戦い方
講義を終えると、妖魔と若葉はそれぞれ別の講義があるためそこで別れた。
若葉と別れると途端に妖魔に向けられていた嫉妬の視線が少なくなる。しかし、なくなるということはない。
妖魔が先ほどとは違い、今度はちゃんと存在している視線に肩をすくめながらその日の講義を全て終わらせた。
講義を終えた妖魔がマンションに帰ろうと自分の車に乗り込みエンジンをかける。そのまま大学の駐車場を出て大学前の大通りに来ると、そこでなんとなく今日の日付を確認し慌てて車の進行方向をマンションから別の方向へ変えた。そのまま数分間運転し、大学から車で8分ほど離れた場所にあるスポーツジムへとやってきた。
駐車場に車を止め中に入ると、広々とした施設内にたくさんの筋トレ器具やマシンが並んでいる。その中でも特に存在感を放つものがあった。それは、そういった筋トレ設備の奥にある様々な格闘技に利用できるリングである。このジムは元軍人のケリー・ローランドというロシア人トレーナーが個人経営しているジムであり、ここでは様々な筋トレ器具やマシンが利用できる他、ケリーからシステマという格闘技を習うことができることから、創業当初からかなりの賑わいを見せていた。
妖魔も4年前からシステマを習得することを目的に通っており、2年前には既にプレミアム会員にまでなっていた。
いつも通り受付で入場手続きを済ませ、受付のすぐ近くにあるロッカールームで着替えを済ませると、妖魔は早速リングのところへ向かった。
妖魔がリングの前まで到着すると、それに気づいたケリーが満面の笑みで妖魔に話しかけた。
「よぉ橘。今日もいつも通りやっていくのか?」
「いや、今日はいつもより厳しめで頼むよ。いつもよりも体力が有り余ってるからさ。」
「そうか?なら、久しぶりに俺とやってみるか!お前がどれだけ強くなったかも見てみたいしな。」
「わかった。じゃぁ、今日はよろしく頼むよ。」
会話を終えると、妖魔はいつもよりも入念なウォーミングアップを始めた。
昨日の妖怪との戦闘で、妖魔は自身の力不足を痛感した。それと同時に、実力不足も痛感させられた。いくら相手がどのような力を持つかわからない妖怪とはいえ、防戦一方といった状況になってしまっていたのは事実であり、それは力不足というよりも、妖魔の実力不足というより他なかった。
ウォーミングアップを終えた妖魔がいつものように基礎練を終えると少し休憩してからリングの中央でロシア人トレーナーと向かい合った。周囲には二人の試合を一目見ようとギャラリーが出来上がっており、二人からは異様な緊張感が漂っていた。
この試合には審判はおらず、二人が決着はついたと思うまで続く。
お互いに構えをとることなく、間合いを図りながら円形に回り歩き続ける。沈黙が短い間続いたのち、妖魔が仕掛ける。
4年間続けたことにより洗練されつつある軽やかなステップで相手の間合いに入る。そのまま必要最小限の動きで渾身の突きを放つ。しかし、それはいとも簡単に受け流され、逆にその流れに沿ってカウンターが放たれる。それを避けきることができないと判断した妖魔は最小限のダメージに抑えるために受け身をとる。それでも、妖魔よりも倍以上の年月を経て完全にシステマを習得しているケリーの攻撃の威力は相当なものがあり、それを受けた妖魔が大きく顔を歪める。そのまま妖魔は少し後ろに突き飛ばされる。その隙を逃さずにケリーがすぐに距離を詰め追撃を繰り出す。一撃でもかなりの威力を持つ突きや蹴りが連続で繰り出される。妖魔はその攻撃を何とかいなしながらも反撃の機会を伺い続ける。しかし、何度も繰り出される連撃には一切の隙が無く、防戦一方の状態が続く。
「(このままじゃジリ貧だ...これ以上このまま守り続けるわけにはいかない.....こうなったら一か八か......)」
