表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
返礼の怪人  作者: Aimerのライブいきたかったー--(´;ω;`)
5/11

仮成立

深緑色のSUVは妖魔の近くで止まり、運転席の窓が開いた。

開かれた窓からは、妖魔が知っている人が現れた。

「やぁ、橘君。」

「及川教授...なんでここに.....?」

現れた男は、妖魔が通っている大学の教授で、妖魔が所属しているサークルの担当をしている『及川 幸樹』という若い男だった。

妖魔のサークルがバーベキューをすることになったのは、妖魔のサークルがコンテストで入賞したお祝いとして及川がバーベキュー会場を予約するのに必要な責任者を引き受け、費用を全て奢ると言ったことがきっかけだった。

「さっき大学のほうにここのバーベキュー場を経営している人から電話があってね。うちのサークルのみんなが予約していた時間を過ぎても帰る気配がないからどうにかしてくれってね。それより、橘君のほうこそこんなところで何をしているんだい?見たところかなりボロボロのようだけど...」

「俺は...その.....」

妖魔が先ほどまでのことと今の状況をどのように説明するかを迷った。

この町では心霊界隈で心霊スポットに妖怪が出るという噂はあるが、それでも観光目的や肝試しなどで心霊スポットを訪れる者が今でも後を絶たない程度には真実味が薄い噂として扱われている。だからこそ先ほどまでのことを真実を話したところで信じてもらうことができる可能性は限りなく低い。かといって、誤魔化そうにも妖魔の体にこそ傷は全くと言っていいほどないが、服は至る所が焼け焦げたり破れたりしている。何もなかったと済ませるにはあまりもボロボロであった。それに加え、隣には会話ができるとはいえ妖怪がいる。

自分ではうまく誤魔化せる気がせず、頭を抱えながら麒麟の方に視線を向けると、そこに麒麟の姿はなかった。

「(あいつ!この一瞬にどこに行ったんだ!?)」

「ご心配なく。私ならまだあなたの近くにいますよ。」

「うわっ!?」

妖魔は周囲に姿が見えない麒麟の声が頭に響いてきたことに驚き素っ頓狂な声を上げた。

「どうかしたのかい?」

「あぁいや...ちょっと目の前に虫が.....」

「そうなのかい?僕には見えなかったけど...」

「(姿が見えないのに声だけははっきりと聞こえてきやがる...及川教授には聞こえていないようだし、一体どうなってるんだ...?)」

事態が呑み込めず困惑していると、その様子を見て麒麟が少年の内心を察する。

「姿を認識することができた方がいいのであれば、これでいかがですか?」

そんな言葉が頭に響いた後、先ほどまでは麒麟がいたが突如として見えなくなっていた場所に視線を向けると、今度はきちんと麒麟の姿を確認できた。

妖魔はそれで及川にも見えるようになったと思った。

しかしそこで麒麟が補足を加える。

「ちなみに私の姿はあなた以外には見えていませんので。間違っても私のことを話さないでくださいね。」

いっそのこと隣にいる麒麟を見たことで妖怪が実際にいるということを信じてもらい、そのまま先ほどまでの出来事を信じてもらうことができるのではないかという望みの薄い賭けに出ようとしていた妖魔だったが、その選択肢を麒麟の言葉で完全に消されてしまった。

「それで、なんでここにいるんだい?ここを通る途中でバーベキュー場の様子を見てきたけど誰もいなかったみたいだし。」

何かいい誤魔化し方はないか。そう考えながら妖魔はなにかヒントを得ようと周囲を見渡す。しかしどこにもヒントになりそうな物はなく、諦めかけて下を向くと、至る所が焼け焦げていたり破れていたりしている服が目に入った。

そして一つの案が思い浮かぶ。

あまりにも無理のある内容ではあるが、妖魔の頭ではそれ以外は思い浮かばなかった。

「それは、えぇっと...さっきバーベキュー中に焼きそばに使う油をこぼしちゃって軽く火事になっちゃってたんですよ。それで服もこんなに焼け焦げちゃって。それで食材が全部ダメになっちゃって、仕方ないから今日はもうお開きになったんですよ。みんなは自分の荷物をまとめてもう帰っちゃったんですけど、俺は使ってたコンロとかの片づけで遅くなってるんですよ...」

