02話 原因
「伊織、ちゃん?」
小さくこぼれてしまった私のその言葉に、少年は眉をひそめて言った。
「・・・・・その呼び方、やめてくれる?」
「あ、ごめんなさい。じゃあなんて呼べばいいかな」
た、確かに、噂されている呼び方で呼ばれたら誰でもいい気はしない.............
うわーーーーやってしまった!!!!
なんて心の中で反省会を開いている間、
美しい彼はものすっごく嫌そうな顔をして
こっちを見つめて、ため息をついた。
「別に呼ばなくていいよ。呼ぶ必要も無いだろうし。」
「なっ、」
彼は私から目を逸らし、ぶっきらぼうにそう言った。
まぁ、そうかもしれないけど.....
そんなきつい言い方する必要無いよね、絶対。
だから友達いないんじゃないかな!
とか悪態をついた。直接は言えないから心の中で。
「わ、分かりました....でも助けてくれてありがとう。」
「別に助けたわけじゃない。あんたに用があっただけだよ。」
「さようですか.....」
彼は面倒くさそうに首元を掻きながら呟く。
もう、泣いていいですか。
言葉が刺さるんですが。
「................好かれてんだな。あんた。」
数秒じっと私の背後を見つめた後、半笑いでそう言った。
「え、だ、誰に」
「さっきみたいなやつに。」
「え、好かれてって、」
《ピリリリリリリリリリ》
彼の言った恐ろしい言葉に耳を疑い、再度聞こうとした時
電話が鳴った。
「もしもし。姉さん?うん。接触したけど。わかった」
やっとか、と言いたげな顔で電話に出た彼は、なにかに了承したあと電話を机に置いた。
「え、何、どうしたの?」
【やぁ、美澄千歳ちゃん。聞こえるかな?】
電話の向こうから聞こえる、私を呼ぶ声。
「え、誰?」
「俺の姉貴。」
【私は交久瀬 文月。
突然悪いね、伊織は口が悪いだろう。まぁ、大目に見てやってくれ。】
なんだか普通の女性とは違う、麗しい声だった。
「い、いえ....」
【早速だが千歳ちゃん。体調が悪くなったのは今日が初めてかい?】
「いえ、1か月前くらいから度々.....」
【きっかけに何か心当たりはあるかな?】
状況が飲み込めずにいる私に、交久瀬くんのお姉さんは一つ一つ質問をしていた。
まるで、既に知っていることの確認をとるかのように。
「・・・・・クラスの人達で心霊スポットに行って、その後から、です。」
クラスのノリに逆らえず行ってしまったその場所を思い浮かべた。
体調が悪くなりだしたのは、ちょうどその時からだ。
【ふむ、心霊スポットか。それでは他の者も被害を受けかねないねぇ...............................伊織。】
「嫌だ。」
何かを頼もうとしているであろうお姉さんの声に、交久瀬くんはとても嫌そうな顔をして拒否した。
な、なんなの?何をしようとしてるのこの人達?
というか、どうしてこの人私が体調崩したの知ってるんだ。
「もういいだろ。こいつに憑いてるやつは祓ったんだし」
美しい顔が台無しになるくらい引きつった顔で私を見ている。
そして、何故か私の肩を目掛けてデコピンのようなものを1回。
その時、私の耳元でグエッというような声が聞こえた気がした。
「え?」
「ッチ、すぐ寄って来やがる。」
【伊織。この子の体質に、もう気付いているんだろう?守るのは私達術師の仕事だよ。】
面倒臭いとでも言いたげな声でお姉さんはそう言った。
体質、ってなんの事だろうか。
「別に、あんな雑魚ばっかりじゃ死ぬことは無いだろ。」
引きつった顔で彼はそう口にする。
【現にさっき食われそうになっていたじゃないか。】
ケラケラ揶揄う様な声でそう言うお姉さん。
交久瀬くんは黙り込んでしまった。
【皐月ちゃんのことがあったから関わりたくないのは分かるがな、伊織。】
そう言われた時、交久瀬くんは顔を上げて今までで聞いたことがない、少し怒っているような声でこう言った。
「あいつの事は関係無いだろ。」
【では、行けるね。】
お姉さんはそんな彼の様子を全く気にせず、飄々とそう言った。
正直自分の知らない単語ばかりで、私の脳は理解することを諦めていた。
ただ、もしさっきの私のように怖い目に合う人が出てしまうのなら________
私はそれを少しでも減らしたい。
「____お願い、交久瀬くん。私以外にあんな思いする人、少しでも減らしたい!」
久しぶりに、思ったことをはっきりと人に伝えた。
交久瀬くんは一瞬驚いた顔をした後、驚くほど不細工な
しかめっ面でこう言った。
「はぁ、少し減ったところで変わらないのに.............
分かったよ。」
諦めたような顔をして了承してくれた。
【千歳ちゃんも伊織と行ってくれるかい?】
やっとか、と言ったような呆れた声でお姉さんはそう言った。
「はい、それはもちろん行きます。あの、“祓う”って?あとあのバケモノは一体.....」
【それは見てもらった方が早いだろう。】
「そ、そうですか...............................」
この時点で、この交久瀬文月さんは質問をしても説明をしない人だと理解した。
ん?というか________
心霊スポット、もう1回行くの?