妖魔が攻撃を受けるのを覚悟で前に一歩踏み込む。それを見たケリーが妖魔の行動を不審に思いながらも攻撃を警戒して攻撃している手を止める。その瞬間、連撃からできた僅かな隙を逃さずに、妖魔が踏み込んだ足を地面を後ろに蹴り後方に大きく後退する。
そこで二人が再び対峙した。
少年とケリーの試合を麒麟は霊体化しながらリング脇で見ていた。
昨日、少年と妖怪の戦いを目撃していた麒麟は、戦闘中の少年の体裁きや攻撃の受け流し方などから、少年は実戦向きの戦いに慣れているように感じていた。
近年、実戦向きの戦い方の需要は完全になくなりつつある。戦争が終結し、争いそのものが悪とされるようになり、人と人との戦いは、命を奪う殺し合いから互いの力量を比べる試合に変わった。それにより、最小限の動きで相手を無力化し制圧する実戦向きの戦い方よりも、相手の安全や見栄えの良さなどが重視された戦い方が広まった。それは、いくら実戦向きの戦い方とはいえ、自身の身を守るための最低限の護身術までしか一般には出回らないほどには一般化している。そのため、昨日の少年のように、相手を制圧するための戦い方は学ぼうとしても学ぶことが極めて難しい。
しかし、目の前で繰り広げられているのは、広く一般化した、言ってしまえば安全な戦いではなく、自身の身を最優先にした実戦的な戦いである。
それを見ながら麒麟が思案する。
「(戦い方がかなり実践的だとは思って見ていましたが、これほどまでのものとは...、あれほどの実力者に教えを乞うているのであれば、あそこまで戦うことができていたことにも納得です。しかし、こうなってくると問題は.....)」
麒麟の目的を果たすためには、実戦において素人であっては困る。その点では、少年は既に麒麟の中での及第点を大幅に超えるほどの実力を持っている。
しかし、昨日の戦いを見ていた麒麟にはまだ無視することができない懸念が残っていた。
少年が及第点を大幅に超える実力を持っていることを確認し、懸念が一つ解消されたことに安堵した麒麟は、まだ残っている懸念を解消するために目の前で繰り広げられている試合から昨夜目撃した戦闘に意識を切り替えた。
目まぐるしい攻防を繰り広げては後退し、再び対峙するということを何度か繰り返した後、息を切らし始めた妖魔は、未だに呼吸が乱れていないケリーを見て、眉をひそめた。何度もそのようなことを繰り返しているため、最初のように防戦一方といった状態になることはなくなってはいたが、それでもケリーは軽々と攻め込んでくるのに対し、妖魔はなかなか攻めきれずにいた。
「(クッソ!あれだけやってまだ息切れ一つないのか...流石ケリーだな.....。できれば使いたくなかったが、逆にちょうどいいかもな.....。)」
そう考えた妖魔は脱力したまま直立した状態から、腰を落とさずに足はリラックスさせたままで両手を体の前に構える。
それを見たケリーは首を傾げる。システマには今の妖魔のような体制をとる型はない。警戒を強めながらも、今度はケリーから距離を詰める。流れるような動きで妖魔の左足を狙った下段蹴りを放つ。しかし、それは妖魔の左足で受け止められた。
ケリーの下段蹴りを左足で受けた妖魔は、そのままガラ空きになったみぞおちへ、下段蹴りを受けた左足で蹴りを放つ。下段蹴りを受けられたままカウンターを繰り出されたケリーは、それに対処しきることができずにみぞおちへ蹴りを受ける。妖魔はその勢いのまま追撃でドロップキックを放つ。しかし、ギリギリでかわされるどころか、両足を掴まれて遠心力で投げ飛ばされてしまった。
受け身をとることができずに背中を思い切り床に打ち付けた妖魔は痛みに顔を歪ませながらすぐに立ち上がろうとする。
しかし、立ち上がろうと顔を上げると、既にケリーが目の前まで来ており、自分に向かって自分の倍はある大きさの拳を振りかぶっていた。
避けられない。
拳が振り落とされる一瞬の内にそれを理解した妖魔は、自分の顔面に向かって迫って来ている拳を見ながら呆然とした。
