06話 交久瀬 伊織
《美澄》
「わ!!」
《びっくりすんな。慣れろよ》
(無、無理言わないでよ)
《明日のことだけど》
(うん。)
《遠出をすることになった。》
(........うん?)
《いや、だから遠出。》
(え?)
《泊まりになるかもしれないってことだ》
(えーーっ、と、明日は日曜日、ですよね?)
《おう》
(泊まり、ですか?)
《おう》
(が、学校は......)
《その時は姉さんが何とかする。あ、親とかに》
(それは大丈夫。)
《だ、大丈夫じゃねぇだろ、説明を》
(うち親いないから。だから......大丈夫。)
《........悪い。》
(いや......大丈夫だよ。..................親戚がいるのかどうかも分からないぐらい遠縁で、私家に1人なんだ。保護者のサインがいる書類とかそういうのがどうなってるのかも分からないし。)
《どういうことだ?》
(知らないうちに済まされてるの。美澄 詞っていう人が私の身元引受け人みたいなんだけど、見たことないの。)
《へぇ............》
(ごめんね!暗い話して!とにかく、親に説明とかそういうのは多分大丈夫!!じゃあ明日は一応着替え持って行っといた方がいいのかな?)
《あぁ。一応な。》
(分かった。何時にどこに集合?)
《明日の朝9時頃、お前の家に迎えに行くから。》
(え、いいの?)
《姉さんに言われたんだ。集合場所までの間に何かあったらどうするんだって》
(あはは、過保護だなぁ)
《これからも迎えに行くから。待っててくれたらいいよ。》
(わ、分かった)
や、優しいな。言い方が、今までと比べ物にならないくらい優しい。伊織くんじゃないみたいだ。
《あと榮ともう1人来るみたいだけど、そいつらとは現地集合だから。》
(分かった。)
《じゃ、また明日。》
(うん、また明日。)
榮さんともう1人.....どんな人なんだろう。怖い人じゃないといいな.......というか、霊媒師って何人くらいいるんだろう?海外にもいるのかな。
「遠出、か.......」
あ、どこまで行くのか聞いてない。まぁいいか。
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《ピンポーン》
「お待たせ、ごめんね」
「そんな待ってねーよ。ちょっとこっち来て」
「なに?」
人通りの無いところに.....
「え、ほんとに何?」
「我、式を統べるもの。汝、その呼びかけに応え、我に従え。“玉藻前”」
「式神!?」
『全然呼ばぬから忘れたのかと思ったぞ?久しぶりだなぁ伊織』
「あぁ。久しぶり。会えて嬉しいよ」
『本当に、伊織は妾のことが好きだのぉ。...............なんだ、その娘は。』
「は、初めまして、美澄千歳といいま『妾は女なんて認めんぞ!!!!!!』
えぇ!?なに!?
「待て待て、こいつはそういうんじゃ、」
『けっ、この女も、どうせ伊織の見てくれとポテンシャルに惹かれたんだろう?中身なんて見てないうっすい女じゃ!』
この女も?
