狐火(三)
やっと続きを書き始められました。
お待ち頂いていた皆様、すみませんでした。
江戸言葉がなかなか上手く出て来ず苦労しております。遠山の金さんや伝七捕物帖で復習しながら書いてます。
語られまするは輝くステージを夢見た一人の少女の物語。
モニター越しに見たキラキラ輝くアイドルスター。
ああ、あたしもあんな風に輝きたい。
幼心に刻んだ誓い。
変化の術も板に付き、安定して人間の姿になれるようになったところで帝都を目指す。
多くの仲間と鎬を削り、遂に射止めたデビューへの道。
「テールズ」のセンターとしてスターダムを駆け上がる。
歌って踊ってファンサービス。大変ではあるが、自ら選んだ充実の日々。
そんな日々にも終わりが来る。
好事魔多し、一寸先は真っ暗闇よ。有頂天には魔が潜む。
ファンはアイドルにとりなくてはならない物。
自分を推してくれるファンという物は、それはそれはありがたい物ですので「大事にするように」と事務所からも教わります。
自らも「ファンあってのアイドル」と肝に命じて励んでおりましたダッキーですが、どこの世界にも度が過ぎた者がいる様で。
粘着気質の悪質ファン、汝の名はストーカーなり。
並のストーカーなら良かったのですが、ダッキーに付き纏ったのはちぃっとばかり質が悪い。
どこぞの大物のドラ息子らしく、金も暇もコネもある。
他のファンと揉め事を起こして逮捕されても直ぐに解き放たれてお咎めなし。
そのうちステージにまで口出しするようになり、他のメンバーの娘達にまで迷惑が及ぶようになり……
「ひでえ話しだなあ…」
「あの男の顔を思い出すと今でも怖気が走ります。
あの男の所為でメンバーの雰囲気も悪くなって。それがパフォーマンスにも現れて。
いえね、皆んなはあたしの所為じゃないって言ってはくれましたよ。
でもパフォーマンスが落ちれば人気も落ちる。
そんなある日、社長に呼ばれて暫く身を隠してくれと。ほとぼりが冷めたら必ず連絡するからって。
メンバーの皆んなの事を思うと我が儘は言えませんでした。
連絡をくれるって言う社長の言葉を信じ、あたしは身を隠す事にしました。
けど、社長からの連絡はありませんでした。
よくよく考えると、毎年のように新しい才能が現れるアイドル業界で二年も姿を消せば誰も覚えてくれちゃおりません。
そうこうするうちに、テールズの皆んなもアイドルを辞めてそれぞれの道を歩んでおります。あたしもこの通りアイドルやるには少し薹が立ちました」
「タマノちゃんよう、オメエさんこれからどうするつもりなんだい?」
「未練ですが、いま一度あの輝くステージに立ちたいと。
そんなある日、テールズの復活ライブがこのノレロで開催されると聞き及び、居ても立ってもおれず…」
「社長さんから連絡があったのかい。良かったじゃねえか」
リッつあんの言葉に、タマノは悲しげに首を振ります。
「……そうかい。
でもよ、タマノちゃん。早まって莫迦な事を考えるんじゃねえぜ」
「……」
「わっちはいま成行じゃああるが、ノレロの治安を守る側に与してるんだ。
身の振り方は考えてあげるから、騒ぎを起こしてわっちのこの手でタマノちゃんに縄を打つ真似はさせねえでくんなよ」
「……ゴヤの大旦那。
お気持ちはありがとうございます。
ですが、お約束はできません。
ライブは明後日。明日までに何の便りもなければ、あたしにも自分が抑えきれるか分かっちゃおりませんので」
「だったらこの店から出ないでおくんねえ!
外に出たなら待った無しだ。頼むから大人しくしてくれねえかい」
「大旦那の願いとはいえ、こればかりは。
こんな莫迦な娘のことなんざお忘れください。
大旦那とお話しする事ができて楽しゅうございました。いつ何時迄もお健やかに。
これにてお別れでございます」
そう言うとタマノは身を翻し店の外へ踏み出そうとしますが、店の外にはクロモン配下の捕方の群れ。
驚いたタマノはリッつあんの方を振り返る。
「すまねえなぁ。お前さんに暴れられちゃあ大事になるからさ」
「もしやさっきの小僧に」
リッつあん、こっくりと頷きます。
「いまなら何にもやっちゃいねえ。
わっちを信じて店ン中に戻ってくれねえかい?」
リッつあんが自分を案じてくれているのも分かる。でもあたしがこの帝都に来たのは……
タマノは逡巡の末、店の外へ足を向けたその時、捕方の中から声がかかる。
「ダッキー…? ダッキーではないか!!」
声の主の顔を見てタマノは凍り付きました。
『なぜコイツがここに!』
声の主は捕方を掻き分け前に出て参ります。
「余の顔、見忘れたか?」
効果音が鳴りそうな場面で引いて、申し訳ありません。続きはなる早でお届けします。
次回で「狐火」は完結予定。
しかしながらシリアスは精神衛生に良くありませんねえ。ちゃと本道に戻りますので。