犠牲と消失(2)
ジャンシールとアニスは、最後までギルーの顔を目にすることができなかった。
彼は顔を失っていた。
郊外の平野の片すみで、おこした焚き火にのめり込み倒れていたのだ。
「夜警が気づいて火を消したが、上半身が広く焼けている。素人は見ないほうがいい、お前もだ」
と、ゼルガーが騎竜兵へ首をしゃくる。アニスは険しい視線を返して尋ねた。
「ギルーだという証拠は?」
「骨格、衣服所持品。その他身体的特徴も合致している」
現場に立つ三人の足もとには浅く掘られた穴があり、燃えつきた木切れが風に煽られている。ゼルガーの部下たちが野次馬を追い払いながら地面を調べていた。
「犠牲者が出た以上、この件は我々が取り扱う。お前たちは今度こそ切り上げろ。聞いているのか?」
凄まれたジャンシールはハッとして顔を上げた。アニスがそっと肩に触れる。
「戻りましょう、魔導庁へ」
ギルーの帰還は、すでに町中に伝わっていた。
「人が燃えていたって?」
「魔導士だそうだ。何て恐ろしい……」
低いざわめきを耳にしつつ二人は足を速めた。アニスが前を見たままつぶやく。
「手を引きますか?」
「まさか。 ……まだ何もできてない」
ジャンシールが悔しげに口を引き結んだとき、教会の裏口からランドレン司教が慌しく出てくるのが見えた。
犠牲者に祈りを捧げるため、憲兵隊に呼ばれたのだろう。彼の横顔は痛ましげで、ジャンシールは責められているような気持ちになる。
脅されて足踏みしている暇はなかったのだ。ギルーが姿を隠した目的が何であったにせよ、先に見つけていればこうならずに済んだ……
彼の後悔を感じ取ったのか、アニスが小さく言った。
「ともに歩みましょう。謎のすべてが尽きるまで」
彼女の実直な言葉は、うつむきかけたジャンシールに静かな力を与えた。
「あんたと一緒でよかった」
と返す表情に笑みはなかったが、緑の目は先を見据え直していた。
だが、その日の騒ぎはまだ終わらなかった。
「お、おーい!」
庁舎の門をくぐった彼らのもとへ、ひょろ長い三角頭巾が駆け寄ってくる。
「ピオ、どうした!? 真っ青じゃないか」
とジャンシールが驚く。その両肩をつかんだピオは、震える口で懸命に尋ねた。
「ノ、ノーリックに会わなかった? どこにもいないんだよ、消えちゃったんだ!」




