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駒鳥(ロビン)捕物控  作者: つくも拓
大罪の珠 
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猫騒動(ニ)

ジンロクに頼まれロビンは女の子を近くの番屋に運びます。

よっこらしょと下ろすと座布団を畳んで枕にし、寝かせてやろうとした時、女の子が目を覚ましました。


気がつくと見知らぬ場所で自分の体を横たえようとしている男二人。

キャーーーー! と、絹を裂くような悲鳴が上がる。

「こんな所に連れ込んで、アタシを一体どうするつもり!?」

「安心しなよ、ここは番屋だよ」

「…番屋?」

「お嬢さん、あんた気を失ってたんで放っとく訳にもいかねえからここに運んできたんだ」


女の子は赤面して平謝り。

まあまあと宥め、氏素性を訊ねる。

名はノーラ・ハーケン。五賢の一人「白のラガン」の屋敷で働くメイドであると。

ここまでは素直に答えたのですが、あんなところに居た理由はと訊ねるますと途端に両の目から涙がポロポロっと溢れ出した。


アタシを殺して!


泣きじゃくりながら、後はそう繰り返すばかり。

殺してくれとは穏やかじゃない。

宥めようにもロビンもカメもどちらかと言えば脳筋。女の子の扱いは期待できない。

オロオロする若造二人を見兼ねた番屋番の爺さんが助け船を出す。


若い身空で殺してくれなんて物騒な事を言うんじゃないよ、ノーラちゃん。

ベッドの上でってんならコイツらも喜んで逝かしてくれようが、手にかけるとなるとおいそれとできる事じゃない。

ましてやノーラちゃんはラガンさんとこの使用人じゃないか。それを手にかけたとなるとコイツらもただじゃすまなくなる。

ここはひとまずラガンさんの元にお戻りなせえ。

身の振り方はラガンさんにご相談なさるがスジってモンだよ


さりげなく下ネタをぶっ込んでくる辺りはさすが年の功。死ぬのは良くてもその身を汚されるのは乙女心が許さないのか、ノーラは胸とスカートを押さえてロビンとカメに怯えた目を向ける。

慌てて手を振り否定する二人。それを見て呵呵と笑うと、爺さんは二人を護衛にノーラを送り出す。


「おい、オメエら。送り狼になるんじゃねえぞ」

「「ならねえよ!!」」


ラガン邸に着いた三名、夜分遅くに恐れ入りますと声をかける。

家の中からあわただしい音がしたかと思うと扉が開く。エントランスには数人の人影。

メイド姿の一人がノーラを抱きしめた。

「お母さん…」

「ノーラ、心配したよ」

そう言って泣き出す二人にロビンもカメも目頭が熱くなる。

礼を言おうとする家人に、これもあっしらのお勤めでさあとそそくさと退出します。


さて、ノーラの戻ったラガン邸。行方を晦ましていたノーラが戻ってきたと言うのでほっとしましたが、行方を晦ました理由が気になります。

何せノーラは華も恥じらう十七の娘。おまけに小町と呼ばれるほどの器量良し。

姿が消えた日は先ず拐かしを疑いましたが、帰ってきた時の様子からするとどうもそうではなさそうである。

「ノーラ、無事で帰ってこられて何よりだ。

しかしここ数日どこで何をしておったんじゃ?」

優しく問いかけるは当主のラガン翁。

ラガンの姿を見るとノーラはその前に平伏し涙ながらに訴えます。


ご主人様。私を殺してくださいませ


いきなりの言葉に集まった一同が驚いた。

ノーラは悲しげな目で母や世話になった人々を見つめ、顔を伏せて言葉を綴る。



この身は魔に取り憑かれてしまいました。

今はなぜか人の姿に戻っておりますが、あの「色欲の珠」が消えた夜からこの身は人に非るものに変化へんげし街を彷徨っておりました。

その間、何があったか覚えておりません。

もしかしたら人を殺めたかもしれません。

これ以上罪を重ねる前に、どうか私を殺してくださいませ


そう言い終えた瞬間、ノーラの体がビクンと震えました。


嗚呼、いけない。

遅うございました。変化が始まります。

大恩ある皆様をこの手にかけとうございません。

人間としての意識があるうちにお邸を出ます。

近づかないで! 

お別れでございます。


喋っている途中からノーラの体は毛皮に覆われ始め、終には人間大の大黒猫の姿に変化してしまいました。

呆気に取られる一同に頭を下げると大黒猫ノーラは邸を出て闇に消えていきました。


ラガン邸に響く悲鳴に嗚咽。

娘を助けてと懇願する母親の声。

大黒猫と変化したノーラの運命や如何に?




次回「猫騒動」完結!

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