どす黒いモノ
のんびり見てくれ。
悲鳴がしたであろうおおよその場所に妖魔が到着したとき、周囲には凄惨な光景が広がっていた。
辺り一面には誰のものか判別がつけられないほどの量の血が至る所に付着しており、大量の肉塊が転がっていた。
その状態は様々であり、脇腹が抉れているもの、片腕や片足がなくなっているもの、首から上がなくなっているものなどがあった。
頭がなくなっているものは流石にわからないが、妖魔にはそれらの肉塊が何であるか理解できた。
「みんな...やっぱりここに.....」
それらの肉塊は妖魔とともにバーベキューに来ていたサークル仲間だった。
妖魔が周囲を警戒しながら少し歩くと、遠くからグシャグシャと何かを咀嚼してるかのような音が聞こえてきた。
妖魔はそれに気づくと、さらに心の奥から湧き上がってくる『ある感情』を爆発寸前のところで抑えながらその咀嚼音が聞こえてくる方向へ歩き始めた。
少し歩いて墓地の出口とは裏側にある崖のところで妖魔はそこに転がっている肉塊を咀嚼している黒い狼のような姿をした何かを見つけた。
「またか...またお前らか.....」
それを見つけた瞬間、妖魔はの脳裏にある光景が思い浮かび、自身の心の奥から湧き上がってくる『どす黒いモノ』を抑えることができなくなった。
「妖怪ッ!!!!!」
肉塊を咀嚼していたのは黒い狼のような姿をした妖怪だった。
妖怪が妖魔の存在に気づいたとき、妖魔はバーベキュー用に持ってきていた折りたたみ式のナイフを懐から取り出し、妖怪に向けて構えた。
「Grrrrr!!!」
妖魔が妖怪に向かって駆け出し始めると、黒い狼のような姿をした妖怪も、額から角のように刃のような氷を生やし、不気味な鳴き声を漏らしながら妖魔に向かって駆け出し始めた。
「フッ!!!!!」
妖魔と妖怪が激突する瞬間に妖魔は自身の体を捻り、妖怪の突進をギリギリのところでかわしながら、ナイフで妖怪の体を切りつけた。
しかし、妖怪の突進をかわすために変な体制に体を捻ったことにより、首を狙って振るったナイフは妖怪の後ろ脚を切りつけただけに終わった。
「クッ!!!」
変な体制に体を捻ったことにより、妖魔はナイフを振るった後大きく体制を崩した。
しかし、妖怪は体制を保ちながら体を反転させ、妖魔に向かって再度突進を仕掛けた。
妖魔は体制を崩していたせいでその突進には対応できずに、かろうじてナイフで角のように生えている氷の刃を受け流すことはできたが、その衝撃でナイフを落としてしまった。
「Grrrrrrrr!!!!!!!」
ナイフを失い、大きな隙を晒してしまった妖魔に、妖怪は本能的にその隙をついて、おぞましい鳴き声を上げながら受け流された勢いのまま妖魔の脇腹に噛みついた。
「グッ........!!!!!」
その噛みつきに妖魔は反応することができず、脇腹を嚙みちぎられてしまった。
幸いにも致命傷にはならない程度の浅い傷で済んだが、それでも嚙みちぎられた脇腹からは激痛が伝わりってくる。
顔を顰め脇腹から伝わってくる激痛に耐えながら、これ以上隙を晒さないためにも、目の前にいる妖怪を殺すためにも両手を体の前に構えて注意深く妖怪を観察した。
目の前にいる黒い狼のような姿をした妖怪は、先ほど噛みちぎった妖魔の脇腹の肉を妖魔を見つめながら咀嚼していた。
お互いに理性的に、本能的に相手の隙を見逃さないために相手のことを注意深く観察している。相手に注意を向ければ向けるほど、その他への注意は薄れていく。
お互いに動かないままでいると、妖魔のはいごにあった墓地を囲う塀の上から装飾の石が落ちてきた。