「今までにもそんなことが?」
『伊織に近づく女はみーんなそうじゃ!ちょっと伊織が可愛い顔をしているからって、妻にして欲しいだの抱いて欲しいだのごちゃごちゃ言って来るのだ!』
「抱っ」
「おいおい、変な事言うな。そんなこと言ってくるやつ居ないぞ。」
『妾は知っておるのだ!』
「それ全部アヤカシじゃないのか?」
『お前の周りの人間の話じゃ!!心の中で好き勝手思うとるやつがごろごろおるのだ!!こちらにだって、お前の式になりたいと言うとるやつが山ほどおるんじゃぞ?』
「趣味の悪いやつが大勢いるもんだな。」
『趣味が悪いなんてことあるか!!!!妾たちを.........妾たちをそんなふうに扱ってくれる奴はお前だけじゃ。妾を信じてくれたのは、話してくれるのは、』
「もういいよ。悪かった。泣くなよ。」
『な、泣いておらぬわ!で、何用で妾を呼んだのじゃ?』
「遠出の仕事でな。お前に連れて行ってもらいたいんだ。」
『また変化しろと言うのか?妾はあれになるの嫌いじゃと言うとるのに』
「お願いだよ。お前しか頼れないんだ。」
『ぐぬ........仕方が無い。伊織の頼みだからな。聞いてやるわ。ただし!そこの女!』
「は、はい!」
『伊織に惚れとるのか?』
「えぇ!?いやいやいや!惚れてないです!」
『ならばなぜ共におるのだ?こちら側に踏み入るのに得など無かろう?人間などすぐ死んでしまうというのに。』
「.........私は、伊織くんに助けられて、自分の知らなかった世界を知って、もっと自分の知らないことを知りたいと思いました。そして、今はまだ何も出来なくても、いずれ、私も何か力を手に入れて.......いや、手に入れられなくても、どんな形でも、伊織くんや皆の事を側で助けていきたいんです。私も一緒に、沢山の人を救いたいんです。..........感謝されないとしても。」
『伊織が、お前の力なぞ必要とすると思うのか?』
「........彼はきっと、必要だとしても、“必要だ”って口には出さない人だと思うから.......側で見て、気付いて手を差し伸べたいんです。」
『......っははは、出会って数日でそこまでこやつのことを思うか!お主も相当間抜けじゃのう。』
「ま、間抜け、」
『間抜けは嫌いではないぞ。まだまだ言っておきたいことはあるが.....いいだろう。そばに居ることを許してやる。こやつも共に場所まで送り届けてやろう』
「あ、ありがとうございます!」
「はぁ......なんで隣でこんな恥ずかしい話聞いてるんだ俺は.......ま、いいや。じゃあ玉藻前、頼む」
『任せろ。』
「何するの?」
「玉藻前は狐だ。絨毯に化けてもらって、場所まで送り届けてもらう。」
「へぇ.....でも空を飛ぶなんて、もし人に見られたら、」
「俺の影で隠す。」
「影?」
『伊織は影使いじゃからな。自身の影を薄くして、存在を薄くすることが出来るんじゃよ。』
「な、伊織くんは一体幾つの術を.......」
『お主、まだ伊織について知らぬのだな。』
「は、はい....家に行くってなった時に教えるって文月さんが....」
『はっ、あの女、まだ生きておったのか。』
「あの女って....」
「あんまり姉さんの名は出すなよ。玉藻前は姉さんのことが嫌いなんだ。」コソッ
「嫌いって....なんで?」
『あの女の全て分かっているような態度が気に食わんからだ!人の子のくせして偉そうに!思い出すだけで腸が煮えくり返ってくるわ!!』
うわ、思ったより嫌ってる.....
「ほら、早く出発するぞ。」
『む.....もう少し伊織と話したいぞ。変化すれば伊織と話しにくくなるではないか』
「なんのために呼んだと思ってるんだよ.....終わったら沢山話してやるから、変化に集中してくれ。」
『ぬ.......仕方が無いな。』
「よいしょ。ほら、美澄も早く乗れ。」
「え、お、落ちない、?」
「落ちねえよ。ほら、手。」
「ご、ごめん.....ありがとう」
