再会(2)
ハドマント・ギルーは、かねてから魔導の限界を疑っていた。
より大きなエーテルを扱えれば、国のあり方も、世界さえも変えられるのではないか。
魔導はそれくらい可能性を秘めた素晴らしいものだと信じていたし、その一端につながる自分自身に誇りを感じてもいた。
そんな彼にとって、バーナディー邸の庭師は不思議な存在だった。
「君は素質が高いだろう。そのままで勿体ないとは思わないか」
あるとき問いかけてみると、イリト・ヴィコは「目はいいけど頭が追いつかない。身体を動かす方が合ってるんだ」と苦笑した。
「エーテルを見るとどんな気持ちがする?」
「さあ、そこにあるなって思うだけだ。こんな晴れた日なんかはいい眺めだね」
季節は花の盛りにあり、庭園全体が陽光にきらめいていた。そこへ魔法の源がまじわって流れるのを、二人は黙って見つめる。ヴィコが何気ない動作で額の汗をぬぐった。
彼の言葉にも一理ある、とギルーは思った。
エーテルは自然と並び立つものだ。感じ方は人それぞれで、自分のようにこだわる者ばかりでなくていいのかもしれない……
彼の考えをふたたび変えたのは、夏の終わりに訪れた新しい出会いだった。
その人物は瞬時にして彼の本質をとらえ、手を差し伸べてきた。
「あなたの内に理想が見えます。崇高な志が」
語りかけられたギルーは素直に認めたが、生真面目な顔をあきらめに陰らせた。
「しかし、手だてがない。実現できなければ夜の夢と変わりません」
「その夢は選ばれた者だけが見られるのですよ? 私も同じものを見、求めつづけ…… そして引き寄せた」
穏やかに告げる瞳に不思議な色がさし、深い声が響いた。
「手が届きます。あなたの協力さえあれば」
ギルーは、考えるより先に輝く手を取っていた。
生涯でたった数回あらわれたこの衝動性が、彼を破滅へ導くことになる。
土壇場で協力者が増えたのは、ギルーにとって思いがけないことだった。
「ずいぶん元気そうだな、ギルー? 所長をあんなに心配させておいて」
とノーリック・ザムが現れたとき、彼の頭には物騒なものも含めていくつか選択肢が浮かんだ。
ノーリックは庁の部署で一緒だったこともあるが、その頃から口ばかり威勢がよくて信用できないと感じていた。
ここにいるべきではない。深いまぶたの下から相手を見据える。
「どう嗅ぎつけた」
「手厳しいな、久しぶりに会えたのに。神ならぬ金のお導きだよ」
寄付を届けにきたのだ、とノーリックは肩をすくめた。
「こんな時間になっちまったが、持っていると使ってしまう。無理を言って受けてもらって、さあ帰ろうとしたら礼拝堂の方が気になってね…… なるほど、こいつのお守りのために消えるしかなかったわけだ」
と、“祭壇”をしげしげ見上げる。
ギルーは固く閉ざした表情の下で不運を呪った。
祭壇に集めたエーテルの、たった一瞬の揺らぎを悟られたのだ。よりによってこの男に!
第二の協力者は床の感触を確かめるようにゆっくりと近づき、軽い調子で語りかける。
「そうにらむなよ。許可は得たし、お前が本気なのもわかってるさ。メダリオンまで捨てるとはね」
「身分記章はもはや不要だ。魔導は、この国は根底から変わる」
「女神の加護で、か……」
そうつぶやいたノーリックが祭壇に手を掛けようとしたのを、ギルーは鋭く払いのけた。二人の間に冷ややかな空気が走る。
「おいおい、同志じゃないか。それとも同類かな」
ノーリックは口の端をねじ曲げて笑った。
「仲よくやろうぜ、そのうちお揃いになるんだ。最高度の魔導士にな……」
人に与えられた魔法の力。
それは等級にして、三十から零度まで。




