承前
ござい東西〜
本日よりお目に掛けまするは花の帝都ノレロにてその人ありと謳われたクロモン卿のブンチ。そのブンチに身を寄せます少年ロビンと、故あってロビンを助ける事になりましたリッチーが繰り広げまする活躍の数々にございまする。
悪人は元より、亜人妖怪魔物が引き起こす数々の難事件に二人はどのように立ち向かうのか?
本編は次回からお目にかけるとしまして、本日は承前、事の成り立ち。
リッチーとロビンの出会いからクロモン卿の元に身を寄せるまでをお話しさせて頂きとうございます。
ここはノレロの都より少し離れた地方都市多加垣。その多加垣から少し離れたゴヤの森の奥深く、一人の魔法使いが住み着いておりました。
この魔法使い、魔道を極めんと己が肉体を不死と化し、魔物化となる事に成功いたしました。
さあ、これで魔道を極められる。
最初こそ意気込んでおりましたが、不死になる前の研究が終わると次の探求を始める気がとんと起きない。
何せ時間はたっぷりある。
慌てる事もないかってなもんでダラダラと日々を送っておりました。
しかし人間、ダラダラする事にも飽きるモンで、閉じ籠っているのもつまらない。
魔物と化した以上、人里に下りるのも怯えさせるだけだし配下の亡霊達では会話は楽しめない。
そうだ、魔物なら……
酒はあるは食べ物はあるわ。単に呑んで食って騒ぐだけ。招待ばれた魔物達も、最初は何がなんだか訳が分かりませんでしたが暫くすると慣れてくる。
「ゴヤの大旦那」なんつって煽て上げ、次第に宴会の回数も増えてきた。
するってえと、評判を聞いて遠方からも魔物が集まるようになってまいります。
そうこうするうち、タカガキの周辺で魔物を見たって噂が…。
街の衆にしてみれば気が気じゃありません。
ゴヤの森の奥で何か大変なことが起きている!
強力な魔物が居るようだ!
タカガキの住民達は魔物達が宴会をやってるだけなんて想像もつきませんから、とうとう怯えて帝都に使いを出しました。
魔物が大量に集まっています、助けてーー!
結成されたる討伐隊。
精鋭騎士団と五色の魔法使い。
討伐隊がタカガキの街に着いたその日に森から異臭が立ち込める。
これはしたり。先手を打たれた、やれ急げ! とばかりに進軍ラッパが鳴り響く。いざ出陣〜!
片や魔物達は今日も今日とて大宴会。
足元のおぼつかない魔物の一体がリッチーの酒の入った壺を割ってしまいました。
この壺の中身、酒と申しましたが酒とは名ばかり。リッチークラスの魔物となると生半可な酒では効きません。もはや猛毒と言っていい代物でしたので異臭が半端ない。これが居館の外に漏れて異臭騒ぎの元となった訳ですが、当の居館の主人はと言えば飲み過ぎで高鼾。客は勝手にどんちゃん騒ぎ。そこに攻め込む討伐隊。
魔物達は何が起きたか訳が分かりません。いい気分で楽しんでいたところに武器を持った団体がなだれ込んで来たわけですから驚き慌てまするが、酒がしこたま入っているので反撃もままならない。
よくよく考えてみれば、タダ酒が飲めるからここに居るのであって、体を張ってまでここを守る義理もない。命あっての物種とばかりに森の奥に消えて行く。
そうとは露知らぬゴヤの森の大旦那、二日酔いでフラフラしながら迎え毒をキュッ。