今妖魔がいる墓地はかなり昔からあり、改修工事などが行われたこともなかったためかなり劣化していた。最近では墓石が崩れたり、周りを囲う塀にひびが入ったりしておりすることが増えてきており、今年の秋に改修工事が入ることが決まっていた。不運なことに妖魔は絶対に気を抜けないこの状況で、その年期による洗礼を浴びてしまうことになった。
妖魔が突然の出来事に驚きながらもまだ落ちてくる石をかわした。
しかし、そのため妖怪から意識が完全にそれてしまい、後ろから刃のような氷を突き立てて迫ってきている妖怪の攻撃に対処することができなかった。
妖魔が振り返った瞬間、刃のような氷が妖魔の腹を貫いた。
「グフッ...フッ.......!!」
刃のような氷で腹を貫かれた妖魔は、そのままの勢いで背後にある墓地の塀に叩きつけられた。
その衝撃で塀にはかなり大きなひびが入り、妖魔が叩きつけられた部分は一部が崩れ落ちた。
腹を刺され塀に叩きつけられた妖魔は、もはや痛みを感じることすらできなくなり、段々と意識が遠のき始めた。
「(クソ....まだ.....俺は、こんなところで..........!!)」
遠のいていく意識の中、妖魔は目の前で自分の腹を貫いている妖怪を見ながら遺憾の念を抱いた。
意識がさらに遠のき完全に手放そうという時に、妖魔の中でまたある光景が思い浮かんだ。
目の前で誰かが殺されている光景が......
目の前で大切な人が殺されている光景が.......
その瞬間、妖魔は痛みを取り戻した。
妖魔の心の奥底から次々と『どす黒いモノ』が溢れていく。
それはとどまるところを知らず、妖魔の頭の中を際限なく満たしていく。
刺されている腹から、先ほど噛みちぎられた脇腹から激痛が伝わる。だが、もう妖魔は意識を遠のかせることはない。それどころか逆に覚醒させていく。
伝わってくる激痛が強くなれば強くなるほど妖魔は戦意を取り戻す。
誰もいるはずのない自分の内側から聞こえないはずの声が聞こえる。
―こんなところで終わるのか?―
違う
―お前はあいつらに殺されたいのか?―
そんなわけあるか
―ならばお前は何がしたい?何のために逃げずに目の前で自分を刺している奴と戦う道を選んだ?―
そんなのは決まってる
妖魔の中で問答が繰り返される。
そして妖魔は結論に至る。“あの時”から何も変わらない結論に......
妖怪は全てこの手で殺す!!!
妖魔は体の奥から溢れてくる『どす黒いモノ』が形を帯びていく感覚を覚えた。
そしてそれが完全に形を持った感覚を覚えたとき、妖魔は目の前にある自分の腹を貫いている刃のような氷を掴んだ。
それに気づいた妖怪が掴んだ妖魔の手を振り払い、妖魔の首元に噛みつこうとした。
妖魔はそれを左手を噛ませることで防ぐ。そして妖魔は再度刃のような氷を掴んだ。
そのまま妖怪の頭に膝蹴りをかまし、先ほど落としてしまったナイフの代わりに刃のような氷を武器にしようと、妖怪の額にある刃のような氷を折ろうとする。
しかし、氷はかなり厚くそう簡単に折れることはない。ちょっとやそっとでは折れたり砕けたりすることはない。そんなことは妖魔にもわかっている。
しかし、諦めることはできない。このまま諦めるわけにはいかない。
妖魔は何度も何度も膝蹴りを妖怪の頭に繰り出す。アドレナリンが溢れており妖魔はもはや痛みを忘れていた。何度も膝蹴りをされて弱ってきてるいるのか妖怪が左腕を噛む力が弱くなる。とうとう耐えられなくなり妖魔の左腕から完全に口を離す。
しかし今度は妖魔が自由になった左腕で妖怪の頭を掴み、自分の膝蹴りに合わせて頭を押さえつける。そしてまた何度も何度も膝蹴りを繰り返す。もはや妖魔には落としたナイフを拾うという選択肢はない。ここで完全に妖怪の動きを封じ込めることができている今が妖魔にとっては最高で最後のチャンスだ。
