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駒鳥(ロビン)捕物控  作者: つくも拓
跋扈するもの
16/18

狐火(七)

ここで一旦、別室に連れられた信太の女将とカイノ伯に目を転じます。


ロビンとリッつあん、カイノ伯が呼んだ「おしの」と言う名が気にかかる。

「ゴメンなさいね、お見苦しいとこ見せちゃいまして」

「いえいえ、何かご事情があるんでやしょう?

時に女将さん、おしのさんとおっしゃるんで」

「ええ。それが何か?」

「いえ、ちょいとしたことで。

それより女将、いやさおしのさん。バットのとっつあんとどう言ったご関係で?何がござんしたんで?

よろしけりゃお話しを伺わせていただけませんか」

おしのさん、コックリと頷き訥々と話しを始めます。


バットのとっつあんはカイノ伯の手下であったこと。

おしのさんとバットのとっつあんは恋仲だったこと。

互いに手を取り身を固めようとした矢先、二人を引き裂く事件が起きる。

ぶっちゃけて言えば、カイノ伯が政敵を嵌めて追い落とすのにちょいとばかりえぐい手段を使った。

カイノ伯の思惑通りに事は運び、政敵を追い落とすことに成功いたします。

さすが妖怪の異名を取るカイノ伯ですが、その相手も一筋縄にはいかない曲者。何か仕掛けられた事には気がついております。

しかしさすがに表立って仕掛ける訳にはいかないが、そのまま捨て置くには腹の虫がおさまらない。

ここでカイノ伯が一計を案ずる。

それは仕返しの相手を用意してやること。

自分の手下から名の知れた誰かが姿をくらませば、そちらに目がいくはず。腕が立って時間を稼げば稼ぐほど都合が良いってんで、白羽の矢が立ったのがバットのとっつあん。

カイノ伯はおしのさんとも面識があり、二人の事も祝福しておりましたから悩みに悩みましたがこれ以上の適任がいない。

カイノ伯、バットのとっつあんとおしのさんに手をついて頼みます。

「五年、五年だけ時間をくれ。それだけあれば必ずほとぼりを冷まして呼び戻す!」

主筋であるカイノ伯に手をついて頼まれれば断りにくい。バットのとっつあん、おしのさんを残しノレロを離れる。

しかしカイノ伯が宰相についた翌年、オウシュウが大飢饉に見舞われる。

その後も地震だ火事だと災難が立て続けに起き、カイノ伯はかつての政敵すら呼び戻して対応にてんてこ舞い。とてもじゃないがバットのとっつあんにかまけてられなかった。

バットのとっつあん、初めのうちこそ追手もかかりましたがすぐに隠れ回る必要もなくなります。

元のお役目に戻ろうといたしますが、カイノ伯から呼び戻しの連絡が地方には届いておりません。

各地のお代官様、詳しい事実は知りませんから、バットのとっつあんはカイノ伯のご不興をかったものだとばかりに思いたらい回し。

おかげで、カイノ伯がバットを探そうにも探せなくなっておりました。


「あんな災難が続いたんじゃ、宰相様は大変だってな事はわかります。だからあたしも我慢いたしました。

でもね、ここ十年ほどは大きな騒ぎもなくご安泰じゃござんせんか。

トーリの旦那はあたし等の事なんざお忘れになったもんだと思いました。


あたしはトウカ様の眷属に名を連ねておりますので、お許しがなければこの地を離れる事ができません。

バットの後を追おうと何年もお願いを出しておりますがお許しもまだ出ない。


一日千秋の思いで日々を過ごしておりましたところ、ロビンが現れました。

バットそっくりの真っ直ぐな性格と十手術、捕縄術。

バットの子供……?


ロビンに罪はござんせんが、バットはノレロを離れたあとあたし以外のどなたかと所帯を持ったんだ…


そう思うとトーリの旦那に恨み言の一つも言いたくて


ねえ、ロビン。

あんたバットの息子だろ?

バットは元気かい?

おっかさんはどんなお人だい?」


「女将さん、あんたがおしのさんだったんですね」

ロビンはおしのの手を握る。

「? 先程もそう申しましたよね?」

「女将。そう言う意味じゃないんで」

リッつあん、横からしみじみ語る。

「女将。ロビンは拾い子なんでさ。

とっつあんは引き取り手のないコイツを男手一つで育て、コイツはとっつあんに憧れて十手持ちの道を歩いてるんでさあ。十手捕縄術はとっつあん直伝。似てて当然でさあな」

「じゃあ、バットは」

「所帯なんざもっちゃ居ねえ、やもめのままで昨年鬼籍に入りやした」

「……うそ」

「うそじゃありませんや。

で、その今際の際におしのさんの名前が出たんで」

「え?」

「昔馴染みのおしのが迎えに来てらあ。しっぽりやってるんでゆるゆるおいで。

そう言ってカクリと。

なモンで、わっしもロビンもおしのさんって方はてっきり亡くなっているもんと」

「バカな人だねえ、あの人は…」

「女将さん、あっしには母親はおりません。

でも親父がずっと思っていたのなら、あんたはあっしにとっておっかさんだ。おっかさんと呼んでもいいかい?」

「いい歳して甘えんじゃないよ。まあ、あんたが祝言あげる時には母親として出させてもらおうかい」


三人が打ち解けあって笑みも出た頃、狐面の巫女が現れました。

「皆さま、本殿の方にお戻り願えますか?

トウカ様よりお伺いしたい事とお願いがあるそうです」

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