拳が目の前まで来たところで衝撃に備えて目を瞑ると、拳はそこでピタリと止まった。
来るはずの衝撃が来ないことに困惑しながら妖魔が目を開けると、先ほどまでは鬼気迫るような表情をしていたケリーが勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
「俺の勝ちだな。」
ケリーのその言葉を皮切りに二人の試合が終わった。
試合が終わると同時に周囲に流れていた異様な緊張感も一気に緩む。
「ほら、みんなもいつまでも見てないでトレーニングに戻った戻った。時間内に帰らない奴からは容赦なく延長料金を貰うからな。」
ケリーがみんなに聞こえるように大きな声でそう言うと、試合を見ていた周囲の人たちは、未だに覚めない興奮とあるはずのない疲労を感じながら親しい者と談笑をしながら自分のトレーニングに戻っていった。
それを確認したケリーは、足元でへたり込んでいる妖魔に手を差し伸べて立ち上がらせると、誇らしそうな笑顔で妖魔を見つめた。
「いやー、強くなったな橘。まさかこの俺があんなに強烈な一撃を貰うとは。」
ケリーはしみじみと感傷に浸りながらうんうんと強くうなずいた。
ケリーは現役の軍人の時から格闘技においては特に高い実力を誇っており、同僚や上官にもあまり攻撃を受けたことが無かった。軍を抜けてからは彼らのような所謂戦闘のプロと戦うことが極端に減り、ケリーが攻撃を受けることは全くなくなった。
だからこそ、先ほど妖魔から受けたみぞおちへの蹴りは、痛みだけではなく、精神的に強い衝撃を受けた。それと同時に、それほどまでに強くなった妖魔に、強く育てることができた自分にとても満足していた。
先ほど軽々と投げられてしまい、そこから一瞬で勝負をつけられてしまった妖魔は、褒められているはずなのに、なぜだか全くそんな感じがせず、微妙な顔をした。
「まぁ、流石に4年もやってて一撃も入れられないんじゃ、やってる意味がないからな...。」
それから先ほどの試合についてお互いに感想を言い合った。
基本的にはケリーが妖魔を褒めて、妖魔がそれに微妙な顔をしながら受け答えをするといった感じで話が進んでいった。
そんな中でいきなりケリーが笑顔を消し、真剣な顔で妖魔を見つめる。
「最後のやつ、あれはムエタイだな?」
ケリーが先ほどまでのような上機嫌な様子から一変し、真面目な口調でそう告げると、妖魔は表情を硬くしながら目を逸らした。
しかし、すぐに観念したように向き直ると、おずおずと口を開く。
「さすがだなケリー。まさか完全に対処されるだけじゃなくて、こんなに早くバレるとは...。正直言って、変に自己流にアレンジするなと怒られるだけだと思ってた。」
それを聞いたケリーは真剣な表情を崩して今度は得意げな笑顔を妖魔に向ける。
「当たり前だろ。これでも俺は元軍人で戦闘のプロだ。この世界に存在している格闘技はほとんど全部知ってるんだよ。それに、自己流にアレンジすることに関しては俺はむしろ大賛成だぞ。何が一番やりやすいか、自分に一番合っているかは人それぞれだ。システマがあっているとは限らないし、下手したらこの世界にある格闘技全部合わない奴だっているかもしれん。俺のような指導者や俺の師匠の教官なんかは、戦う上でのヒントを与えはするが答えを与えているわけではないんだ。そういう意味では、戦い方に正しいも間違いもないんだよ。」
そんなことを途中から表情を真面目なものに変えて話すケリーに対して、妖魔は目を丸くして唖然としていた。その驚きから、脳を介さずに驚愕をそのまま表した言葉が漏れる。
「驚いた。まさかケリーがそんなためになる話をすることができるなんて...」
妖魔は本当に呆気にとられた様子でケリーを見続けている。
それに対しケリーは心底心外そうな顔を妖魔に向ける。
「おいおい、お前は俺のことをなんだと思ってるんだよ?俺だって大人で元軍人である以上、それなりに人生経験豊富なんだぞ?少なくともまだ学生のお前よりは遥かにな。」