『乗ったか?ならば出発するぞ。』
「頼む。場所は荒雲入道だ。」
『分かった。』
「荒雲入道......」
『隣の県だからな。時間はかかるだろ。』
「へぇ......でも遠出は久しぶりだから、ちょっと楽しみ!」
「良かったな。......................不本意とはいえ、人の事情を一方的に知るのは俺の気が済まねえから、俺の家のことも話す。」
「え、いや、そんな、いいって、」
「いいから。」
「は、はい。」
「......榮から少しは聞いてるかもしれねぇけど、俺の家は今俺と姉さんの2人しか居ない。父親も母親も死んでる。俺の術は、交久瀬の術式、陰影操術、あと母方の御霊の術式、血操術。それと言霊操術と、式神操術、妖操術。」
「そんなにいっぱい......みんなそうなの?」
「いや、大抵1つだ。あっても2つ。俺は異常なんだよ。」
「い、異常.....」
「式神操術以外は、全部産まれた時から体に刻まれた術式だ。」
「式神操術は違うの?」
「............式神操術には式神操術の家系があって、言霊には言霊の家系がある。だが俺は言霊使いの家系で無いにも関わらずその術式を得た。」
「言霊使いって確か、」
「そ。忌み嫌われてる術の1つ。人も簡単に殺せるかららしい。血操術もその1つだ。だから俺は、交久瀬の名折れだと言われ、父親は俺を殺そうとした。」
「そんな、親が自分の子供を、」
「まぁ、珍しいことでも無いよ。でも俺の場合、家の跡取りになり得る長男を殺したとなれば、他の家に顔向けできない。だから俺に禁呪をかけ、不幸な事故だったということにしようとした。」
「禁呪って?」
「言葉の通り、禁じられている呪術だ。その1つ、式神を赤子の身体に宿らせる呪術。成功すれば、家系で無くても式神操術を使えるようになる。」
「何故それが禁呪に?」
「50%の確率で死ぬからだ。」
「死、」
「数人の術師が血で陣を描き、その陣の中に産まれて半年もしない赤子を入れ、術式を発動する源である願力を、陣に流し込む。そうやって無理矢理赤子に式神を呼び出させる。まぁ産まれて半年もしない赤子は、まだ肉体も精神も式神を呼び出すほど安定していないからほとんどは耐えられない。かといって成長すればするほど術をかける術師に負担がかかる。」
「だから、術師の安全の方をとって産まれてすぐのうちに術を......」
「成功しても長く生きることが出来ない可能性が高く、呼び出す式神が強ければ強いほど成功率は下がる。犬神は強い式神だから、本当に俺を殺す気だったんだ。そんな術を俺はかけられたが、生き残ってしまった。術で結ばれた赤子と式神の契約は強く、絶対に引き裂かれることは無い。俺は、より強い力を手に入れてしまったわけだ。」
「それで、お父さんは満足したの、?」
「まぁ、する訳が無いよな。俺は何度も危険な任務に行かされた。でも犬神を使役している俺は見事全ての任務から生還。焦った父親は直接俺を殺そうとした。その父親を、姉さんが殺した。」
「ふ、文月さんが、?」
「あぁ。それで、交久瀬の人間をほとんど殺し、姉さんが交久瀬家当主になった。」
人間を大量に殺した.......文月さんが、?
「まぁ、俺が今話せるのはこれだけだ。あとは姉さんから聞いてくれ。」
「うん.......」
「気になることは聞けば姉さんが話してくれると思うけど.....何が聞きたい?」
「えっ、と.........誘惑者について詳しく知りたいかな.......あとは、今は思いつかない。」
「それなら多分姉さんが話してくれるだろ。」
「分かった。.......ありがとう。話してくれて。」
「別に、」
「息子を殺すために禁呪を使うような人もいるんだ...」
「禁じられているのには必ず理由がある。術をかける側か、かけられる側。ものによってはその両方に、大きな代償が伴う。禁呪なんて、使うもんじゃねえよ。」
『嘘をつけ!伊織は妾に禁呪を使ったではないか!』
