01話 “災いを呼ぶ伊織ちゃん”
この世はたくさんの生き物と、感情で溢れている。
神話の時代より、生き物は生まれては滅び、争い、苦しみ、歪みあってきた。
今現在、人間という動物は他の動物と、そして同じ人間同士で争い、自分の感情のままに動き、他者の感情や理由を押さえつけて生きている。
全ては自分が中心。それが人間だ。その性質を否定する気は無いし、仕方がないことだと思う。
仕方がないが、好きになれるかどうかは別問題である。
「なにそれ、まじ?」
「まじだって、みんな言ってるよ?知らない?」
こんな風に学校の奴にヒソヒソ噂される毎日。
別に気にしてないけど。
「・・・・・そこ、どいてくれない?」
俺がそう言うと、大抵の人間は驚いたように、怯えたように道を開ける。
「え、」
「あぁ、ごめん......」
そんな引きつった笑顔しなくても取って食ったりしないよ。
俺をなんだと思ってるんだ。
「ねぇ、あれってさ、」
「そうそう、あれだよ、」
「「災いを呼ぶ伊織ちゃん」」
“災いを呼ぶ伊織ちゃん”
噂話を信じる奴らは俺のことをそう呼んでいる。
誰から言い出したかも分からない噂話にあることないこと付いた結果、俺は災いなんだと人は言う。
人間は、自分と少しでも異なるものを持っている者をすぐ
拒絶し、否定し、亡くしてしまおうとする。
それが人間で、それが争いだ。
愚かで憎らしい。
それが間違っている、とは思わないけど。
________________________
特に可愛い顔でもなくスタイルが良いわけでもなく性格が良いわけでもない。
全部可もなく不可もなく。それが私。
友達も人並みにはいると思うし、
生活に不自由も________感じてない。
悩み事は、最近妙な悪寒を感じることがよくあって、お化けとか幽霊とかそういうもののせいだと考えてしまうこと。
けどきっと、ホラーゲーム実況とか、ホラー映画とか、そういうのの見すぎだよね、って不安な自分を誤魔化して。
_________毎日毎日、その繰り返しだ。
「伊織ちゃんって?」
正直、噂話は好きじゃない。人を呼ぶのに災いとか付けるなんて、頭おかしいんじゃないのって思う。
けれど、それを言ったらみんなとの間に溝ができる。
または、高い高い壁が。
だから、言葉を飲み込んで、笑って、誤魔化している。
みんなも、私も。
「あ、千歳」
「そうそう、あれが伊織ちゃん。」
「災いを呼ぶって何?」
いじめられる方にも原因がある
いじめ問題においてそう言われることが多くある。
彼が災いと呼ばれているのにも理由があって、だからこそみんなは彼をそう噂するのだろうか。
例えば彼と一緒にいることで被害を受けた人がいるとか。
それなら少しは納得できるんだけど。
そんなことを知りたくて私が尋ねると、彼女たちは少し顔を見合せた後、口をそろえてこう言った。
「ほら、よくみんな言ってんじゃん。あいつがいる所では変なことが起きるって」
「そうそう、みんなに言われてるんだからきっと良くない人なんだよ」
「だから災いを呼ぶ伊織ちゃん?」
「そうそう、ずーーーっと1人でいるんだってさ笑」
「ぼっちじゃん笑」
私が少し期待していた『理由』はそこにはなく、誰も、変なことが何なのか、疑問を持たない。
どこからか流れてきた不確定な情報を信じ、面白がり、具体的な内容、状況、被害者を気にしないで、彼は災いを呼ぶのだと噂する。
少し、うんざりしていた。
「なーに?また千歳の気になる現象?笑」
「関わらない方がいいと思うよー?何があるか分からないし」
「もしかして千歳はそういう人に惹かれるタイプ?笑」
私のこの性格でさえ、彼女たちからすれば笑いの対象なのだ。
みんなで話す、人の悪口、陰口、噂話。
みんなで共感して、バカにして、笑う。
輪の中の一人でも異を唱えると、その他大勢はその少数を潰しにかかる。