今までケリーとはトレーニングや筋肉のことなどしか話したことがなかったため、なんとなくケリーに相談事は無理だろうと妖魔は考えていた。しかし、それを軽く覆されてしまった衝撃に、妖魔はその後のトレーニングメニューに中々身を入れることができなかった。
今日のメニューを終えると妖魔はいつも通りケリーに軽く別れを告げてジムを出る。そして車まで戻ってきた妖魔は、なんとなく何かを忘れているような気がしてジムの方に振り返る。だが何も思い出すことができなかった妖魔は気のせいかと首を傾げて車に乗り込む。
そこで不意に頭の中に声が響いてくる。
『あまり年上の者を舐めてはいけませんよ。一見頭の悪そうに見える者でも、あなたよりも頭の良い者などこの世界には幾らでもいるのですから。』
なんとなく慣れ始めてきた感覚に妖魔がようやく忘れていた者を思い出す。
そして呆れを混ぜた表情をその者に向けながら口を開く。
「お前は一々俺に突っ掛かってこないと気が済まないのか?それとも人の粗探しが趣味なのか?」
『そのような趣味はありませんよ。先ほどのあなたの言動はあまりにも非常識でしたので言わせていただきました。』
まるで人間のような口振りの麒麟に、妖魔は大きなため息を吐きながら車のエンジンをかけた。
今日のメニューを終えロッカールームに着替えに行こうとしている妖魔に、ケリーは真剣でどことなく心配そうな目を向けていた。
そこにジムの受付で修理業者と電話していた若い女性職員がやって来る。女性職員はケリーの視線の先にいる人物を確認すると、またかといった風に小さくため息を吐きながら仕事の話をするためケリーに話しかける。
「ケリーさん、業者に頼んでいたマシンの修理が今週末には終わるようです。それで修繕費の請求が来てるんですけど、また請求金額が1割ほど高くなっています。やっぱり別の修理業者を探したほうがいいでしょうか?」
「......あぁ、そうだな。」
ケリーは一応返事をしたが、その言葉からも態度からも心ここにあらずといった様子がありありと伺えた。
その様子を見た女性職員はケリーの視線の先にいる妖魔を見ながら、話題を仕事のことから着替えを終えてジムを出ようとしている妖魔のことに切り替える。
「彼、4年前からずっとケリーさんのシステマの指導を受けているんですよね?今月彼から送られてきたメニュー予定も全部システマですし、よっぽど格闘技が好きなんですね。」
「どうだかな。なんとなくだが、あいつが鍛えているとき、楽しそうにしているより、辛そうにしていることの方がほとんどに感じるんだよな...。」
「えっ?」
女性職員はキョトンとした目でケリーを見た。
彼女に限らず、職員全員の間でメニュー予約の状況やトレーニング中の様子から、妖魔は格闘技が好きなのであろうという認識がされていた。だからこそ、自分たちの考えとは真逆ともとれるケリーの発言に、驚きと困惑を隠しきれなかった。
そんな女性職員の視線にケリーは気づかなかった。気づけなかった。それほどにケリーの意識は妖魔に向いていた。
ケリーは4年前からずっと妖魔のことを見てきた。長い間妖魔にシステマを教えてきたこともあり妖魔との仲も非常に親しものになった。
しかし、そんなケリーでも妖魔の真意は掴めずにいた。
最初は妖魔がずっと自分の指導を受けてくれることに、システマを続けてくれていることにそれほどまでにシステマに、格闘技にハマってくれたのだろうと考えていた。しかし、妖魔との仲が深まるにつれて、次第に楽しんでいるようには見えなくなった。試しに一度格闘技の大会に誘ってはみたが断られてしまった。加えて先ほどの試合で妖魔が見せたシステマとムエタイを織り交ぜた独自の体術だ。軍の訓練の一環としてケリーは今まで射撃やアスレチックといった様々な大会に出場してきた。それには格闘技も含まれており、様々な相手と戦ってきた。中には先ほどの妖魔のように色々な体術を織り交ぜて自己流に昇華している者もいたが、それは上位4名や決勝で対峙した相手などといったごく少数の猛者たちであり、それこそ世界一を目指しているような者たちだけであった。