かなり苦しい誤魔化し方だ。妖魔はそう思って信じてもらうことができる気がしなかったが、先ほどまでは怪訝な表情を浮かべていた及川はその話を聞いて表情を緩めた。

「そうなんだ、それで帰りが遅くなってたんだね。とりあえずは僕の教え子たちが規則を守らないような子たちじゃないってわかって安心したよ。それよりも、大丈夫かい?そんなに服が焼け焦げているんだ、どこか火傷したりしたんじゃないかい?」

「それは大丈夫です。火が燃え移った瞬間に急いで脱いだので。今も着てるのは、替えの服を持ってきてなかったし、かといってなにも着ないで帰るわけにはいかないから着てるってだけですので。」

もちろん全て噓である。バーべーキュー中に火事など起きてはいないし、仮に起きていたとしたら会場の経営者が何かしらの対処をしたのちに保護者、もしくは名目上の責任者である及川に何かしらの連絡を入れるはずである。荷物も全員分の物がまだ会場に残っている。些細なことに気付かれるだけで露見してしまう噓ではあるが、及川に気付かれる様子はなく、既に言ってしまっているため引き返すことはできなかった。

妖魔が内心の不安を顔に出さないようにしながら及川の反応を伺う。

妖魔が反応を伺っていると、及川は安堵の息を吐きながら微笑んだ。

「それは良かった。そういうことなら僕の服をあげようか?ちょうど、いつか古着屋に持っていこうと思っていたものがいくつかあるんだ。君なら僕と体格も同じくらいだし、サイズもちょうどいいと思うよ。」

そう言いながら及川は後部座席に移動し、たくさんの衣類が入っている紙袋を漁り始めた。

その様子を見た妖魔は及川にバレないように小さく安堵の息を吐いた。

どうやら何とか誤魔化すことに成功したようだ。そう思いながら妖魔も及川が紙袋を漁っている後部座席の方へ移動し、貰う服を選んだ。

「ありがとうございます、及川教授。」

悩んだ末に妖魔は薄手のパーカーとハーフパンツを貰った。

その感謝を及川に伝えると、及川はそれに微笑みながら運転席に戻った。

「どういたしまして。それじゃぁ僕は先に帰るけど、火を使うときはちゃんと気をつけなきゃだめだよ。今回は良い教訓だったと思って、次からはちゃんと気を付けてね。」

「はい。次からは気を付けます。迷惑をかけてすみませんでした。」

「うん。じゃぁ、またね。」

そう言うと及川は、妖魔が車から離れたことを確認し、軽く会釈をしてから車を運転して来た道を引き返し山を下りて行った。

及川の車が見えなくなると妖魔はドッと疲れが溜まる感覚に襲われた。

大きくため息を吐きながら麒麟の方を向くと、麒麟は目を細めながら妖魔のことを見ていた。

「燃え移ってから服を脱ぎ始めてよく火傷もなにも負わずに済みましたね。」

「うるせーほっとけ。」

麒麟が何を伝えたいかを大体察した妖魔は、からかわれても強く言い返すことができなかった。

その後、近くにあった公共トイレでボロボロの服から着替えを終えた妖魔は、これ以上会場の経営者に迷惑をかけるわけにもいかないため、麒麟との話を一度打ち切り、帰る支度を始めることにした。帰る支度をしている際、既に死んでしまっているサークルの仲間たちの私物をどうするべきかを悩んだが、このまま置いておくわけにもいかず、持ち帰る気にもなれないので最寄りの処理施設に持ち込むことにした。持ち込んだ際、中には最新作や女物のブランド物なども混じっていたため、処理施設の職員から奇異な視線を向けられた。

奇異な視線を耐え抜き、ようやく帰路についた妖魔は先ほどまでよりも一回りほど小さくなり、当然のように隣の助手席に座っている麒麟を横目で見ながらため息を吐いた。

「なぁ、まさかマンションまでついて来る気か?」

「えぇ。まだ答えを頂いておりませんので。」

それを聞いた妖魔は、色々なことがあり冷静になった頭で再び麒麟が持ち掛けてきた取引のことを考え始めた。

「(こいつに協力すれば妖怪を殺すための力が手に入る...だがそのために妖怪に力を借りるのも貸すのも癪だ。そもそも俺の体の自由をこいつが握っている以上、本当に俺に力をくれるとは考え難い。でも妖怪を殺すためにはどうしてももっと力が必要...うーん!)」

