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二つの道

 『次』と言った気持ちが伝わってくれるだろうか。俺を頼って欲しいという気持ちは、ここで終わりでは無い。この先も、ロイダが頼りたい時に助けてやれる場所にいたい。いさせて欲しい。


 ハンカチで涙を拭いてやるが、後から後からこぼれ出て来る。ロイダは小声で遠慮がちに聞く。


「アーウィン様、ご自分の国に帰りますよね」

「そうだな。居場所がばれてしまっただろうし、迎えが来るだろうな」


 ここからが本題だ。俺は集中しようと椅子の背に寄り掛かって天井を見つめた。


ドン、ドン、ドン。


 訪問者だ。侯爵家では無いと思うが、警戒しながら扉を開けると、王宮から俺を呼びに来た使者だった。


(大事なところなんだ、邪魔をするな)


 苛立ちながら追い返す。ここからは失敗出来ない。話の流れを頭で組み立てて、大きく深呼吸した。


(いくぞ)


 慎重に話を切り出した。


「サジイル王国は知っているか?」

「はい、港町にいた頃に、サジイル王国から来る船を多く見かけました。この国と関係が深いと学校で習いました」

「その通りだ。俺は、そのサジイル王国の第一王子だ」


 衛兵に名乗った時も、今も、彼女はさして驚いた様子を見せない。態度も全く変わらない。涙が残ったままの瞳で心配そうに聞く。


「家出と言うのは?」

「本当だ。王位を継ぐにあたり、乗り越えられない問題があって逃げた。誰にも何も言わずに国を出て、すぐに君達に出会った」

「では、半年以上も行方を知らせていないのですか」

「ここからサジイル王国まで、早馬を飛ばすか船で知らせを出すか、早くても往復で十日はかかるだろう。あんなにすぐ、王宮から迎えが来たと言う事は近隣国に手配書が回っていたんだろうな」

「手配書!」

「まったく大げさだよな」


 正直なところ、どういう状態になっているのか全く推測出来ない。未だかつて国の要人がこんな風に姿を消した事は無い。父に相当な心労を掛けている自覚はある。


(帰ったら、ひどく叱られるだろうな)


 想像するだけで気が重い。深いため息が出る。


「では明日、王宮に行って、そのままサジイル王国にお戻りになるんですね」


 ロイダの瞳からまた涙が溢れ出す。俺が去る事を悲しんでくれるその気持ちで胸がいっぱいになる。しかし喜んでいる場合ではない。慎重に話の道筋を、俺が思う方に誘導しなければならない。


「泣くな」


 テーブルを回ってロイダの隣に座り、溢れる涙を拭いてやる。


「事態はそう簡単じゃない」

「え?」

「衆前で馬鹿どもが『侯爵家』を連呼したんだ、今日の事は王都中で噂になるだろう。侯爵家は体面を汚されたと思うだろうな」


 彼女にも容易に想像できたのだろう。青い顔をして頷いた。


「俺がこの国にいるうちは、彼らは君に手を出さないだろう。でも、俺が去った後はどうなると思う?」

「体面を保つために、私をまた連れて行こうとしますか?」

「もしくは、逆らった者に対する見せしめとして、もっと酷い事を考えるかもしれない」


 脅し過ぎかと心配になるが、この国の有力者は人を軽んじる傾向がある。現実は彼女が想像する以上に酷い事態にもなりかねない。彼女にも想像がついたのか、顔色が更に白くなり子犬のように震えている。


「ロイダ。ほら、もう一度手を出せ」


 もう一度、ロイダの両手を包み込んだ。手先が冷たくなってしまっている。俺の気持ちが伝わるように心を込める。


「王都にいるのは危険だ。それは分かるな? そうすると選択肢は二つだ」

「はい」

「一つは、ここを離れて違う土地に逃げる」

「元の港町は⋯⋯駄目ですよね」

「侯爵家も体面にかけて探し出すだろう。君達を王都から追い出して満足するような連中だとは思えない。そうなると、相当遠くに行く必要があるし、生涯、怯えて暮らす事になる」

「はい」


 ロイダは想像したのだろう、沈鬱な表情になる。恐らくこの選択肢は選ばないだろう。そう思いたい。

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