だが妖魔にはそのような目的は感じられない。彼らが持っていたような格闘技に対する情熱が感じられない。
確かに妖魔は強くなろうとしている。大会に出ればかなりの高順位を取れるほどの実力はすでに持っている。それでも、それでは足りないと、そんなことでは何の意味もないと、そんなことでも言うかのように妖魔は今よりもさらに強くなろうとしている。
だが、その理由がわからない。妖魔が力を手に入れた先で何がしたいのかが全く見当がつかない。
妖魔のことは不愛想ではあるが良い友人だと思っている。だがそれ以上に妖魔が得体の知れない何かのように思えてしまう。
「(ダメだな。考えれば考えるだけあいつのことが信用できなくなってくる。少なくともあいつが悪い奴じゃねぇってことはわかってはいるが...、やめだ。これ以上考えても無駄だな。それに、今は仕事中なんだし切り替えねぇと.....。)」
これ以上は悪循環だ。そう考えたケリーはもうとっくに見えなくなっている妖魔から視線を外し意識を仕事に切り替える。
そこで視線を元の位置に戻すとキョトンとした目で自分を見ている女性職員と目が合い、初めて彼女の視線に、彼女の存在に気づいたケリーは柄にもなく仰天し、周囲の人たちから注目を集めてしまい、場を収めるのにかなりの苦労を弄した。
ジムを出て、マンションに帰ろうと車を運転している妖魔はかなり項垂れていた。運転しながらも時折ため息を吐いている。少なくはない頻度で繰り返されるため息に麒麟は流石に嫌気がさし、うんざりしている。
『ため息を吐いてあなたの幸せが逃げるのは私は一向に構いませんが、隣でため息を何度も疲れている私の気持ちを考えてほしいものですね。』
「一々お前の気持を考えるかよ。別に俺とお前は仲間でもなければ友達でもないんだからな。」
『随分な言い草ですね。曲がりなりにも協力関係なのですから、仲間と呼んでも間違ってはいないと思いますが。』
「仮のな!別にまだ本当にお前の取引に乗ったわけじゃない。」
麒麟に自分がまるで仲間かのように扱われていると感じた妖魔は項垂れていた表情を嫌そうに歪めて機嫌を悪くした。その様子を見た麒麟は、取引を成立させるためにも妖魔の機嫌を損ねるのはまずいと考え話題を戻す。
『話を戻しますが、あなたが項垂れている理由は大体想像がつきます。大方、妖怪を殺すために鍛え上げて強くなった自身の実力を試すためにあのケリーとか言う者と試合に臨んだのにもかかわらず、奥の手を披露したのにも関わらずすぐにやられてしまったことがショックだったんでしょうけど。』
図星を突かれた妖魔が反論することもできずにさらに大きく項垂れた。それに応じてため息もかなり大きなものになった。
実際、妖魔はケリーとの試合を通して自身がどれだけ強くなったかを確認しようとしていた。最後にケリーと試合をしたのはおよそ半年前であることもあり、自身の成長を確かめるには十分な間があったと考えていた。その時はケリーに終始圧倒されて負けており、これだけでは足りないと考えた結果、他の格闘技の技術を織り込み、短期間で自己流に昇華した。それでもケリーには一矢報いた程度で終わってしまい、当初考えていた期待値からはだいぶ離れていた。その分、妖魔のショックはかなり大きかった。
妖魔が現実に打ちのめされ項垂れている横で、麒麟は含み笑いを浮かべていた。それに気づいた妖魔が口を尖らせる。
「なんだよ?」
『いえ。ただ、別にそこまで悲観する必要はないと思っているだけですよ。確かにあなたはケリーという者に惨敗を喫しましたが、私の期待していた以上の実力は有していましたから。妖怪と戦うのであれば、あれだけの実力であれば十分に通用しますよ。』
