麒麟
覚悟しとけ。長いぞ。
数分後、妖魔は墓地のすぐそばにある道路の上で目を覚ました。
「ここは.....俺は一体.......」
妖魔は少しの間混乱しながらも周りを見渡して、意識を失う前のことを思い出した。
「そうだ...俺は確か、あの妖怪に噛まれて........」
そこで妖魔はある違和感に気づいた。
「なんで俺生きてるんだ...そうだ!傷は!!!」
妖魔は妖怪に刺された自分の腹部を確認した。
しかしそこには、傷はおろか、刺されたような痕跡すらなかった。
妖魔は不思議に思いながら、今度は妖怪に噛まれていた脇腹と左腕、首元を確認した。
しかしそこにも、傷や噛まれていたような痕跡は残っていなかった。
「どういうことだ...確かに俺はあの妖怪に噛まれたし、腹を刺されたはずだ.....これは一体.......?」
「ようやく目を覚ましましたか。」
妖魔が自分の体に傷が何もないことを確認して困惑していると、声が聞こえてきた。
正確には、頭の中に直接声が響いてきた。
「ッ!!誰だッ!!!」
妖魔が奇妙な感覚に驚きながらも周囲を警戒すると、墓地のほうから鹿のような体をして牛の尻尾と頭に一本の角を生やした奇妙な姿をした生物が現れた。
その生物は奇妙な見た目や妖魔に向かって歩いてくる姿から神々しさが溢れており、妖魔はその神々しさに目を奪われ、見惚れていた。
「私は『麒麟』と申します。先ほどあなたが戦っていた者と同じ妖怪ですよ。」
麒麟から妖怪という単語が出た瞬間、それまで麒麟の神々しさに見惚れていた妖魔は急激に表情を曇らせながら殺意をむき出しにして臨戦態勢をとった。
「妖怪が人間である俺を喰いもせずに何の用だ...」
妖魔は威圧するように言葉を発した。
その様子を見ながらも、麒麟は表情一つ変えずに話を続けた。
「まぁそんなに感情的にならないでください。私はただ、あなたと話がしたいだけですので。別に先ほどの者のように取って喰おうとしたりはしませんよ。」
「話だと...?」
妖魔は怪訝に思いながらも、先ほどの戦闘で疲弊しており、つい先ほど目を覚ましたばかりで、目の前にいる妖怪から敵意が感じられないため、体力を回復させるためにも、一時的に麒麟の話を聞くことにし、態勢を戻した。
目の前の少年の態度からそのことを察した麒麟は、少年の機嫌を損ねないよう話をし始めた。
「先ほど私は妖怪だと申し上げましたが、正確には妖怪を統べる存在である『四霊』という存在です。」
「四霊...?」
「えぇ。この町では古くから、人間と妖怪が共存するために、人間と妖怪それぞれに、自らの種族を治める存在がいます。私たちがそれぞれの種族を治めることでこの町は古くから人間と妖怪が共存することができていました。」
「人間と妖怪が共存だと...?ならさっき俺を喰おうとしてきていた奴はなんなんだ...?」
「あれもまた妖怪の一種です。」
妖魔は麒麟の言っていることが先ほどと矛盾していることから、怪訝に思った。
「意味が分からないな。人間と妖怪は共存しているんだろう?ならなぜさっきの奴みたいな俺たち人間を喰う妖怪がいるんだ...?それとも妖怪基準ではこれが共存なのか...?」
「私があなたにしたい話はまさにそのことです。」
「どういうことだ...?」
「人間と妖怪は確かに古くから共存してきていました...4年前までは.....」
「4年前だと...?」
妖魔は4年前という単語が出た瞬間表情を歪めた。
「4年前、我々四霊が集い妖怪を治めていた『四霊の席』という組織のようなものが突如として謎の崩壊を迎えました。それにより、今まで行き届いていた統治が行き届かなくなり、結果としてかなりの数の妖怪が我々の統治から離れ、本能のままに人間を襲うようになりました。」
「それがさっきの奴みたいな奴らってことか...?」