妖魔は半分自棄になりながらも自分が妥協できるギリギリの答えを導きだした。

「わかった!2週間だ!2週間だけお前のことを試してやるッ!!その間に俺にお前のことを認めさせてみろ!」

遂に妖魔が折れる。

麒麟もここが妥協点だと自身に言い聞かせ、内心で当初想定していた妥協点を下回ってしまった結果に軽く不機嫌になりながらも、それを全く反映させない微笑みを少年に向けた。

「賢明な判断をしていただけて何よりです。」

取り敢えずは目先の問題が一つ解決し、胸のつっかえが少しだけ取れた妖魔は、小さくため息をついて気を取り戻してから、他にも残っていた疑問を解消しようと麒麟にそのことについて尋ねる。

「そういえば、俺を治療するためにお前の体の組織の一部を俺に移植したとか言ってたけど、それでどうやって治したんだ?そもそも、お前に治療されなかったら俺は今頃どうなってたんだ?」

「そうですね、少々解釈を誤っているようですが、まず、私がいなければあなたがどうなっていたか、という質問に対する答えは、大量出血で死んでいた可能性が高いです。」

妖魔は微妙な顔をした。

妖魔自身、どうなっていたかは大体想像がついてはいたが、実際に自身の想像通りになっていた可能性が高いということを言われて、少々気落ちした。

「そして、私があなたをどうやって治療したか、という話に関しましては、別に私はあなたのことを治療したわけではありません。」

先ほどまでは気落ちしていた妖魔だったが、麒麟が予想外のことを言ったことにより、そちらに対する疑問の方が大きくなり、表情を懐疑的なものに変えた。

「どういうことだ?お前が治療したんじゃないなら、なんで俺の傷は治ってるんだ?」

「私が治療したのではなく、あなた自身の治癒能力で傷を修復したのですよ。とは言いましても、流石に人間にそこまでの治癒能力はありませんからね。私の体組織の一部をあなたに移植することで、妖怪が持っている高い治癒能力をあなたに付与したのですよ。」

「だからさっきの奴は最後に俺に攻撃できたのか...。」

妖魔は麒麟の説明を聞き残っていた疑問を解消することができた。

妖魔にとっては自分の体をどのように治療したのかは、疑問ではあったがどうでもよかった。それよりも問題は、確かに致命傷を与えたはずの妖怪が、なぜ最後に妖魔に攻撃することができたのかということの方が問題だった。

最初はそれをそのまま尋ねようとしたが、先ほど出会ったばかりで妖怪である麒麟を信用することができなかった。そのため、自分を治療するために自身の体組織の一部を移植したという言葉にヒントを見出し、あえて気付かれるか気付かれないかギリギリのラインで遠回しに尋ねた。

気付かれてはぐらかされるようなら麒麟に対する信用を無くし警戒を引き上げる。はぐらかされずにきちんと答えるのならば信用はまだできないが警戒は少しだけ引き下げる。気付かれてすらいないのであれば、その程度の相手であると最低限の警戒まで引き落とす。

今のところは一応自分と敵対していないとはいえ信用できない相手ではあるため、どれだけ警戒しておくべきかを確認するためにも、遠回しに自身の疑問を解消すると同時に隣にいる妖怪を試した。

そしてその結果、隣にいる妖怪は気付いたうえではぐらかすことなくきちんと答えた。だから妖魔は相応の対応をすることにした。

口には出さずに裏でそんな駆け引きをしつつも、妖魔と麒麟の取引はこの時仮成立した。

まだ、5話ぐらいしか書いてないけど、少しだけストーリーの方針を変更した( ゜Д゜)

それに伴って少しだけ前の話を編集したんだけど、1、2話だけはどうしたもんか"(-""-)"

書き直すかもしれないし、このままいくかもしれないし...

1、2話に関してはストーリー変更の影響は受けないんだけど、個人的にもう少しうまく書けたと思うんだよね...


誤字、脱字はご気軽にご指摘ください(*'ω'*)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