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駒鳥(ロビン)捕物控  作者: つくも拓
跋扈するもの
11/18

狐火(ニ)

のたうつロビンはさて置いて、とばっちり食ったトノキンまで飯にありつけないのは気の毒ってモンだと、リッつあん女将に詫びを入れ二人は食事にありつけます。

二人の前に昼食が運ばれてきた頃合いに、暖簾を潜って現れたのは佳い女。歳の頃は三十路手前。ほんのり薫る女の色気。

営業やってますかい? 冷やでいいから一本お願い」

口にする言葉も艶があり、思わず見惚れる若造二人。その視線を感じてか、件の美女は三人の座る卓に目をむけニッコリと営業スマイル。

そんな中で、リッつあん一人が怪訝な顔。

「姐さん、聴き覚えのある声だねえ。どこかで会った事がねえかな?」

「おや、真っ昼間からナンパでござんすか?

……

もしかして、ゴヤの大旦那じゃあござんせんか?

あたしですよ、五尾の」

「五尾…もしかしてタマノちゃんか!?」

コックリ頷くとタマノはお銚子を持ってリッつあんの前に席を移します。

「おう、オメエら。コイツは昔馴染みで妖狐のタマノってんだ。オメエら小僧じゃあ相手にしてもらえねえから手を出すんじゃねえぞ。

ワッシはコイツと昔話がしてえから、オメエら飯食ったら早く仕事に戻んなよ。

そうだ、トノキン。仕事のついでに届け物を頼まれてくれねえかい?」

「へえ、宜しおま。何処のどなたに何をお届けすれば?」

「サリバンの旦那に頼まれてたモンが手に入ってね。ちょいと待ちな。一筆したためるからよ。


ほい、コイツを届けておくんな。コイツは手間賃だよ」

「いつもすいませんねえ。じゃあ、確かにお預かりいたします」

預かり物を懐に店を出るトノキン、頭を摩りながら後を追うロビン。「またのお出でを」と声をかけるノーラ。それを見て小首を傾げるタマノ。

「ゴヤの大旦那。さっきの若いのって、普通の人間ですよね?」

「ああ。実はな、あの頭を摩ってた若いのの親父にちょいと借りができてな。

まあ一杯。りながら話そうじゃねえか」


リッつあんが昔話の花を咲かせております間に魔物についてのご説明をば。

世の人々は獣人等の亜人までは「ヒト」と認識しております。基本が二足歩行でヒト型、言語を解し交配もできる。これが「ヒト」として認識される条件となっております。

では、魔物ってえのは?

端折って言えば、ヒト型をしてはおりませんが人語を解するものの総称になります。

獣に似ていりゃ獣型の魔物。虫に似ていりゃ蟲型の魔物。百鬼夜行に出てくる様な器物の魔物なんてのもおります。

人語を解するんで、リッつあんがゴヤの森で暮らしている時のお相手も務まった訳で。

そして魔物ってヤツは大概魔力を持っております。中には魔力を使って身体の作りを変化させ、人間に擬態するヤツもおります。

擬態が下手だと人里離れて隠れておりますが、上手い魔物でしたら人の世の町中に潜んで暮らしている魔物もおります。

タマノはそんな、町中に暮らす魔物の一人。妖狐ですから本体は狐の姿をしております。


「大旦那、魔力を無効化してしまうって…大丈夫なんですかい?」

「ああ。どうもロビンは身体の外に出た魔力を消しちまうみてえだが、身体の中にある魔力までは消せねえみてえだからさ。

もし身体の中の魔力モンまで消せるとあっちゃあ、ワッシなんざとっくに骨に戻っちまってるさね。もしかしたら骨も残らねえかもな」

「少し安心いたしましたよ。この町中で本当の姿を現しちゃあ大騒ぎになりますからね」

「ところでタマノちゃんよう。今は何して暮らしてるんだい? 夢は叶ったかい?」

「あのう…」

「おう、ノーラちゃん。追加のお銚子かい。ありがとよ。

ン? どうしたンだい?」

ノーラちゃん、キラキラした目でタマノを見つめております。

「あのう、もしかしたらダッキーさんじゃあないですか?」

「ダッキー?」

「やっぱりダッキーさんだ! 

テールズの伝説のセンター!!」

「懐かしい名前だねえ」

タマノは淋しげにお猪口に目を落としました。

「ノーラちゃん、コイツの事を知ってるのかい?」

「アタシの世代で知らない子なんて居ませんよ。

テールズは大人気のアイドルグループで、ダッキーさんは第一世代の不動のセンターだったんですよ!

歌も踊りもキレッキレで、デビュー曲の最後の決め台詞『虜にしちゃうぞ!』が出る瞬間なんて、男の子も女の子もドッキドキ! ライブじゃあ、気絶者続出だったんですよ!」

ノーラちゃん、完全にいちファンの顔になり、語る言葉も興奮まみれ。

それに対してタマノは「そんな日もあったねえ」と遠い目をしております。

そして涙がついついポロリ。

これにはリッつあんもノーラちゃんもビックリ。

「どうしたってんだい?」

「ごめんなさい! アタシったらつい興奮しちゃって」

「いいのよ、お嬢ちゃん。ファンの前で見苦しいトコ見せちゃって。アタシの方こそごめんなさいな。

大旦那、愚痴になりますけど聞いていただけますか?」

タマノことダッキー、涙を袖で抑えて訥々と話しはじめました。



長くなるの(?)で以下次回。

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