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交錯する都(3)

 手紙を読み終えたモロワ所長は、真っ先にセレスタン教会へ向かった。

 ウォルメリによれば、ギルーが信仰に傾倒したのは司教が交代してからのことらしい。ランドレン司教に話を聞かなければならない、と強く感じた。

 しかし彼女は、閉ざされた礼拝堂の前でとどめられてしまった。

「納め(づき)の祈りの最中ですので…… 今はお会いできません」

 困り顔で制止する司祭へ、「では、いつに?」と力のこもった視線をそそぐ。若い司祭は、白髪まじりの老魔導士に気圧されて身を引きかけた。


 すると、別の小さな声がうしろから言った。

「夜までかかります」

 ハッとふり向くと、回廊の真ん中に小姓が立っている。

 礼拝でよく見かける子だ、と所長は思い当たった。茶色の髪に青い目をした少女は、

「ご祈祷を終えられたら必ずお伝えします。ランドレン様もお休みされるので、明日の午後のお約束がよろしいと思います」

と落ちついて申し出る。

 焦った司祭が「こちらは魔導庁のモロワ所長ですよ。控えていなさい、シーダ」とたしなめるのを、当の魔導士がさえぎった。

「シーダ、今すぐ伝えてもらうことはできないかしら。とても大事な、急ぎの用です」

「この扉は夜まで開きません。お祈りの間は、女神サイデアと司教様のための場です」


 少女は両手を握りあわせているが、それは敬意を示す姿勢であって、緊張や恐れは感じられなかった。それどころか、華奢(きゃしゃ)な身体に揺るがない意志をのぞかせている。

「わかりました。それでは明日の午後一番にうかがいましょう」

 モロワ所長が根負けすると、少女は深く膝を折ってから引き返していった。

「申し訳ありません。あの子は王都からの従者で、司教のつとめを何でも手伝いたがるものですから……」

と、残された司祭が頭を下げた。

 晴れない思いで庁舎に戻った彼女を迎えたのは、意外な訪問者だった。



「所長、バーナディーの庭師が来ています!」

 マントをたなびかせて走り寄ったピオ・スストゥスが小声で叫んだ。

 モロワ所長が「ジャンシールは?」と鋭く聞き返すと、彼はタマネギ頭を横に振った。

「まだ帰りません」

「では一緒に来てちょうだい、その者に会いましょう」


 応接室に入った彼女は、青年のとなりにもうひとり座っているのを見て眉をはね上げさせた。

 その表情を素早く察し、庭師が立ち上がる。

 長身で金色の髪をして、目の下には薄い傷。ともすれば誤解されそうな鋭い顔立ちだが、今は緊張のあまり(もろ)さをのぞかせていた。

 彼は「イリト・ヴィコです」とぎこちなく礼をし、意を決してこう言った。

「こっちはミリアム。その…… 俺の婚約者です」

 ふっくらした娘が不安げに会釈する。隠しきれない化粧の残り香が、夜の通りに属す者だと知らせていた。

 所長は、丁重に頭を下げてから席についた。

「お二人とも、よく来てくださいました。さっそくお話をうかがいましょう」

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