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僕の新しい妹

 兄上と一緒に外国からやって来たのは、はちみつ色にぴかぴか光る女の子だった。


 その子は、兄上の結婚相手だという女性と一緒に窓から夢中で庭を眺めていた。靴を脱いでいすに上り、いっしょうけんめい背伸びをして窓にくっついている。黄金よりも美しいさらさらした髪の上で光が踊っていた。


「ねえ、何見てるの?」

「きゃあ!」


 声をかけると、その子は驚いてぐらつき、いすから落ちそうになった。あわてて支えると、大きな宝石のような目がぴかりと僕に向けられた。


 胸の真ん中がとくんと大きく動いた。


 その子は、僕がいつも遊ぶ子たちとは少し違っていた。他の子だったらすぐに機嫌を悪くするような嫌な事があっても楽しそうに笑う。『困っちゃったね』言いながら、ぜんぜん困っていない顔で楽しそうにする。


 侍女が失敗してお茶をひっくり返した時も、汚れたドレスを見て『お姉さまはお茶の染みを刺繍で隠すのが上手よ』とにこにこ笑い、泣きそうな顔をして謝る侍女に、どんな花の刺繍がいいと思うか聞いていた。


 僕の事を怖がったりもしない。僕が嫌な顔をすると、他の子は怯えたり、とっても謝ったりする。その子は『そんな顔しないで?』と大きな目をぴかりと光らせて、僕の顔をのぞきこむ。それを見ると、僕の嫌な気持ちはふんわりと、どこかに消えてしまう。


 僕は分かった。兄上は優しい人だったけれど、いつも機嫌の悪さを頑張って隠しているように見えていた。兄上の事を気難し屋と呼ぶ人もいた。でも、旅から戻って来てからは、いつも心から楽しそうに笑うようになった。


(あの子と、あの子のお姉さんのおかげだ)


 僕もあの子とずっと、ずっと、ずうっと一緒にいたい。


 ホーソンに聞いてみた。


「兄の結婚相手の妹は、僕にとって何になるの?」


 ホーソンは、困った顔をした。


「妹か姉ですよ。⋯⋯殿下、ヨーナ様の事ですね? あなたよりも誕生日が遅いでしょう。だから妹になります」


 そうか。妹か。ちょっと待てよ。


「ねえ、妹って結婚できる?」


 ホーソンは大きくため息をついた。『誰も彼も面倒なことばかり言って』ぶつぶつ文句を言っている。


「ヨーナ様の事ですね。血が繋がった妹は結婚できませんが、あなたとヨーナ様の間に血の繋がりはありません」

「じゃあ、結婚出来るって事?」

「⋯⋯出来ますね」


 喜ぶ僕を見て、ホーソンはますます困った顔をした。


「ねえ、僕は何歳になったら結婚できる? あ、婚約なら今すぐ出来る?」

「殿下。それは、もっと大きくなってから考えましょう。えっと、そうですねえ。あと五年待ちましょうか」

「嫌だよ!」


 ヨーナはとってもとっても可愛い。昨日、僕の遊び相手になってくれている友人たちが来た時の事だ。何人かが、ヨーナにまとわりついて離れなかった。奴らがヨーナが好きそうな話題を探してヨーナのご機嫌を取るものだから、素直なヨーナはにこにこと可愛い笑顔を奴らに見せてしまっていた。あの調子だと、ますます付きまとわれるに違いない。


 僕は思った。ヨーナが僕と結婚するって早くみんなに知ってもらわないと。ヨーナはこんなに可愛いのだから、みんなが好きになるのは当然だ。


「殿下⋯⋯。ヨーナ様は何と言っていますか? まずはご本人の気持ちを確かめないと。それに、もっと大きな問題がありますよ」

「何?」

「アーウィン殿下です。ヨーナ様のお父様のような気持ちでいらっしゃいます。アーウィン殿下が認める男性じゃないと、ヨーナ様を獲得出来ませんよ」


 そうなのか。兄上が認める男性。


「どうやったら兄上が認める男性になれる?」


 ホーソンは少し嬉しそうな顔になった。


「まず、勉強でしょうね。好きな科目ばかり勉強しないで、全ての科目を完璧に学ぶべきでしょう。それに、武術も大切です」

「うん、うん」

「それから、礼儀作法、あと大切なのは好き嫌いをしないで何でも召し上がる事です」

「好き嫌いも関係あるの?」


 ホーソンは真面目な顔で言う。


「大いにありますよ。栄養が偏ると成長も滞ります。アーウィン殿下のように背が高く立派な体格になりたいでしょう」

「なりたい」

「では、好き嫌いは止める事ですな」


 なるほど。僕はトマトが嫌いだ。でも今日からは全部食べる。料理長にも僕の皿からトマトを除かなくていいと言わなければ。


 そうすると、後はヨーナが結婚してくれると言えばいいだけだ。


(ちょっと待って。兄上はロイダさんに結婚してもらえなくて困っていなかったっけ)


 兄上の必死な姿に、父上も母上も呆れていた。あの兄上があんなに苦労していたのだから、もしかして、とっても難しい事なのかもしれない。

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