表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/78

嵐の中心(1)

 凍りついていたアニスの時間は、何かが落ちる“ぼとっ”という音で動き出した。

 ハッと身をこわばらせた彼女だったが、やがて足もとに慣れ親しんだ気配を感じ、驚きと安堵に包まれた。

「遠雷号……!? どうやってここに」

 竜は彼女の脚をのぼり、椅子の背を伝って肩までやってきた。胴のふちで鋭く伸びた(うろこ)が、アニスの首すじに触れる。長い時間をかけ探し当ててくれたのだ、と愛おしさが込み上げた。

 同時にひらめきが音を立てた。これは僥倖(ぎょうこう)だ!


「こっちです、ここに来て!」

 後ろに縛られた両手を動かすと、遠雷号はそちらへ歩き出した。

 わずかに自由になる指でその身体を抱きとめ、尖った鱗に縄を押しつける。少しずつ、慎重に動かして……

 やがて、プツッと縄が鳴って手がゆるんだ。

 自由になった彼女は小さな救い主を胸に抱き、空いた手で目隠しを引きはがした。

 素早く部屋を見渡す。

 物はほとんどなかった。囚われていた椅子、ささやかな机。ランタンの光が照り映える白い石壁。その片隅にかがんでやっと入れるほどの木戸を見つけたが、手をかけてもびくともしない。

 諦めて首をめぐらせると、暖炉の上に煉瓦(れんが)ひとつ分の通気孔があった。遠雷号はここから入ってきたのだろう。

 この部屋も外に通じている。そしてそこでは、ジャンシールが懸命に謎を追い続けている。

「ありがとう…… これが済んだら、たっぷりお礼をします」

 アニスは愛情を込めて竜の背を撫で、引き締まった顔を上げた。



 出口はひとつだ。

 暖炉の火かき棒を引き抜き、扉に近づいていく。

 思ったとおり外側から鍵かかけられていた。アニスは遠雷号を首のうしろへやり、壁際に張りついて静かに待つ。

 機会は一度。だが、コレットと手下が一緒に戻ってきたら運の尽きだ。神経を研ぎ澄まして錠を見つめた。


 その時は訪れた。

 扉の向こうで、低いくぐもった音がした。誰かが荷物を床に置いたのだ、両手を使えるように。

 鍵を差し込んだ。

 金属が噛み合って回り、開く……!



 視界に飛び込んできた手をひと息に引きつかんだ。

 新鮮な空気が流れ込む。足もとで(かめ)が割れ、冷たい水がバシャッと広がった。

 声もなく抵抗する相手を、夢中で壁に押しつける。捕まえた手首を握りしめたとき、細い骨格を感じた。この身体はとても小さい……

 まるで子供のように。

 アニスは違和感に動きを止め、相手を見た。ふり向いた顔に光がかかった瞬間、息を飲んだ。

「あなたは……!」


 聖堂の少女シーダが、乱れた髪の間から彼女を見つめていた。

 その青い瞳はいかなる感情も示さず、冬の果てのように冷たかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