紅 凌牙
現時点での私の再押しキャラが登場します(*´ω`*)
妖魔は先ほどまで感じていなかったことが嘘のようにその感情に飲まれていた。それこそ、周りが見えなくなり、自身の身の安全を顧みずに、その感情を目の前にいる敵に吐き出そうとするほどに。
あまりにも唐突なことで、きっかけとなりうることが無かった。だからこそ妖魔は、昨日のように制御することもできずにただその感情に飲まれていった。
妖魔が目の前に燃え盛る炎を突き破り、一気に目の前にいる敵との距離を詰め終える。
炎を突き破る際に至るところを火傷したり焦がしたりしたが、妖魔は全く気にせずに拳を固く握りしめ、それを敵に向けて大きく振るう。
輪入道はそれを見て先ほどまでは能面のようだった顔を驚愕に染めていた。先ほどまで放とうとしていた大きな炎の車輪は、驚愕とともに霧散してしまった。
輪入道には高い知性があった。妖魔が昨日までに戦った妖怪と違い、戦力的に戦って妖魔を追い詰めるほどに。だからこそ、想定外の事態には弱かった。
鼬や、犬のような姿をした妖怪などの知性の低いものならば、本能的に危険を察知してそれに対処することができた。だが、高い知性を獲得する代わりにその本能を失ってしまった輪入道は、想定外の事態に驚愕するあまり何もすることができずに大きな隙をさらしてしまう羽目になった。
妖魔の半身ほどの大きさのある顔を驚愕に染めている輪入道の額に、妖魔の拳が突き刺さる。それで額を歪に凹ませながら輪入道は大きく後方へ吹き飛んだ。
輪入道を吹き飛ばした妖魔だったが、その時に感じた奇妙な手応えに、我に返っていた。
「軽い?」
妖魔の想像していたより遥かに軽かったのだ。手応えが軽いという感じではなく、輪入道の質量が軽いという感じだった。見た目とは一致しない手応えに妖魔は軽く困惑していた。
少しの間困惑していたが、輪入道がよろめきながら立ち上がるように態勢を立て直す様子を見て即座に意識を切り替える。
今の困惑のおかげで、妖魔は先ほどまで飲まれていた感情に今度は冷静に対処し、落ち着くことができた。
すでに輪入道は態勢を立て直しており、先ほどまでは意識的にか無意識にかはあった油断を完全になくしたかのように、妖魔の予想外の行動により不発に終わった巨大な炎の車輪を今度は5つ飛ばしてくる。
観光地として有名なこともあり、かなりの広さがある境内の通路だったが、巨大な炎の車輪たちはその通路をほとんど完全に塞ぎ、人ひとり分ほどの隙間をたまに形成しながら、壁や地面を焼け焦がしながら妖魔に迫ってくる。
車輪同士がぶつかり合い、方向をずらしあうことで形成される人ひとり分ほどの隙間を逃さずにその隙間へ潜り込み炎の車輪たちを躱すために意識を集中させる。
タイミングを見極め、一瞬だけ形成された隙間に妖魔が潜り込もうと動き出そうとした瞬間、妖魔と炎の車輪たちの間に阻まるように炎の壁がいきなり現れ、その衝撃で妖魔は後方へ吹き飛ばされ、巨大な炎の車輪たちは進路を逆方向に変え、そのまま輪入道に直撃した。
吹き飛ばされた妖魔が突然のことに驚きながらも立ち上がると、後ろから何かを引き抜くような音が聞こえた。
妖魔がそちらへ振り替えると、そこには妖魔と同じような年頃で、灰色の短髪をし、特徴的な耐火コートを羽織た青年が、彼の背丈と同じくらいはある長さの大剣を肩に背負って立っていた。その青年の足元には何かが刺さっていたような跡があり、先ほどの音は彼が肩に背負っている大剣をそこから引き抜いた音だということは明白だった。
一般人にしても、警備員にしても、神社の関係者にしてもあり得ない格好をしている青年に妖魔が困惑していると、その青年の方から妖魔に険しい顔をしながら近づいてきた。
「どいてろ。」
そう端的に言い放った青年は、妖魔を庇うように前に立つと背負っていた大剣を振り下ろし地面すれすれでピタリと止めてみせた。
今までの経験からそれだけで青年の技量を読み取ることができた妖魔は、自分よりも一回りも二回りも強い相手を前に気圧されながら引き下がった。