「そういうことです。もともと我々妖怪は生きるために人間や動物など様々な生物が持っている魂という形で存在している生気を必要とします。生気を摂取する方法は様々ありますが、摂取量や摂取効率を考えると、先ほどの者のように直接血肉を喰らうことが一番効率はいいです。しかし、これはあくまで手段の一つであるというだけであり、生気を摂取する方法としてはあなた方に危害を加えない方法はいくらでもあります。4年前まではその方法を用いて生気を摂取するよう、我々四霊で他の妖怪に義務付けていたので、人間との共存を可能としていました。しかし、四霊の席が突如として崩壊し、私たちの定めた決まりが妖怪の間で絶対的な力を持たなくなったことで、徐々に人を襲う妖怪が増え始め、今となっては数多くの妖怪が人間や動物などを襲い喰うようになってしまいました。」
「なるほどな。それで?俺に話ってのはなんだ?まさか、こんな昔話を聞かせたかったわけじゃないんだろ?」
「えぇ。では、本題に入りましょうか。」
妖魔は麒麟の表情が先ほどまでより真剣なものになったため、どんな話が来るのかと身構えた。
「簡潔に言いますと、私に協力してほしいのです。」
「は?」
妖魔は思わず素っ頓狂な声を出した。
それほど妖魔からすれば、麒麟が放った一言は衝撃的だった。
「は?協力?何が、てか何の?」
「協力してほしいことはただ一つ、私たち四霊の席を修復する手伝いをしてほしいのです。」
「なるほどな。なるほどなるほど...」
妖魔はあまりの衝撃に混乱していた頭を整理しながら、ひとまず、真っ先に思い浮かんだ疑問を聞くことにした。
「協力してほしいってのはわかった。だがなんで俺なんだ?さっき俺がお前のお仲間の妖怪を殺そうとしてたのを見てなかったってわけじゃないだろ?」
「確かに見ていましたよ。あなたが意識を失った後で私があなたをここまで運びましたから。」
妖魔はその答えを聞いて余計に混乱した。
「確かにあの状況を見れば、あなたが妖怪に対して敵意を持っていることは誰でもわかります。しかし、だからこそ私はあなたに協力を持ち掛けているのです。」
「どういうことだ?」
妖魔からすれば麒麟の言っていることは全く意味が分からなかった。
妖怪の中で一番偉い者が自分に協力を持ち掛けてくることも、自分に頼んできた協力の内容も、わざわざ自身の同族に対して敵意を持っている自分に協力を持ち掛けることも。
考えれば考えるだけ謎は深まっていく。そして謎が深まれば深まるほど先ほどからわけのわからない話をしてくる麒麟に対する警戒の度合いも高くなる。
妖魔が無意識のうちに態勢をいつでも戦える状態に変えていく。
その様子を見た麒麟は自身に対する警戒を解くために説明に補足を加え始める。
「四霊の席を修復するということは容易ではありません。他の者たちを探すことも大変でしょうし、それに何より、こんなことをする以上、どう足掻いても妖怪と関わることは確実です。そうなれば、人間には確実に危険が付きまといます。なにしろ、先ほど申し上げた通り、人間と妖怪の共生関係は崩れつつありますから。そんな時に、我が身可愛さに足がすくんでいるような者では話になりません。それよりならば、あなたのように妖怪に敵意を持っていてもらったほうが都合がいいんです。」
「なら、俺以外にもいるだろ...お前らに敵意を持ってる奴ぐらい.....」
「先ほどの戦闘を見た限りでは、あなたはどうやら戦うことに慣れている様子でしたので。それに...」
「それに、なんだよ?」
「なんでもありません。とにかく、こんな話を持ち掛けるには、あなたは適任だったということですよ。」
妖魔は言葉に詰まっていた麒麟の様子からそれにの後に続く言葉が気になったが、はぐらかされたことによりそれ以上に追求することはやめた。妖魔からすればそんなことよりも麒麟が持ち掛けてきた話の方が重要だった。
「なるほどな。話は分かった。」
妖魔は整理のついた頭で、麒麟の話に対する答えを考えた。
その答えはすぐに出た。とても単純で、妖魔にとっては当たり前な答えが...
「断る」
話を切る場所がなさ過ぎて滅茶苦茶長くなっちゃった☆
次からはもう少し短くできるように頑張るわ(;・∀・)
誤字、脱字などがありましたら気軽にご指摘ください(*'ω'*)