「お、おい」
「え!?」
「それを言うなよ」
『嘘は良くないのだぞ!』
「い、伊織くん?禁呪、使ったの、?」
「...............................おう。」
「なんで!?」
「あーーーもう!玉藻前のせいだぞ!」
『嘘が嫌いなのは伊織であろう!!散々、“俺に嘘はつくなよ”と言うとったのはお前じゃろうが!!』
「はぁ........俺が禁呪を使ったのは1回きり。玉藻前に使ったんだ。」
「どんな禁呪なの?」
「.............アヤカシを式神にする呪術だ。」
「え、てことは玉藻前さんって、」
『うむ。妾は元々アヤカシじゃ。』
「そ、そうだったんだ......でもどうしてその禁呪を使ったの?」
「父親が俺を殺すために危険な任務に何度も向かわせたって言っただろ?その任務の1つが、玉藻前を祓う任務だった。」
「玉藻前さんって強いんだね.....」
『何を言う。妾はアヤカシの中でも上位のアヤカシじゃぞ?』
「俺と会った時ボロボロだったけどな。」
『そ、それは仕方がなかろう!!呪力を吸い取られたんじゃから!』
「呪力って?」
「人間の負の感情から発生して、アヤカシに集まる力だ。俺たちが術を使う時に流すのは願力。人の正の感情から発生する力。術を使うような強いアヤカシは呪力を使って術を発動させるんだ。」
「な、なるほど。」
話が難しくなってきてちょっと頭が追いつかなくなってきた。どうしよう。
「まぁ、ボロボロだった玉藻前を俺は治癒したんだ。」
「え、祓うのが任務なのに?」
『こやつ変じゃろう?』
「あーもーうるせーよ!俺はボロボロのやつをさらに痛め付ける趣味はねぇんだ!!」
『祓おうとしとるやつが何を言うんじゃ。』
「そーだそーだ」
「だーーーもう!話が進まねぇ!とにかく、俺は玉藻前を助けたんだよ。そしたらこいつが、力を貸してやるとか言い始めたんだ」
『命の恩人にはお返しをするのが普通じゃろう?』
「伊織くんはアヤカシも従わせることが出来るんだよね?じゃあ玉藻前を味方にすることも出来るじゃない」
「妖操術は、調伏したアヤカシを従わせることが出来る術だ。でも、調伏したらそれで終わりってわけじゃないんだよ。」
「え?」
「アヤカシからは瘴気が出るだろ?」
「うん」
「その瘴気は、集まると“穢れ“と呼ばれるものになる。穢れに人間が全身を蝕まれれば、死ぬかアヤカシになるかの2択だ。」
「ひえっ、」
「調伏師は調伏したアヤカシが強ければ強いほど、呼び出すたびに、より濃い穢れを身体に受けることになる。」
「え、それじゃあアヤカシを呼び出したら死んじゃうんじゃ、」
「ばか、俺は夜叉を呼び出しても死んでなかっただろ。」
「そ、そうか、」
「全身を蝕まれなければ、大抵の穢れは時間を置くと人間から離れていく。留める術式をかけられるとヤバいけどな。」
「そ、そうなんだ.....」
「ただ、あの時の俺じゃ玉藻前を調伏するのは無理があった。だから禁呪を使って玉藻前を式神にしたんだ。式神は、調伏じゃなく契約だから両者の同意の元で成立する。だから術者にも式神にも代償は発生しない。」
「き、禁呪の代償は、?」
「俺にだけだったよ。別に、どうってこと無かったさ。」
「そっか、良かった。でも、わざわざ禁呪を使わなくても、普通に連れて帰ったら良いんじゃ、?」
「玉藻前は強いアヤカシだ。調伏したアヤカシは瘴気を発しないが、調伏しなければ玉藻前の瘴気は強すぎて、一般人が至近距離で玉藻前の瘴気に当てられれば下手すれば死ぬ。」
「死、!?」
『どうじゃ?妾凄いじゃろう?』
「それに、祓う任務で行ってるんだから連れて帰った所で祓われるだろ。」
「それもそうだね...」
『そろそろ近くなってきたんじゃないか?』
「意外と早いんだね」
「まぁ隣の県って言ってもすぐそこだしな」
『待て、なにか来る』
「撃ち落とせ。」
「なっ、」
《ドガン!》
「お、落ちてる、私落ちてる、」