妖魔が引き下がると同時に、目の前で燃え盛っていた炎の壁が消え、その奥では、跳ね返ってきた炎の車輪が直撃し、背負っていた車輪を半壊させ、大きな傷をいくつもつけた険しい顔で妖魔たちを睨んでいる輪入道がいた。
見るからに瀕死の輪入道が雄たけびを上げながら青年に向けて、炎の車輪を両側に着けて猛然とした勢いで突進してくる。
それを見た青年が一瞬目を細めてから動き出す。
決着はそのすぐ後だった。
麒麟の意識が現実に戻ってきた後、少ししてからまるで別人のようになりふり構わず輪入道に殴り掛かっていく青年を見ながら思案していた。
『(先ほどまで大人しく見えたのは気のせい...?ですが、もしこれが気のせいではなかったとすれば、あれが彼の憎悪に関係しているのでしょうか...。先ほどのリスクを冒してでも調べる価値は十分にありますね....。)』
麒麟が思案を続けながら今後の方向性をまとめていると、戦っている後ろから大剣を背負った別の青年が近付いてきているのが見えた。そして、その青年が大剣を地面に突き刺すと、炎の壁が突如として現れた。
それを見た麒麟は、それまで続けていた思案をやめ、昨日から抱いていた不安が現実のものとなってしまったことに表情を険しくした。
しかし、すぐにあることを思いつき、険しかった表情を真面目なものに変える。
『(これを上手く利用すれば、彼との取引を進展させることができるかもしれませんね...。)』
そしてまた麒麟は思案を始める。そして、目の前で行われている戦いが終わるころには一つの案が思い浮かんでいた。
思い浮かんだ案が成功した先にある結果を想定していると、なぜか今までは感じなかったものを感じていた。そして、それを懐かしいとも思った。
辺りが静まり返った頃、妖魔は先ほどまで輪入道と戦っていた青年と話をしていた。
正確には、今すぐにでもその場から立ち去ろうとしている青年を妖魔が食い止めていた。
「助けてくれてありがとう。それで...、あんたは....?」
「紅 凌牙、MASUの特殊兵だ。」
「MASU...?」
聞きなれない単語に妖魔が首を傾げると、それを見た凌牙がやはりかといった様子でため息を吐いた。
「MASUを知らないってことはやっぱりお前は一般人か...。だったらここで見たことは忘れてもう帰れ。じゃあな。」
吐き捨てるようにそう言い残し、またその場から立ち去ろうとする凌牙に妖魔はこれもまた思わず進行方向を阻んだ。
「待ってくれッ!!」
「さっきから何のつもりだ?」
明らかに不機嫌な声色で普通の人が聞けばそれだけで委縮してしまいそうな凄みを感じ、妖魔はたじろぎそうになったが、状況を理解したい一心で気圧されずに口を開く。
「こんなものを見せられて全部忘れろってのは無理だ!大体あんたは一体何なんだ?MASUてのは何なんだ?それにさっきの.....。」
そうまくし立てながら妖魔が先ほどの輪入道と凌牙の戦いを思い返す。それは妖魔を驚かせるには十分すぎる内容だった。
凌牙に向けて突進してきた輪入道に対して、凌牙は躱そうとすることなく真正面から迎え撃った。大剣を背中にしまうと勢いよく走りだし、大きく拳を振りかぶる。するとその拳に炎が灯り、人間のものとは思えない速度でその拳が振るわれる。そのまま輪入道と正面から衝突するに炎を纏った拳で輪入道の鼻を殴りつけると、その接触面で爆発が起こった。
爆発により鼻を失った輪入道が進行方向とは逆方向に大きく吹き飛び体制を崩す。そしてそれを見越していた凌牙が、輪入道が吹き飛ばされるよりも先に大きく前方に飛び上がり、背中にしまっていた大剣を地面に突き刺すように構え、振り下ろす。その自由落下の勢いを加えた一撃が真っ直ぐに落ちていき、それが吹き飛ばされてきた輪入道の額に突き刺さり、その衝撃で地面がクレーターのように抉れる。
