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セレスタン教会(3)

「あらあらまあ、どうなさったんですか!」

 魔導士と騎竜兵という珍妙な組み合わせに、扉を開けた司祭は素直な声を上げた。

 しかし礼拝に通うジャンシールは顔が知れているので話は早い。失踪前のギルーについて尋ねると、彼女はやわらかい額にしわを寄せて考え込んだ。

「いなくなったという二、三日前にいらしていたような…… ああ、ちょっとこちらへ!」

と、銀の燭台を運んでいた小姓へ手招きする。十五くらいの大人しげな女の子で、ジャンシールもなんとなく見覚えがあった。

「確かあなたが供物(くもつ)の当番でしたね。魔導士のギルーさんを覚えている? 何かお話ししたかしら」

 すると少女は、切り揃えた茶色の髪をゆらして小首をかしげた。

「いいえ、司祭様。でもお祈りの後に中庭でお見かけしました。後ろ姿だけですけれど、どなたかとご一緒でした」

 ジャンシールはすぐさま身を乗り出した。

「それ、その人はどんな格好だった? 魔導士の三角頭巾かい」

「ええっと、普通の外套(がいとう)で、茶色っぽくて…… 背の高い、若そうな男の人。たしか金髪だったと思います」

 何度もうなずきながらジャンシールは情報を頭に書きつけた。ギルーに庁の外の知り合いがいて、しかも失踪の前に会っていた。となれば、次はその人物を探すのみ。

「貴重な情報だ。どうもありがとう」

 彼が微笑みかけると、少女は初々しく唇の端を上げた。

 そうそう、俺はこういう反応を望んでいるんだ。わかってくれ相棒。

 という視線をただの合図ととったアニスは、「念のため全員に聞きますか」と平坦に返した。


 結局、得られた証言は少女の一つだけだった。教会の建物じゅうを訪ね終えて中庭に出ると、すでに陽が沈みかけている。

 木々に囲まれた片すみで、ジャンシールは「そろそろ定時じゃないか」と先回りしてやった。

「鐘が鳴るまでは……」

 アニスの真面目くさった返事に彼はいたずらっぽく笑いかける。

「今日はここまでにしよう。謎の男を探すにも、やり方をよく考えないと」

 “金髪で長身の若者”なんて、このイェリガルディンには星より多く存在する。無闇に歩き回るのは徒労にしかならないとわかっていた。

 ひとつじっくり考えてみよう、りんご酒を飲みながら……?

 いや、素面(しらふ)でだ。

 しばらく酒場もおあずけかと覚悟を決めたとき、後ろで扉の音がした。

「ああ、こちらに! いま戻ったのですが、何か調べに来られたと聞きまして……」

と歩み出たのは純白の法衣をまとった男だ。みごとな金色の巻き毛の下で華やかな顔立ちが申し訳なさそうに微笑んでいる。

「ランドレン司教!」

 慌てたジャンシールが深く礼をした。やってきた司教は、彼のために「女神の加護を」と右手をかかげる。聖職者としてのつとめを果たすと、

「お元気そうですね、猫魔導士さん。そちらは竜の兵隊さんですね?」

とにっこり笑いかけた。



 さかのぼること一年と少し前。

 長くイェリガルディンを見守ってきた老司教が病で身を退くことになった。王都から後任が送られてくると聞き、町には少なからず不安の声が広がっていた。

 だが約束の日に現れたのはなんとも質素な馬車であり、その後ろから這い出した新任者は、

「イェリガルディンの皆さん、お出迎えありが」

 とうっ!

 と足を滑らせて転げ落ち、その日のうちに「心配はいらない、多分」という評判が町を駆け抜けた。

 そしてひと月も経てば、アーシュミット・ランドレン司教はその登場劇どおりの人物だということが知れ渡ったのだった。

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