クカーっ! やっぱ迎え毒は効くなあ
そこに飛び込んで来たのは白魔法。
元よりそんな物は大して効きはしませんが、毒でフラつく頭に衝撃がゴーーン
さすがのリッチーも倒れ込む。
そしてそのままグオオオオオオっと大鼾。
居館に響くリッチーの鼾は討伐隊の耳には断末魔に聞こえます。
そしてフィナーレは、撃ち込まれた赤魔法で崩れていくリッチーの居館。
オオオオオオオオと上がる勝鬨の声。
これが世に言うタカガキの魔物退治の顛末でございまする。
さて、時は流れて十数年。
ゴヤの森の大旦那ことリッチーは、自らの居館の瓦礫からやっとの事で這い出してまいりました。
なんの事はない。リッチーの呪で縛られている亡霊達が瓦礫を撤去するのにそれだけの時間がかかっただけなのですが、それだけ動けなきゃどんなに強い毒も抜けると言うもの。
久しぶりに自由になったリッチーは、事の顛末を亡霊達に尋ねます。
魔物が集まりドンジャラホイ。いきなり異臭がプ〜〜ンと漂い、バタバタと倒れる住民達。
それは街の衆も怖かったろうなあ。
このリッチー、元々は他人に迷惑をかけないようにと森の奥に居を構えた訳で、悪意より良識があった。
居館を壊されたのは「さすがにやり過ぎじゃねえかい?」とは思うものの、元々の否は自分にある。
後々の事を考え、ここは大人の自分が折れてやろう。互いに良き隣人関係を。てな事を考え、手下の亡霊達に土産を持たせてタカガキへ向かいます。
ところが町の衆にしてみれば、リッチーが復活して攻めて来たようにしか見えやしません。
討伐隊はもういない。
震え怯える町の衆。
そこに立ち塞がる一人の好漢 バット。
昨年タカガキに赴任してきた警邏官で、幼い子供を背負いリッチーに立ち向かって行く。
不思議な事に、バットが近づくとレイス達は姿が保てず消えて行く。
慌てて亡霊達を下がらせるリッチー。
バットは十手と呼ぶ金棒をリッチーに突きつけ啖呵を切った。
ヤイヤイ、テメエどう言う了見でこの町に現れやがった!
凄むバットに対し、リッチーはイヤイヤこれこれこう言う訳でと町を訪れた理由を話し出す。
そうかい、家を壊されたってえのに…アンタできたお人だなあ。よっしゃ、オイラが一肌脱ぐよ。
そう言ってバットは町の衆に説明を引き受ける。
おいおい皆の衆、斯く斯くしかじか……
バットの話を聞いて胸を撫で下ろす町の衆。
しかしリッチーの容貌を見て腰を抜かす。それもそのはず。リッチーと言えば不死の王、ノーライフキング。その容貌はと言えば骸骨そのもの。
安堵から一変、大恐慌。悲鳴の中で倒せ殺せの大合唱。
これにはバットも怒り出す。
間に入った顔を潰されたのもあるが、何よりスジが通らねえ。
おう、テメエら! 心得違いをしてねえか?
この御仁は宴会やってるところにカチコミかけられたってえのに、迷惑かけた、すまねえと土産まで持って頭を下げてきてるんだぜ?
迷惑かけたにしろ十数年も埋められて身動きできなくされたんだ。お勤めは十分果たしてるんじゃネエのかい?
お勤め果たして前非を悔いて、これからは仲良くしましょうと挨拶にきたヤツを、顔が怖い、魔物じゃねえかとブッ殺そうとするってえのは人としてどうなんだい? スジが通らないとは思わねえのか!?
