滅びの光明(5)
「アニス……!」
うずくまっていたジャンシールが身を震わせた。ゼルガーも「無事だったか!」と安堵の声をもらす。
アニスの長い髪はほどけて乱れ、青い制服へと流れている。切り裂かれた肩口に大きな黒い染みができていた。
傷つき、すり減った姿。
しかし青灰色の瞳は一点の曇りもなく、全身に壮絶な意志をみなぎらせていた。
ランドレンは石像からゆっくりと手を離し、身体の前で悠然と組み直した。
「これはクウィント隊員。新しい部屋はお気に召しませんでしたか?」
「ええ、少しも。諸々のお礼をしにまいりました」
と、アニスが静かに歩き出す。火かき棒とナイフをしっかり握りながら。
左の壁ぎわにジャンシールとゼルガーが。
そして反対側、より近いところに疾風号が待機の姿勢をとっている。首もとには遠雷号の重みを感じていた。
打つ手はまだある。
彼女の思いは二人にも伝わった。ジャンシールが手さぐりで身体を立て直し、ゼルガーはふたたび剣をとる。
彼らの高揚を前にしたランドレンは、困ったように微笑んだ。
「残念ながら、少しだけ遅かったですね」
と首をあげる。
宙に浮かぶ女神の輪郭が、いびつに膨張しはじめていた。
見上げる三人は瞬間的に忌まわしいものを感じとった。そして、迫り来る危機も。
「……疾風!」
アニスは鋭く号令をかけ、みずからも竜へ向かって駆け出した。
ピオたちは、止まない風と震えるエーテルにあおられながら広場に辿りついた。
闇に枝を伸ばすライムブロッサムが突風に軋んだとき、彼はハッと顔を上げた。
「教会だ」
このつぶやきに、わずかな素質を持つロロも「わかる、私も……!」と目をこらす。
憲兵がピオにふり返る。その表情から、食堂の娘を家に送るなどという建前は消え去っていた。
「様子を見に行くが、お前も来るか」
ひょろ長い魔導士が「もちろん!」と顔を引き締める。
「きっとジャンがそこにいる。ロロ、戻って所長に伝えて。仲間を目一杯よこしてって!」
「わかった、気をつけてねピオ!」
憲兵の片割れが、
「こちらも応援を出そう、急ぐぞ!」
とロロにうなずいて身を返す。ピオは、赤い制服の影につづいてエーテルの波の中を走り出した。
礼拝堂を支配しているのは、もはや女神ではなかった。
不安定な光の塊と化したそれは、いくつも伸ばした触手で竜と騎手を襲いはじめた。
疾風号と一体になったアニスは猛攻をかいくぐる。稲妻の軌道を描き、時には退きもどり、辛抱づよくランドレンへ迫っていく。
「俺も行く。お前はここにいろ」
じりじり見守っていたゼルガーがついに立ち上がる。しかし、片膝をついたジャンシールが思いがけない素早さで引きとめ、かすれた声でささやいた。
「待て。まだ、何かが……!」
彼らは台座へ目を向ける。そこには新たな変化が現れていた。
石像の足もとに立つランドレンを、天から降りそそぐ光が繭のように包み込もうとしていた。




