閉ざされる夜(1)
「これより魔導庁舎をわれらの管理下に置く。建物から出るな、全員だ!」
乗り込んできた総隊長が鋭い声を飛ばし、憲兵たちが素早く階段を駆け上がっていく。モロワ所長は、赤い流れに逆らいながら少しも劣らない迫力で返した。
「これはどういうことですか。あまりに無作法ですよ、ヤヴィック総隊長!」
立派な髭を生やした大男が彼女を見下ろす。
「ハドマント・ギルー殺害、およびノーリック・ザム失踪事件の捜査だ。令状もある」
「わが庁を疑っているなら、とんだ無駄骨です。目を向けるべきは……」
隊長は太い腕をふって老魔導士を止めた。
「ご高説は後にしてもらおう。従わない者にはいっそうの嫌疑がかかる、たとえあなたであってもだ」
二人のまわりでは隊員が手当たり次第に部屋を開け放ち、「邪魔だ!」と放り出された魔導士たちがぶつかり合って悲鳴をあげていた。
所長は怒りをおさえ、近くにいた者へ指示を出した。
「講堂に火を入れて、残っている者を集めなさい。今は皆の安全を優先しましょう」
「は、はい!」
部下たちを見送ったところへ、ヴィコとミリアムを連れたピオが飛ぶように下りてくる。状況を悟った彼は、あたふたして首をめぐらせた。
「しょ、証言を聞いてくれそうな空気じゃないですね? おーいロロ、いるかい!」
すると、行き来する憲兵をかき分けて娘が駆け寄ってきた。彼女は所長に向かって頭を下げ、
「私、伝えたいことがあってジャンシールを待っていました。でも彼、まだ帰らないんです」
と訴えた。柔和な目が不安に曇っている。
暗くなった前庭へ視線をやれば、憲兵の赤服がそこかしこに動いていた。所長は厳しい表情で頭を振る。
「戻ってきても、これでは中へ入れないでしょうね…… 申し訳ないけれど、あなた方も講堂へいらしてください。ピオ、案内を」
「はいっ! まったくジャンってやつは、どこまでも心配させるんだから!」
彼はぶつぶつ言いながら、三人をかばうようにして廊下を急いだ。
はぐれた魔導士を求め、憲兵たちは迷宮へもなだれ込んでいた。
騒々しいブーツの足音に驚いたホークは、表通りへ出て隊員を引きとめた。
「これは何だね、上がどうかしたのか?」
「魔導庁全体の取調べだ。魔導士を見かけたら知らせろ」
一本調子に答えた隊員は、突風のように駆けていってしまった。取り残されたホークの中で故郷の海がゆらぎ、大きく波立った。
「……ああ、だから言ったんだぞ。どうして危険に突っ込んでいくんだ、猫!」
ホークが頭を抱えたとき、ジャンシールは北限の丘に立っていた。
戻らなければ、と頭の片すみで何度も声がする。
しかし彼は、たくましい大木に手を添え、尽きることのないエーテルに目をこらすのを止められなかった。
イェリガルディンを取り巻く魔法の力。
朝靄のように、それでいてこの強風をものともせず、独自の呼吸で息づいている。
どこかに大きな力の兆候はないか。
自然にあらがう流れを探し、緑の瞳がくり返し町を撫でた。