それに余りの勢いに妖魔が驚いているのも束の間、次の瞬間、先ほどのものとは比べ物にならないほどの大爆発がその接地面から巻き起こった。
それにより巻き起こった爆風や爆炎に妖魔は視界を奪われ、それがある程度落ち着いてきて視界が戻ってきたころには、先ほどまではいたはずの輪入道が姿を消していた。正確には輪入道のものとは認識ができないほどに粉々なり、その残骸を周囲に四散させていた。
その一連の戦いぶりはまさしく蹂躙と呼べるものだった。
怒涛の勢いでまくし立てられた凌牙はイラつきを通り越して呆れ始め、とうとうその勢いに屈し、面倒とは思いながらも説明することにした。
「わかったわかったわかったッ!!話してやるからひとまず落ち着け。うるせぇんだよさっきから。」
周囲を威圧していた凄みがなくなり、代わりに疲れたような雰囲気で大きくため息を吐いた凌牙を見て妖魔は取り敢えず落ち着きを取り戻し、口を閉じた。
「で?取り敢えずまず初めにこっちから質問するが、お前は誰なんだ?」
「橘 妖魔だ。そしたら今度はこっちから質問する。色々と聞きたいことはあるが、まず、さっき言っていたMASUってのは何なんだ?」
「妖怪対策特殊部隊、Measures Against Spectors Unit、略してMASU。要するに自衛隊の妖怪特化版だ。妖怪と人間の共存のための抑止力として編成された、警察みたいなもんだ。」
そこまで説明した凌牙は、どうせここからさらに細かく質問攻めされるのだろうと嫌気がさしていたが、妖魔は納得したように頷いているだけで、全くそんな気配がなかった。それに疑問を抱いた凌牙が今度は妖魔を問い詰める。
「お前、何も聞かないのか?妖怪ってなんだとか、得体のしれない奴らと共存してるのかとか...。」
「妖怪は妖怪だろ?それぐらいは知ってる。そいつらと共存してることもな。」
一般人ならば知る由のない情報であり、先ほどの反応から妖魔は一般人だと判断していた凌牙は、それぐらいは当たり前のことだろうといった雰囲気で語る妖魔に困惑しながらも不信感を抱いた。
「まさかお前、さっきの奴と自分から戦ってたのか?」
「経緯はともかく、自分から相手にしてたのは確かだけど...。」
そこで一度会話が途切れる。
妖魔は凌牙が何をそんなに不思議そうにしているのかがわからないことに、凌牙はMASUしか知りえない情報を知っている得体のしれない男に首を傾げた。
二人の間に妙な沈黙が流れていると、そこに第三者の声が聞こえてくる。正確には頭に直接響く。
『MASUの怪人部隊の一人が、こんな所で何をしているのですか?』
二人が声が響いてきたと思われるほうを向く。そこには遠巻きから二人と輪入道との戦いを見物していた麒麟がいた。
それを見て凌牙が納得したように頷く。
「なるほど、青以上の妖怪と一緒に行動しているから、MASUのことは知らないのに妖怪のことについては知ってるのか...。」
状況を理解し、把握している凌牙と麒麟の話に全くついていけない妖魔は、困惑から混乱に変わりつつある頭で必死に情報を整理しながら、足りない情報を補うために二人に尋ねる。
「そっちだけで勝手に納得しないでくれ。青ってのは何なんだ?」
『青というのは妖怪の階級の一つですよ。飛鳥時代に冠位十二階という階級制度があったでしょう?これはそのパクリですよ。基本的には階級の段階は冠位十二階と同じですが、妖怪の場合は下から順に黒、白、黄、赤、青、紫の六つしかありません。』
「一つ一つ説明すれば長くなるから今はしないが、青以上の奴ならそいつみたいに俺たちと会話することができるんだ。」
「じゃあ、さっきの輪入道は赤以下のどれかってことか...。」
『輪入道は黄、人間に憑依できる赤の一つ下ですよ。』
妖魔がまた首を傾げる。
「憑依ってなんだ?」
『これもまた説明すれば長くなるのですが...、それより時間は大丈夫なのですか?』
そう言って麒麟は凌牙の反応を伺う。凌牙は黙って時間を確認し、不機嫌そうだった表情を真面目なものに変えた。その一連の様子を妖魔はわけがわからないといった様子で眺めていた。