隊列が乱れないように。
「でもまだあの人のこと何も知らないわけで、」
私が少し呟くと、彼女たちは驚いた顔をして即座にこう言う。
「何言ってんの!何かあってからじゃ遅いんだからさ」
「そうだよ、関わらないのが1番だって」
私を心配する心もあるのだろう。
『火のないところに煙は立たない』というように、
変な噂を持っている以上、他とは違う一面が彼にはあるはずだと。
ただ、ほとんどはこう思っているだろう。
空気読みなよねー。
あーあ、空気乱れたー。
と、隊列を乱した1人の兵士への批判。
「いや、でも________」
ゾクッ
否定しようとしたその時、また、何かに見られてるような感覚。
なんなの?これ、
身体が重く、頭も痛くなってきた。
「千歳?顔色悪いよ?」
「あぁ、うん、ごめん、」
「何かあった?」
「いや、ちょっと最近悪寒がして、」
「怖いこと言わないでよー」
「風邪でしょ、悪化する前に保健室行ってきたら?」
「先生には言っとくよ?」
「うん、ごめん、ありがとう。」
本当はそんなものでは無いのかもしれない。
薄々分かってはいても、得体の知れない事態を認識するのが怖くて、彼女たちの言う通り、風邪だと自分に刷り込んだ。
保健室の扉を開けても、そこにいると思っていた人物は居なかった。
「あれ、保健の先生いないのか...」
居ないから仕方ない、と誰に対してかは分からない言い訳を呟いて、私はベッドに潜り込んだ。
目覚めた時にはこの違和感は消えていると信じて。
しかし、その希望はたった15分後に消滅し、最悪の状況へと変化を遂げた。
『オイシソウ、』
『タベル?』
『モウチョットタッタホウガウマイ』
『ヤッパリウマソウ、』
重い。
眠りにつく前より遥かに。
私の上で誰か喋ってる?
「え_____________」
少し目を開けると、私の目に飛び込んで来たのは
頭が3つに分かれた、大人の人間サイズの化け物だった。
声を出してはいけない。そう思っても、恐怖で口から息が漏れる。
それは恨めしくも音となって化け物の元へ届いてしまった。
「え、あ、」
『アレェ?オレノコトミエテル?』
『ナンデ?』
『ナンデモイイ、ハヤクタベヨウ』
タベル?
何を?誰を?誰が.......
こいつらが、私を?
回らない頭で、自分がこの化け物に食べられてしまうほんの数秒前であるという状況を理解した。
「い、嫌だ、助け、」
やっと吐き出した弱音は、誰にも届かず消えていく。
『イタダキマーーーーー』
私は目を閉じるしかなかった。
その時、保健室の扉が開いた。
「え................」
「はぁ、探したよ。なんでこんな所にいるんだ」
とてつもなく美しい顔を持った人は、面倒くさそうな冷めた声で私に呟いた。
化け物たちの興味は当然そちらへ逸れた。
「あぁー?なんでそんなの連れてるわけ?」
『ナンダヨ、オマエモミエルノカ。オマエカラクッテヤロウカ?』
『キレイ、キレイ』
『ウマソウダ。』
「そりゃどーも。でもねー。残念だけど俺が用あるのお前達じゃないんだよね。」
欠片も怯える表情が浮かんでいないその人は、真顔でそれを口にした。
[死んで。]
その瞬間、化け物の身体は見るに堪えない形となって消滅した。
『ギャァァァァァ』
か、身体が軽くなった。頭も痛くない。
それにしても________
「だ、誰?」
やっと出たその声に、その人は少し驚いた顔でこちらを見た。
「あれ、起きてたの。」
そこに居たのは、
“災いを呼ぶ伊織ちゃん”と噂されている
美しい少年、
交久瀬 伊織だった。
お話を書くのは初めてなのですが、精一杯、楽しんでいただけるように努めていきたいと思っています!
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