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嵐の中心(2)

 海の瞳が北の都をつらぬいた。

「……渦の中心がずれている。教会の方だ」

 ホークがしっかりうなずくと、ジャンシールは「よし、行ってみよう」と竜の手綱を引いた。

 素早く前に出たゼルガーが、

「何が起こるかわからないぞ。爺さんは家に帰ったらどうだ」

とふり向く。ホークは鼻を鳴らして肩をすくめた。

「近ごろの赤服は(やわ)くなったもんだな。シェピ人にもついて歩くぐらいできるわい」


 ゼルガーを先頭にしてホークが、そしてジャンシールと疾風号が最後につき、一行は吹きすさぶ夜の地表を進みはじめた。

 恐ろしく激しい、冷たい風だ。町の人々も異様な空気を感じ取ったのか、酒場や食堂は明かりを落とし、かたく閉ざされている。

 ジャンシールは竜に寄り添いながらアニスを思った。

 どうか無事でいてくれ、相棒。

 俺たちはもっといい友人になれるはずだ。まだまだ話すことがたくさんある、そうだろう?



 広場の端に辿りつこうかという時、行く手に人影が現れた。

 ゼルガーが無言で後続を制す。揺れる大樹の下では、二人の憲兵があたりを見回していた。

「見つけたか?」

「いえ、まだです…… しかし上官がたは、本当にゼルガー小隊長をお疑いなのですか?」

「理由なく指揮下を離れたとあれば当然だ。今は私に従え」

 そうきたか、と当の小隊長は心に吐き捨てた。憲兵たちはその場にとどまり、険しい面持ちで言葉を交わしつづけている。

「仕方ない、俺が気を引く。その隙に進め」

 影から抜け出そうとしたゼルガーを、ホークの痩せた手が止めた。

 そして「ちょいと芝居に付き合え、小隊長」と言うなり、ゼルガーに体当たりして広場へおどり出た。

「おい、何を……!?」


「そうどつかんでも一人で歩けるわい、赤服め! 異人は夜歩きもできんというのか!」

 この大声に憲兵が鋭くふり返り、驚きと安堵の表情を見せた。

「小隊長、こちらにいらしたんですか!」

「フィリッドか!? 今まで何をしていた、そいつは誰だ?」

 ホークの筋書きが読めたゼルガーは、平然と胸をそらして答えた。

「不審者を追ったらよく走る爺さんでな、外の丘まで連れていかれた。詰所まで頼む」

 通りの陰にかがみ込んだジャンシールは、ホークがわざと暴れ、憲兵に引き立てられていくのを固唾(かたず)を飲んで見守るしかなかった。



 ゼルガーは残った者も上手く言いくるめたらしい。

 相手が魔導庁に走っていくのを確かめると、ジャンシールにうなずいてみせた。ライムブロッサムの大きな影で二人と一頭が合流する。

「年の功だな」

 そうつぶやいたゼルガーは、助かった、と小さくつけ足した。

「あいつら手荒な真似はしないだろうな? 気は強くたって、もういい歳なんだぜ」

 ジャンシールが心配そうに尋ねると、相手は小隊長の顔をして答えた。

「俺の部下が見ているうちは間違いない。急ぐぞ」

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