『伊織!!』
「俺は大丈夫だ!美澄を守れ!」
『しかし、』
「俺を信じろ!!」
『!!わ、わかった』
[止まれ。]
「言霊......良かった、ありがとう玉藻前さん。」
『礼などいらぬ。伊織に従っただけだからな。』
「いや〜何回見ても見事やなぁ言霊操術は。」
「だ、誰、」
「ッチ、姉さんの言ってた相棒ってお前かよ。糸谷 奏瞳。」
「そんなこと思ってくれとったん?嬉しいなぁ」
「ちょっと困りますよ糸谷さん!」
「あ、榮さん!」
「千歳さん、すみません。糸谷さんが.....」
「なに謝っとんねん。俺は別に悪いことしたと思ってへんで。力試しや力試し。なまってへんか確認せななぁ。まあそんなことどうでもええねん。会いたかったで?交久瀬伊織」
交久瀬って言った、
「もしかしてこの人、」
「はい。嫌がらせで交久瀬の名を呼ぶ、今となっては数少ない人間です。」
「はぁ、せっかくの再会やのになんやねん、いらんギャラリーばっかりやないか。全員ぶち殺してもええか?」
「あぁ?」
「そんなキレんなや。ジョークやん?ジョーク。冗談も通じひんとかほんましょーもない人間やなぁ相変わらず」
「お前こそ、その減らず口縫い付けてやろうか」
「ま、まぁまぁお二人とも落ち着いて、仕事の話をしましょうよ、ね?」
「うっさいねん口挟むなや。後処理しか出来ん狐小僧が。お前らが一応霊媒師って名乗っとんのもこっちは腹立たしいねん」
「おい。」
「光明、とか言うたか?あんな団体、正直もういらんと思うねんけどなぁ。親父に相談してみよかな。交久瀬も親父に相談したら?」
なに、この人、ほんとに霊媒師なの、?
「あぁ、もう親父さん死んだんやったなぁ。すまんなぁうっかりや〜」
「いい加減伊織くんの家のことを掘り返すのはやめにしてくださいよ」
「なんやねん。」
《ガッ》
「ぐ、」
「な、何してるんですか!」
「何って、見てわからんか?首掴んどんねん。仕事の説明と後処理しかせーへん役立たずなんかもうお役御免やと思わんか?ここで俺がこいつを始末したかて何も言われへんで。ほれ、首掴んどるだけやのになんも抵抗出来ひんやん。こんなやつ助けるとか交久瀬のねーちゃんも堕ちたもんやな。」
「.....いくら糸谷家の跡継ぎでも、文月さんを馬鹿にするのは許さないぞ。」
「はあ?なにいきっとんねん。猫又、止めろ」
「が、」
「狐火なんか俺に効くと思うか?」
「な、この人も式神使い、?」
「首吊り状態にして放置でもええけどな〜じわじわと死に近づいていく感覚、俺も感じてみたいわぁ」
[離せ。]
「ぐ、」
「ゴホッゴホッ、」
「玉藻前、榮をこっちへ」
『分かった』
「っは、九尾の狐がなんやねん、捻り潰したるわ」
[動くな]
「っ、」
『ほら、手を貸せ』
「ゴホッ、すみませ、」
「あ、んまり、舐めとった、ら、あかん、で」
「えっ、嘘、なんで、」
「猫又!!やれ!」
『っぐ、』
「玉藻前!!」
「っははははは、言霊は強制やない、相手の強さによって効きが変わるんやろ?俺にそんなへぼい言霊何回も効くと思うなや。」
なに、これ、霊媒師同士で傷付けて、何がしたいの、?
『ほ、ら、伊織、榮を連れて来たぞ、』
「お前、大丈夫か、傷が、」
『妾は人では無いのだぞ、そんなに心配せんでも重傷にはならん。』
「ッチ、この役立たずが。何しとんねん猫又。ガラ空きやったやろうが。しっかり切れや。」
『ひっ、す、すみませ、』
「ほんま、役立たずばっかやな。」
「なに、あの対応、」
「ゴホッ、式神使いの人間は、式神に対してあの対応をするのが、一般的なんです、」
「そんな、」
「アヤカシが式神になれるように、アヤカシと式神は存在が似ています、式神とアヤカシの区別はとても曖昧で、伊織くんのように会話をし、心配をする術師は少ない、」
「あれが、普通、?」
あれが同じ霊媒師なの?
自分の式神を罵り、仲間の式神を攻撃する、
こちら側がこんなに酷く、醜い世界なんて、
思いもしなかった。