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嵐の中心(3)

 セレスタン教会は目と鼻の先だ。

 風に隠れ、使徒像のそばを走り抜けた時。ジャンシールは魔導士の習慣でランタンの光石に目をやった。強風に揺れながら、重なり合って石畳を照らしている……

 この無意識の視線が、頭の中を一気に晴らした。

 熱と光を溜め込める魔導の石。

 俺たちは小さな石に小さなエーテルをそそぎ、それが当たり前だと思っている。その大きさしか知らないからだ。

 強い力を受けとめられる、巨大な石があったなら? しかしそんなものは……


 あるじゃないか。

 それどころか俺は何度も顔を合わせていた。ひざまずいて祈りさえした!

「礼拝堂」

 彼は震える声で言った。ふり向いたゼルガーを仰ぎ見てつづける。

「力の隠し場所は、女神サイデアだ」

 この都だけに据えられた、白い巨石像。


 だからこそ、イェリガルディンじゃなければいけなかったんだ。



 シーダは、敵のわずかな動揺をつきナイフを抜き払った。

 とっさに身体を反らしたアニスが、火かき棒を振り下ろす。相手は軽い足音を残してその下をすり抜けた。

 少女の動作は不気味なほどなめらかで、洗練されていた。教育を、人を殺めるための術を教え込まれた者だということはアニスにもわかった。

 しかし、こんな女の子が?

 そう思った瞬間、彼女の頭にある光景がよみがえった。


 行政庁でこの少女に行きあい、転びかけたところを支えてやったことがあった。何か引っかかりを感じたのだが、その時のアニスは意味をつかみきれずにいた。

 今なら違和感の正体がわかる。

 外から入ってきたばかりのシーダの手が、少しも冷たくなかった。

 魔法を使えば体温は上がる。あの日、この子は何かの目的でエーテルを操ったのだ。素質を持ち、しかし魔導から外れた者……

「……迷宮でジャンシールを襲ったのはあなたですね。ギルーを手にかけたのも」

 冷たい汗の流れを感じながら尋ねる。

 二人は間合いをとってじりじりと牽制(けんせい)し合っていた。

 答えの代わりに、シーダは素早く身を沈めた。アニスが息を飲むと同時に、白刃の跡を引いて小さな身体が跳ね上がった。



 教会の入口は錠が下りていたが、ゼルガーが長剣の先でこじ開けた。ジャンシールは目を丸くする。

「まるで押し込みだ。憲兵隊じゃそんなことも習うのか?」

「いいからさっさと入れブルネリア……」

「グー!」

 疾風号があいづちを打つとゼルガーは静かになった。

 風に邪魔されながら、何とかして大扉を開ける。回廊にはぽつぽつとランタンが掲げられているが、誰の姿もない。うなる風の音だけが低く重く響きわたる。

 ジャンシールは、慎重に進みながら先を見通した。

「司教たちは……?」

「どこかに閉じ込められてるのかもしれない。気をつけろ」

 あたりをうかがったゼルガーがささやく。その歩みに合わせ、抜き身の長剣が淡い光をはね返した。


 礼拝堂につながる扉の前で彼らは立ち止まった。

 ジャンシールの目にも、ゼルガーにさえも、扉の向こうから渦巻くエーテルがありありと見えている。

 この先に女神サイデアが…… ギルーの遺した、大いなる力が待つ。

 二人が足を踏み出しかけた、その時。ガシャッと音を立てて目の前の入口が開きはじめた。

「何だ!?」

「下がれ、ゼルガー!」

 たじろいだ彼らに、いかにも楽しそうな哄笑(こうしょう)が降りそそいだ。朗々としてよく響く、感じのいい明るい声……

 ジャンシールは愕然(がくぜん)とした。



「何をそんなに驚くんだ、ジャンシール? 猫みたいな顔をして!」


 空白を経て再会したノーリックは、変わりのない朗らかな笑顔で友人を出迎えた。



                         (第五章 了 )

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

次話より第六章に入ります。

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