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セレスタン教会(2)

 捜査の先行きを怪しくしているのは失踪者自身でもあった。

 ギルーは特別に親しい者を持っていなかったのだ。魔導でつながる庁の仲間でさえ。

「ああ、できるやつでみんな頼りにしてたよ。えっ悩み? さあ、仕事の外のことはあまり話さなかったから……」

というように、聞けたのは大なり小なり似たような言葉ばかり。

「ギルーがどこかに通っていたって話は知らないか? 店でも、町の外でも」

「ううん、確かなのは担当していた貴族のところかな。バーナディー卿のでっかい屋敷さ、第二区の真ん中の」

 潔癖で神経質な仕事人間。

 俺と正反対じゃないかとジャンシールは思ったが、そんな彼らにも共通点があった。

 それが女神信仰のセレスタン教だ。ギルーも教会へ通っていたとなれば放っておけない、調査員二人はタイルのモザイクに飾られた入口をくぐった。


 礼拝堂に足を踏み入れたジャンシールは、任務を忘れてつぶやいた。

「われらが女神、夜の御許(みもと)に……」

 高い天窓から下りてくる光。そのやわらかな帯をまとった女神サイデアが、信ずる者たちを静かに見つめていた。

 星空と眠りの守護神であるサイデアは、波打つ髪に四枚の翼を持つ優美な姿をしている。

 名工の手で巨石から掘り出された白い像は、広場のライムブロッサムと並ぶイェリガルディンの象徴として昔からあがめられてきた。

 その壮麗さ、時を恐れぬ偶像の美しさときたら……

 何度見ても新鮮な畏敬を抱く。重ねた両手を差し伸べる女神を前に、ジャンシールは笑みを浮かべてふり返った。

「祈ろうか。彼を探し出せるように」

 しかしアニスの表情は動かない。

「私は信仰を持ちません。どうぞお一人で」

「…………!」

 そんなことあるか!?

 ジャンシールは混乱した。この国のリート人でセレスタン教徒じゃないなんて裸足の魔導士みたいなもの、つまり考えられない。

 言った手前おとなしく祈りを捧げ始めた彼だったが、願いの大半は衝撃で吹き飛んでしまっていた。

 早々に切り上げて恐るおそる尋ねる。

「もしかして、教会に来るのも初めてか」

 彼女は高い天井を見回した。

「この聖堂についてはそうですね。先に立っていただけますか」

「あ、ああ。司祭たちから当たってみよう」

 どうも調子が狂うな、と思いながらジャンシールは回廊を急いだ。アニスはひそやかな足音を立ててついてくる。



 始まりからこっち、彼女には驚かされてばかりだ。

 以前はセレスタン教徒だったということは故郷とともに信仰を捨てたのかもしれない。一体どんな理由で……?

 ちらとアニスを見てみると、青灰色の瞳ははるか先に向けられているようだった。たくさんの疑問を飲み込み、ジャンシールは教務所の扉を叩く。

 今は()すべきことを成せ。女神様だってそう言っておられる、おそらくは。

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