表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/78

犠牲と消失(3)

 失踪者の遺体が見つかった日に、新たな魔導士が消えた。

 この事態に、イェリガルディンはにわかに慌しくなった。中枢に広がる混乱の波は、行政庁の執務室にも珍しい客を呼び込んでいた。

「ノーリック・ザム。ツァイヘンの都のザム商会を知っているだろう、あの息子だ。昨日の夕方以降、足どりが掴めん」

 うなるようにつぶやいた赤服の大男は、都の憲兵を束ねるヤヴィック総隊長だ。卓を挟んで向かい合うコレット行政官が、落ちついて問いかける。

「彼がハドマント・ギルーを殺害し、逃亡したと?」

「決めつけるのは早計だが…… 裏があると思わんかね、行政官?」

 赤い制服と灰の制服の二人は、暗い予感を込めて視線を交わした。


 エーテル魔法に触れ得ない者として、そして魔導庁とは別の大組織に属する者として、彼らはよく似た思考回路を持っていた。

 その回路が描くのは、警戒の図式だ。

 国全体で魔導の偏重が起こることを、魔導士たちが力を持ちすぎることを、上に立つ“持たざる者”たちは常に恐れてきた。

 コレットの線のようなまぶたが押し上がる。

「魔導士の仲間割れ。そういうことか」

 総隊長は答えなかったが、椅子から立ち上がって(せわ)しなく歩き始めた。顎ひげをさすりつつ眺めていた行政官が、

「陰謀は明らかにし、阻止せねば……」

とつぶやく。

「イェリガルディンを守れるのは我々しかいない。王都からもそう言われているのではないかね、ヤヴィック総隊長」

 まったく普段通りの口調で告げられると、総隊長の足はピタリと止まった。



 王都の広大な本教会では、今しも盛大な祈祷(きとう)が始まろうとしていた。張り詰めた空気の中を一人の小姓が走り回っている。

「ウォルメリ様、どちらに? もう皆様が集まっていますよ」

 すると長い廊下の一つの扉が開き、「やあすまない、いま行く」と本人が現れた。ホッとした小姓だったが、

「あっ、お袖が汚れてます。お召し換えされませんと!」

と顔を険しくする。ウォルメリはごまかすように手を振った。

「きっと影に紛れるだろう。それより遅れてはいけないね……」

 ふくれっ面の小姓を引き連れ、彼は急ぎ足で聖堂へ向かった。


 開け放たれた小部屋の奥から消されたばかりのろうそくが香る。

 灰になった手紙が、燭台の受け皿に力なく漂っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