怪異の町 多加垣(一)
お久しぶりの更新です。
思うところあって、帝都ノレロ以外の地名を漢字表記にしました。
これまでの投稿分も修正しましたところ、拙い文がてんこ盛り。恥ずかしくなっての全面改稿……と言いましても内容は変えておりません。文を削ったり言い回しを変えただけです。落語家さんが喋ってるつもりで読んでいただくともっとも楽しんで頂けると思います。
謹聴、謹聴〜
ご当地ロビンの故郷である多加垣では年に一度のリッチー祭りの準備に余念がない。
今年はなんと、スペシャルゲストで「白のラガン」ことラガン・べジーマンが参加してくれるってんで大盛り上がりの真っ最中。
まあ北へ向かえば鵜沢を抜けて越州へ、西へ向かえば座久を抜けて信州へ。交通の要衝ではございますがこれといった名物もなく「多加垣の魔物騒動」にあやかったリッチー饅頭やリッチー人形、五賢ダルマくらいしか売り物がございませんので町の衆にとっては「リッチー祭り」は年に一度のかき入れ時でございます。
そんな多加垣の衆を震撼させる事件が起きる。
草木も眠る丑三つ刻、宿場一の大店「ゴヤの森」から悲鳴が轟いた!
世に言う「怪異の町 多加垣」
これより開幕、開幕ぅ〜
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ノレロを出てから早四日、おしのさんご一行は急ぐ理由があるじゃなしってんで、物見遊山をしながら旅を楽しんでおります。
ふと見ると人数が増えておりますな?
増えている面子は白のラガンとそのメイドのイエーネさん。ノーラちゃんの母親と言った方が手っ取り早い。
もちろん最後はノーラちゃん。
「おやまたどうなさったんです」と訊ねるおしのさんに対し、ガンさんこと白のラガンは呵呵と一笑。
「いえね、多加垣からリッチー祭りに出て欲しいと再前から言われておりましてね。
例年お断りしておりやしたが、リッつあんが多加垣に行くと小耳に挟んだもんで。あのご面相じゃあ行く先々できっと苦労するんだろうなと。
じゃあここいらで一つ、借りの一つも返そうじゃないかって思いましてね。まあワシの顔は知らんでも『白のラガン』の名前は知れておりますから、通行手型代わりになってやるかと、ここでお待ちしていて次第でさあね。
こっちのメイドはワシのお世話係のイエーネ。
しかしこんな面子じゃあロビン一人が若僧なんで、肩身が狭かろうなあと思いましてね、イエーネの娘さんにも同道を頼んだってわけだ」
「おやまあ。それはそれはありがとうござんす。旅は道連れとか。よろしくおねがいいたします」
とシラっと会釈で返すおしのさん。
その経緯でリッつあんはおしのさんとガンさんの出来レースと察しがつくが、若いロビンとノーラちゃんには察しがつかない。
ただチョッピリ嬉しい。
再会した瞬間、顔は火照るし心拍数は跳ね上がる。
大人達は親目線で「ここまでお膳立てしてやったんだ。あとはビシッと極めるんだぜ」と見守っている。
一日目。何も起こらない。初日だしな。仕方ねえか。
ニ日目。何も起こらない。おいおい。明日こそ極めろよ?
三日目。何も起こらない。何してんだよ、このヘタレ!!
いっそラッキースケベでも起こしてみるか?
おいちゃん達は甘酸っぱい刺激に飢えてるの!
本人達も満更ではありませんから問題はないっちゃないのですが、お節介焼きの爺婆が一線を越えさす相談を始めたところで多加垣からの使いの者が飛び込んできました。
「ラ、ラガン様ぁ! お助けを!」
「おや、どちらさんで?」
「た、多加垣から参りました宿場の警備の者でござんす」
「藪から棒にお助けをとは穏やかじゃねえな。何があった?」
「へい、町一番の宿に妖が現れる様になりやして、泊まり客を脅しやすんでさあ。
そうしてそのあと祭りの夜を楽しみにしていろ、ゴヤの森の大旦那が復活するぞと」
「「「 へ????」」」
一同の目がリッつあんに集中しますが、リッつあん「知らん知らん」とて首を振る。
それを確認しましたガンさん多加垣からの使いの者に向き直る。
「そいつは可笑しいやな。大体リッつあんが復活してんのはおめえさん達もご存知のはず」
「へい……え?ラガン様、なぜその事をご存知で?」
「そらまあ、そこにご本人が居なさるからなあ」
リッつあん、ようってな感じで手を振っている。
「…ゴヤの森のリッチー……あんたまさか…」
「そんな訳ゃねえよ。ロビンと一緒にバットの父つあんの墓参りだよ。今のワッチは帝都の片隅で楽隠居してるよ。
ちなみにラガンさんとは飲み仲間さね」
「本当ですかい、ラガン様」
「ああ本当だよ。いつもはお断りしている祭りの参加もリッつあんが多加垣に行くってんで通行手型代わりについてきたって寸法よ」
「よ、よかったぁ…心の臓が止まるかと」
「まあ乗りかかった船だ。この面子ならなんとかなるだろうさ。大船に乗ってつもりでおまかせな」
「おありがとうございます。では早速…」
「おいおい、時間を考えなよ。年寄りと女子衆に夜道はきついやな。
でも、あれだな。町の衆の心配ももっともな話しだ。
ロビン。すまねえが多加垣に先乗りしてくんねえか?」
「へい、ようがすよラガンの旦那。事のついでに何匹かとっ捕まえておきやしょう」
ロビンは町の衆と共に一足先に多加垣へと向かいます。
それを見送るノーラちゃんの心配そうな表情をみてジジババが揶揄う、
「おや、嬢ちゃん…旦那が心配かい?」
旦那なんて言われたにも関わらず、それにも気付かずコックリ頷くノーラちゃん。
おやおや、コイツはご馳走さま。初心な若い子っていいねえなんてほくそ笑むジジババ。
「ここ二、三日まともに眠れてないようだから心配で心配で」
これには一同推し黙る。
「役にたつ?」
「……寝るな、絶対」
「まあ、寝てても魔力は消してくれるから」
「タマノちゃんみたいに身体を持ってる魔物なら?」
「ボコボコにされる」
「まあ、ロビンのこった。ボコボコにされても寝ている気がするけどな」
「器物系の妖は動けなくななるから、一つくらいは」
「いや、さすがに仲間が連れ帰りましょう」
盃片手に喧々諤々。
まあ明日は明日の風が吹く。
寝過ごさないようにと部屋の灯りを落としましたので本日ここまで。