表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/78

交錯する都(1)

(第五章 導入)

憲兵隊の方針に疑問を抱いたゼルガー。彼はジャンシールへの協力を決意し、分断されたアニスの救出を急ぐ。

その一方では、犠牲者ギルーに新たな可能性が浮上していた。ジャンシールは証拠をつかむべく強大なエーテルを探す。

 アニス・クウィントを助け出す……

 いや、(さら)い出すことになる。

 リートスク王立憲兵隊イェリガルディン支局小隊長たる、この俺が。


 隊に戻ったゼルガーは、心臓を打ち鳴らしつつ機会をうかがっていた。

 捜査に加え通常の巡回もこなさねばならず、詰所はばたばたした状況が続いている。今朝までは苛々させられていたが、組織の外に心を置いてみればかえって都合がよかった。

 地下にくいこむ階段を下り、「確認事項だ」と看守に声をかける。

「きのう酒場で乱闘を起こした男がいたな。名のつづりが目茶苦茶だ、これでは調書が作れん」

「ああ、ボーなんとか言う鍛冶(かじ)屋ですね。どうぞこちらへ」

 ガシャン、と重い音のあとに鉄柵が開かれた。

 看守に続いて収容房の並ぶ通りを進み、中の顔をそっとうかがっていく。うつむく老人、ふてくされた女、寝転がった男……


「や、ちょいとお待ちを。こら起きろ、小隊長どののご到着だぞ!」

 ボーなにがしの目覚めを待つ間もゼルガーはくまなく目を走らせた。看守にさり気なく声をかける。

「騎竜兵が入っていたはずだが……」

「おや本当だ、見えませんね。では、やっと釈放されたんですな」

 軽く返された彼は、「そんなはずはない!」という声を飲み込んだ。しかし、確かに彼女の姿は見えない。どこにもない。

 すると、看守に引き起こされた男が不機嫌な声をあげた。

「何だ、ほうっといてくれ! こっちは眠れなかったんだ、ごそごそうるさくてよ」

「夜中に出入りでもあったのか?」

 ゼルガーは緊張を隠して尋ねる。

 男は赤ら顔をぺろりと撫で、「医者か何かだ。どいつがへばったんだか知らねえが」と憲兵を見もせず答えた。

 看守が何でもないようにつけ足す。

「ひょっとすると、例の騎竜兵かもしれませんね。若い女でしたから、牢に入れられて参ってしまったんでしょうな……」



 アニスが消えた。

 ……消された? まさか!

 強張った顔で戻ったゼルガーを、同僚があわただしくつかまえた。

「どこに行ってたフィリッド、仕度を急げ。今夜は大がかりだぞ」

「何がだ?」

 嫌な予感がしてゼルガーは大きな目を細める。相手が呆れたようにその肩を叩いた。

「おいおいしっかりしろよ! 一斉捜索だ、魔導庁を封鎖して隅からすみまで調べ上げるぞ。部下の指揮を正しく執ってやれ!」


 この瞬間、ゼルガーの疑念に揺るぎない(くさび)が打たれた。

 ギルー殺害とノーリックの失踪、そしてアニスの消失。そのすべてに関わっている何者かが、魔導庁をおとりにしている。

 看守や隊員を問い詰めたところで無駄だろう。今は何よりも、ブルネの魔導士に知らせなくては。

 身を返した彼は、己にだけ届く声でつぶやいた。

「……俺は、俺の正義に()ける」

 制服につけた記章を律義にも裏返すと、ゼルガーは動き回る仲間たちを避けて走り出ていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