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交錯する都(2)

 雪が止んだのは幸いだったが、冬の石畳は体温を奪うのにじゅうぶんすぎた。

 風が強まり、町に残っていた道しるべが混ぜ返され、消えてゆく。

 凍えきった脚がついに止まる。

 体の中から動きが鈍くなるのを感じ、目を閉じた。

 温かくやわらかいものがふわりと被さってきたとき、彼女は自分の命が尽きたのだと思った。



「大変……! ああお願い、しっかりして!」

 路地裏にかがみ込んだロロは、鉄色の小さな竜を必死に撫でさすった。

 これが騎竜隊から逃げ出した“遠雷号”だということはすぐにわかった。房飾りに編みこまれた熱石は力を失っていて、ぽってりした尾も脚も冷えきり、小さな目に白っぽい膜がかかっている。

 危機を悟ったロロは、マントの下の衿元(えりもと)を引き下げ、ためらいなく遠雷号を放り込んだ。

 尖った(うろこ)や爪がかすって痛みもしたが、何よりぴたっと押し当たる冷たさに一瞬で鳥肌が立つ。

 頭のてっぺんまで震わせて爪先立つ彼女に、そばを通った農夫が(いぶか)しげな視線を向けた。


 女神に祈りながら待っていると、竜は少しずつ動き出した。

 ホッとして中をのぞけば、小さな丸い顔が見上げてくる。

「ああよかった! お腹は空いてない? すぐお家に帰ろうね」

と声をかけ、竜舎の近くまでやってきた時。

 腕の中の遠雷号が急に暴れ出し、拒絶の意志を感じたロロは足を止めた。道ばたでふたたび顔をつき合わせる。

「あそこは嫌なの? ううん、どうしたらいいかな……」

 困りはてた末に思い出したのは、ついこの前のジャンシールの姿だった。

 憲兵との騒ぎがあった日、彼はもっと大きな竜と心を通わせ、落ちつけていた。自分の魔法素質はほんのわずかだが、まねごとだけでもしてみようと小さな身体に触れる。


 さあ教えて。あなたはどこに行きたいの……?

 と、問いかける(てい)をとりながら必死に頭を働かせていた彼女は、パッと閃いて顔を上げた。

「あっ、もしかして!」



 応対した憲兵は、ひとこと「帰れ」とだけ言って詰所の扉を閉めた。

 当然のようにアニスには会えなかったが、それで構わない。マントの裾からひそかに送り出した竜を思い、ロロは祈るようにつぶやいた。

「がんばって、遠雷号」

 そして、さっそくジャンシールに伝えようと駆け出していく。広場をつっきった先、魔導庁の門でピオが出迎えてくれた。しかしその表情は冴えない。

「ジャンなら外回りだと思うよ。座って待ってなよ」

「ありがとう。ノーリックは、まだわからない?」

 声をひそめた彼女に、ひょろ長い魔導士は肩を落としてうなずいた。ロロはみずからの不安を振り払い、彼を見上げる。

「きっと戻るよ、ピオ。そうしたらみんなで店に来てね、待ってるから」

「そうだね、みんな一緒に……」

 ピオはやっと微笑んだが、まとわりつく影はぬぐいきれなかった。

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