女はしゃがむと僕に話しかけた。

「おかしいよね。あなたはもうここには居ないって分かってるのにここに来ちゃうんだ。最後にここで飲んだコーヒーの味が忘れられなくて...あなたがいなくなって1ヶ月たったよ。毎日ここに来てあなたを思い出す。あなたがまた笑って私にコーヒーをくれるんじゃないかって、そんなわけないのにね...」

そう言うと彼女は涙を流す。僕に言っている言葉だけどそれは僕に言っていなかった。

何となくわかっていた。彼女がこの場所で大事な人を思い続けていることを。そしてこの場所に長くいたからか。彼が彼女に思っていることも分かった。もう全て終わりにしよう。みんな前に進もう。そう思った時頭の中で「ありがとう」と聞こえたような気がした。怒られることはしてきたけど感謝されることはしてないんだけどな...

泣き疲れた彼女は立ち上がりまた来るねと言いその場を後にした。僕は決心した


次のニュースです

○○県○○市の路地裏でストーカー行為をしていたと自供する男を警視庁は逮捕しました。容疑者の話によると自動販売機の後ろに隠れ女性を覗いていたと供述しています...


今日も変わらず僕は働いていた。相変わらず売れ行きの良くない僕だが1部の層からは人気があるみたいだ。特に毎日缶コーヒーを買ってくれる彼女は僕の大事な人だ。今日も彼女が歩いてきた。また缶コーヒーかな?など想像していると彼女は僕の横に目をやる。そこには折りたたまれた白い紙が置いてあった。その紙を彼女は手に取り開く。書いてある文字を読み進める彼女。その目からは涙がこぼれていた。何度も何度もその紙を読み返し、最後には大事そうにカバンに入れた。彼女は立ち上がり僕の前に止まる。いつもと同じ缶コーヒーを買い彼女は僕を後にする。ここで缶コーヒーを買う、そんな些細なことだが僕だけが知っていることがあるということがたまらなく嬉しかった。そして彼女がもう来ないことを少しだけ寂しく思った。


心地いい日光を浴び、階段をおりる。

リビングを見ると朝食が出来ていた。椅子には先に兄が座っていた。その前の席に座ると兄が話しかけてきた。

「もうあの場所に行かなくていいのか?」

「ありがとうもう大丈夫。時々感じる視線の正体もわかったしね。あんなとこに居たなんて、あの人が亡くなった場所でほんと最悪だよ...それにあの人が前に進んで欲しいって言ったの。忘れられないけどね...だから前に進むよ。ありがとう」

「どういう事だ?あの人は亡くなっちゃったんじゃ?」

「あの人ならきっとそう言うって思ったのよ」

「そうか。頑張ろうな」

「うん。ありがとう」

そう言い終わると彼女はコーヒーを口元に運んだ

ここまで読んで頂きありがとうございます。

登場人物は5人で 彼女 兄 (ストーカー) 僕(自動販売機) 僕(亡くなった僕)です笑

自動販売機と亡くなった僕は別人(自動販売機の横にいる)という設定で書いたのですが、自動販売機に新しく生まれ変わった、魂が入ったという考え方もできるなと思ってます...ありがとうございました

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