バットの一喝に恥じ入るものの、そうは言われても怖いものは怖い。
ゴヤのリッチーもその気持ちを理解できるのか、バットの怒りを宥めに入る。
旦那、皆んなが怯えるのももっともだ。家の事も、もういいや。犬に咬まれたとでも思って諦めるよ。
強姦された娘っこのようなことを言うなよ、気持ちが悪いな
リッチーが袖を咥えてヨヨと泣き崩れると、町の皆んなにドーンとのしかかる罪悪感。
リッチーはすかさず追い討ちをかけるように畳みかけます。
仲良くしてくれなんて贅沢は言わねえ。せめて静かに暮らさせておくんなさいな
リッチー、なかなかの役者振りを見せつけます。
おう、リッチーの。町の衆はすぐには打ち解けられねえかもしれねえが、せめてオイラだけでも友達になるよ。
良い酒が手に入ったら顔を出すから一緒に飲もう。だからよ、気を取り直して元気を出しねえ
斯くしてバットはゴヤの森のリッチーと友誼を結ぶ様になります。
時は流れてかれこれ十数年。
バットの背に負われていた子供も今では立派な青年になっております。
この子がロビン。本編の主人公です。
ロビンは家族を盗賊に襲われ皆殺し。自身もあわやと言うところを通りがかったバットに拾われタカガキへ。身寄りを探すも見つからずじまい。
憐れに思ったバットが引き取り、男手一つで育てております。
親の背中を見て子は育つ。生みの親より育ての親。強きを挫き弱きを助ける。スジを通して決して折れないバットの背中を見て大きくなったロビン。
自分もいつか、オヤジみてえな立派な御用聞になりてえと憧れます。
実の子のように可愛いがっている子供にそんな事を言われて喜ばない親はいません。
バットは暇を見つけては十手捕縄術を伝授いたしました。
バットがお上の御用で忙しい時はゴヤの森で読み書き算盤をリッチーに教わり、一端の知識を身につけまする。備わってないのは常識だけ。
まあバットとリッチーに育てられたにしては健全に育ったと言えましょう。
しかし、ロビンには他人にない能力が備わっておりました。
気づいたのはリッチー。
ある日誤って火魔法をロビンの方に飛ばしてしまったのですが、ロビンに向かった魔法の火は途中で雲散霧消。消えてしまった。
腐ってもリッチー。火魔法如きで失敗するなどあり得ない。おかしいと思って今度は狙って魔法を放つがやはり消える。他の属性の魔法でもやはり消える。
こりゃ驚いた、この子は世にも珍しい天然の魔法無効児じゃないか!
意気込んでバットに話すと「へえ〜そうかい」の一言。
そうかいじゃないよ、この子には魔法攻撃が全く効かないんだ。それだけじゃない。
この子がいると、レイスみたいな実体を持たない魔物は存在できなくなるんだよ。
リッチーが興奮して巻くし立ててもバットは何処吹く風と言った風情。
オイラは魔法なんざ使えねえから関係ねえや
リッチーはバットらしいとも思い直し、気にする
のも馬鹿らしくなりました。
楽しい時間も終わりがございます。
矍鑠としていたバットも齢八十にも届かんとしており、体のあちこちにガタがきた。
糖尿で目は霞み、腹にシコリも出来ている。
ああ、もう長くないな
バットはそう悟ると、今や刎頸の友となったリッチーのところへロビンを使いに出す。
最後の力を振り絞り、寝床の上で座って二人を待ちます。
バットのとッつあん、何用だい?
リッチーはそうは言いますが、バットの顔色を見て「長くはないな」と悟ります。
「ロビン、リッつあん、頼みがある」そう切り出すバットにリッチーは覚悟を決めます。
バットは痛みに抗いながら訥々と言葉を紡ぎます。
ロビンには、十手と万力鎖は形見にやるが紫の房はおまえにはまだ早い。帝都のクロモン卿に返上してほしい。おまえが立派な御用聞になりてえんなら、この紹介状をお渡ししてお世話になるがいい と。
リッチーには、ロビンが一人前になるまでよろしく頼む、と。
さて、この世の最期の仕事もお終えだ。
昔馴染みのおしのちゃんも迎えに来てらあ。
ロビン、おまえがオヤジと呼んでくれて、オイラは幸せな人生だったよ。
リッつあん、一足先に行ってるよ。おしのちゃんとシッポリやってるからゆるゆるとおいで。
じゃあな
そう言うと、ゼンマイが切れた人形のように首をコトン。座ったまんまの大往生。
ロビンとリッチー、オヤジ、トッつあんと滂沱の涙。バットの葬式には町の衆も大勢参列。如何に慕われていたかが偲ばれまする。
弔いもすませ、腰には形見の十手と万力鎖。懐にはクロモン卿への書状。
町の衆に見送られ、ロビンとリッチー、帝都ノレロへと旅立ちます。
帝都で二人を待ち受けるのは鬼か邪か?
クロモン卿の元で繰り広げられまする捕物活劇、ずずずいっとお楽しみいただきとう存じます。
お名残惜しゅうございますが、本日これまで!
漫談調で書いてしまい、思ったより長くなりました。
本編は普通の文体で書く予定です。