「なんでだ?さっきのもそうだが、昨日だって別に俺は通用してたとは言えなかろ?」
言いながら妖魔は昨日の妖怪との戦闘を思い返す。最後の不意打ちを考えなければ最終的に妖魔は勝つことができたが、かなり捨て身の策を弄してようやく得られたもので、妖魔の基準ではとても通用していたようには考えられなかった。
少年の言葉からその考えを察した麒麟が一瞬だけクスリと笑うと表情を和らげる。
『それはあのケリーという者の言葉を借りるのであれば戦い方の問題ですよ。よく考えてみてください。あなたが先ほど行っていたのは、今まで鍛錬してきたのはあなたと同じ人間との戦い方です。なにもすべての生物が人間と同じように知性が高いわけではありません。どちらかと言えば、この世界には知性に乏しい生物の方が数多く存在しています。』
妖魔は麒麟の言っていることが何となく理解できるようなできないような複雑な気持ちになり、首を傾げた。
麒麟はそれに気づいてはいたが、構わずに話を続ける。
『それに、身体の形状もあなたを苦戦させた要因の一つです。人間は二足歩行で昨日の妖怪は四足歩行、その違いも戦う上では勝敗を左右するかなり重要な要因となります。四足歩行の生物を相手に二足歩行の相手を前提とした戦い方では苦戦するのも無理はありません。』
そこまで説明されてようやく麒麟の言っていることを理解した妖魔は、確かに麒麟の言うことに一理あると考えた。
妖魔自身、昨日の妖怪との戦いとケリーとの試合とで、なんとなく違う手応えを感じていた。昨日の妖怪との戦いではそこまで歯が立たなかったようには感じなかった。しかし、先ほどのケリーとの試合では、圧倒的な実力差を突き付けられ全く歯が立たなかったように感じた。その考え方によっては小さくもあり、大きくもある感覚の差異に項垂れながらも妖魔は戸惑っていた。
しかし、麒麟の説明を聞き、その時の状況をもう一度思い返すと、麒麟の推察とも真実ともとれる仮説はかなりしっくりきた。
自身が述べた仮説を聞き、先ほどまでの項垂れていた様子がなくなり、今度は満足げにうんうんと頷いていている少年を見て麒麟も満足げに微笑んだ。
自身に足りていないことが何かを知ることができた妖魔は、それをよりにもよって妖怪に気づかされたことに少々複雑な気持ちになりながらも満足し、これからに意義を高めていたが、そのこれからのことについて考えていると素朴で、重要な疑問が思い浮かんだ。
「お前が言っていることはわかったし、俺は妖怪との戦い方ができてないってこともわかったが、それならどうすればいいんだ?妖怪との実践を踏もうにも、早々妖怪に出くわす機会なんてないだろうし.....。」
自身に足りていないことはわかったが、肝心のそれを鍛えるための方法がない。
先ほどまでは自身に足りていないことが何かがわからずに頭を悩ませていた妖魔だったが、今度は足りていないことを鍛えるための手段がないことに頭を悩ませることになった。
隣で今度はかなり悩んでいる様子でうーんと唸っている少年を見ながら、麒麟は当然のことを言うかのような軽い雰囲気で口を開いた。
『それならば、妖怪がいる場所に行ってみましょう。あれほどの実力を持っているあなたであれば、妖怪との戦い方もすぐに身に着けることができるはずです。』
「は?」
あまりに軽い口調で予想外のことを言われた妖魔は一瞬思考停止しながらも、自身に足りていないことを鍛えることができるのならば、妖怪を殺すために必要なことならばと、すぐに我に返り、麒麟の案内に従って車を運転し始めた。
大学のテストが連続で来ててヤバい"(-""-)"
本編書きながらもともと用意してたストーリーとかキャラクターとか所々.....というかかなり変更しながら書いてるから前回までと話が繋がってなかったり、キャラ崩壊してたりするかもしれんけどちゃんと修正するから待ってくれ(;・∀・)
誤字・脱字はご気軽にご指摘ください( *´艸`)