「俺が輪入道と戦い始めてから8分、そろそろ本隊がこっちに向かってきていてもおかしくないな...。お前らには色々と聞いておきたいことがあったが、仕方ない。また今度会った時にでも聞くとするか。」
凌牙は妖魔を見ながら溜息を吐いた後、一瞬麒麟を睨んでから、先ほどの戦闘の余波により半壊した拝殿の奥に歩いて行った。
妖魔もまだ凌牙には聞きたいことがあったため呼び止めはしたが、無視されてしまった。
「どうしたんだ...?」
『怪人部隊はMASUの秘匿部隊、一般人はおろか、MASUに所属している人でさえ上層部の人にしか知られていない部隊ですからね。何も知らない本隊との接触は避けなければいけないのですよ。そんなことより、私たちも帰るとしましょう。本隊にここにいる所を見られては、確実に事情聴取されるでしょうしね。』
麒麟の説明を聞いた妖魔は、未だに混乱気味である頭でMASUの本隊に絡まれるなどという面倒ごとを避けるために、残っている疑問をいったん棚上げにして、すぐに帰るという決断をした。
麒麟の説明は正しくはあったが、完全ではなかった。
MASUの本隊でも妖魔と輪入道が戦い始めてからは20分ほどたたなければ来ることができない現場に、5分という短い時間で来ることができたこと、自分と関わりがあると知るまで、ここにいること自体が不自然な妖魔に欠片も興味を抱いていた様子がなかったこと、そして今、この場から離れるのに、鳥居の方ではなく拝殿の奥に歩いて行ったこと。
これらのことから、凌牙はMASUの一員として輪入道に用事があったわけではなく、個人として拝殿の奥に用事があってここに来たのだと麒麟は推測していた。
妖魔に話さなかった理由は、あくまでも推測の域を出なかったため、そして、妖魔と凌牙を確実に敵対させるためだった。
そんなことに気付くことはできない妖魔は、急展開に混乱しながらも、MASUの本隊に絡まれたくない一心で、急いでその場を離れた。
凌牙は妖魔と別れた後、拝殿と幣殿を超えた先にある本殿に足を踏み入れた。
そこで楽しそうに周囲にいるたくさんの妖怪と戯れている少女を見つけると、凌牙は少し厳しそうな視線をその少女に向け、まるで説教をするような口調で話しかける。
「あんまり目立つような真似はしないでくれ。これじゃ、いつお前がここにいることが奴にバレてもおかしくない。」
凌牙に注意された少女が頬を膨らませ不満そうな顔を浮かべる。
「だってー、ずっとここに一人でいるから寂しいんだもん。」
「だからこそ、あれがあるここで匿ってるんだろ。」
そう言いながら妖魔は拝殿の奥にある大きな木の幹を指さした。
その木は拝殿の内部に残すために幹を残してあとは全て切られてしまったが、凌牙の眼にはその幹から青白い光が溢れているように映っていた。
「妖力の源であるあれがあるからこそ、ここにはこんなに妖怪がいるんじゃないか...。」
それを聞いた少女が非難するような、しかし全く怖さがない視線を凌牙に向ける。
「妖怪じゃなくてお友達だよ!それに私は人のお友達も欲しいの!」
「はいはい、わかったよ。取り敢えず、あんまり目立つ真似はできるだけ控えてくれよ。奴に見つかる事態だけは絶対に避けなければならないからな。わかったな、魔夜。」
「はーい。」
妖怪と戯れている少女、魔夜は、つまらなそうな顔で返事をすると、本殿から出ていく凌牙を見送った。
寒くて布団から出れないからノートパソコンがないと作業効率がかなり低下するなぁ(;´・ω・)
今回登場した凌牙も魔夜も現時点ではトップレベルに好きなんですよねぇ。まぁ個人的な好みもあるけど...
ちなみに凌牙にはモデルになったキャラがいるんだけど誰かわかるかな?
流石にまだ情報が少ないからわからないかもしれないけど...
ヒントは左手で大剣を扱うゲームキャラだぜ(^o^)/
誤字・脱字があればご気軽にご指摘ください(´Д⊂ヽ