だからこそ蹴り続ける。何度も。何度も。
そうして膝蹴りを繰り返しているうちに妖怪を押さえつけている手から、膝蹴りを繰り出している脚から『どす黒い何か』が溢れ出す。
それが溢れれば溢れるほど妖魔の膝蹴りの威力は強くなっていく。
そしてとうとうその刃のような氷の根元に大きなひびが入る。
それを見た妖魔は膝蹴りをやめて全力で妖怪の頭を自分が押し付けられていた墓地の塀に思い切り叩きつけた。
すると妖怪の額にある刃のような氷がまるでガラスが割れたような派手な音を立てながら根元から折れた。そして妖魔はようやく武器を手に入れる。目の前にいる妖怪を殺すための武器を。
「ウゥゥアアアアァァァァッッッ!!!!!!!!」
最後の力を振り絞り、雄たけびを上げながら塀に押さえつけている妖怪の首元に刃のような氷を力いっぱい振り下ろす。
それは先ほどの妖魔の膝蹴りや塀に叩きつけられて弱っており、押さえつけられて身動きが取れない妖怪の首元に深く刺さった。
「Grrrrr!!!」
首元を深々と刺された妖怪がおぞましい悲鳴にも似た鳴き声を上げながら激しく抵抗する。
しかし、妖魔はそんなものはお構いなしに刺している氷を左右に動かす。
刺されている傷口がどんどん広がり、次第には首の半分以上が切り裂かれる。
そこで妖怪は抵抗する力を失い動きを鈍らせる。
「AAAAaaaaaahhhhhhhhッッッ!!!!!」
それを見逃さず妖魔はもはや人間のものとは思えない声を上げながら妖怪の首を切り裂いた。
切り裂かれた首が押さえつけられていた塀にめり込み、首を失った妖怪の体だけが地面に落ちる。地面に落ちた体も塀にめり込んだ首も動き出す気配は微塵もなかった。
そこで妖魔は気を緩め、その場にへたり込んだ。
興奮状態にあった頭が冴えはじめ、状況を認識すると、妖魔は歓喜に震えた。
「ハッハッ」
思わず喉から乾いた笑い声が漏れる。
「フッハッハハハハハハハハッ」
脇腹を噛みちぎられ、腹を貫かれ、左腕を深々と噛まれた妖魔はもはや生きていることすら奇跡に近いほどボロボロだった。
それでも妖魔は笑っていた。そんなことはどうでもよくなるほどたった今自分が成し遂げたことが嬉しかった。
ひとしきり笑い、次第に興奮が冷めてきた妖魔がよろよろと立ち上がる。
周囲を見回すと、辺りには大量の血が飛び散っていた。そのほとんどが妖魔のものであり、それに気づいた妖魔は先ほどまではアドレナリンで忘れていた激痛を再び感じ始めた。
「あぁ...いってぇ.....」
あまりの激痛に妖魔は意識を持っていかれそうになったが、何とか堪えて先ほど自分が落としたナイフを拾い上げる。そして様々な血や死体で凄惨な状態になっているこの場を離れるために墓地の出入り口に向けて歩を進めた。
すでに妖魔には周りを気にする余裕などなかった。
「ウッ.....!?」
突如妖魔は背後から何者かに首を噛まれた。
驚きながら振り返ると、そこには先ほど頭を落としたはずの額にある氷が折れている妖怪が妖魔の首を噛んでいた。
「なん....で.......」
もはや頭は働かなくなっており、状況を理解することができなかった。
そしてそのまま妖魔は意識を落とした。
そのまま妖魔は意識を落とした。
キツイ。2話目にしてすでに文章力が崩壊してきている。
最後らへんに関しては適切な表現があまり思い浮かばなくて変な感じになってもーた"(-""-)"
てかバイト終わってから書いたから後半になるにつれて徐々に疲れが垣間見えんなこれ( ゜Д゜)
誰か自分に札を恵んでくれ。