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フィリッド・ゼルガーの疑念(1)

 車輪に挟まった小石。

 ここ数日でゼルガーが覚えた違和感は、そんなものに似ていた。

「聴取は終わったんでしょう、帰してやっては? 騎竜隊の輪番が回らなくなりますよ」

と冗談まじりの進言もしてみたが、上役はただ首を横に振るのみ。

 アニスの顔も確かめられないまま日付だけが重なり、小石はどんどん大きくなり始めていた。これでは早晩、進めなくなりそうだ……


 仲間たちは上の指示に従ってあてのない捜査に精を出している。

 しかし彼は、魔導庁をつつくだけではギルー殺害犯を見つけられないだろうと感じていた。それがノーリック・ザムであったとしても、根はもっと外まで張っているのではないかと。

「まったく、この雪ときたら! せめて収穫があればいいんだが」

「交代だ。ゼルガー小隊、第三区を頼む」

 どやどやと戻ってきた隊員を、ゼルガーは初めて会う相手のように眺めていた。

「ぼうっとしてるなフィリッド、寝不足か?」

「いや。万全だとも」

 制帽を深くかぶった彼は、部下を引き連れて足早に出ていった。俺が騒いだところで隊は動かせん、と苦い思いを抱えながら。



 そのころジャンシールは、厚い雪をまとったセレスタン教会を訪ねていた。

「もう四日になるんです。騎竜隊長が行っても面会すらできないと……」

「話はうかがっています。憲兵の誤解だそうですが、これほど長引くのは妙ですね」

 ランドレン司教は礼拝堂の長椅子に座して考え込んだ。華やかな顔が思慮に沈む。そして、

「気を悪くせず、可能性の一つとして聞いてください」

と前置きして続けた。

「アニスさんが憲兵隊と何らかの協力関係を結んだ、ということはないでしょうか」


「まさか、あんな奴らと! あっすみません、つい……」

 ジャンシールが慌てて手を振り、あらためて司教と目を合わせる。

「つまり、アニスは自分の考えで留まっていると仰るんですね」

「わざとそうやって、何かを探ろうとしているのかもしれませんよ。そうだとよいのですが、もしくは……」

 先に待つ言葉に、司教の顔が曇った。

「彼女が、本当に事件に関わっているか」



「何をおっしゃるんです!?」

 ジャンシールは今度こそ椅子の上で飛び上がった。

 一緒に飛び上がったランドレンが、「もしも、の話ですってば!」とその肩を押さえる。

「真実がどちらであってもなくても、アニスさんが戻るまでもう一度よく考えるのが得策ではないでしょうか? いま信じられる者は誰か……」

 ランドレン様、と声がして小姓のシーダが姿を現した。司教は純白の雪のような法衣を揺らして立ち上がる。

「私なりに推量してみましょう。女神のお導きのもと、われらが道を見失いませんように」

 組んだ手で祈りを示すと、彼は礼拝堂を後にした。

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