マルスの天井亭(2)
「それで、あといくつだって?」
息をついたジャンシールが、できたての光石を金属の籠に積み上げた。
「昼までに百、を二人で。平和的に割りきれるわね」
向かいに座る魔導士がぐったりと微笑む。
エーテルが見えようが風邪の素からは逃げられない。仲間たちが次々と床に伏してしまって、ジャンシールは助太刀に追われていた。
すっかり寒さも強まり、光も熱も必要な量が増えている。間に合わせなくては、と空の石をつかみあげながら思い出す。
アニスの遠雷号も石をつけていたっけ。今日、ちゃんと会えるだろうか……
気が散ったり急いたり、彼が力の加減を見失ったとき。
バチッ! と鋭い音を立てて火花が弾け、手の石が躍った。
「あつっ!」
「やだ平気? 跡になってない?」
眉をひそめた仲間が椅子から伸び上がる。
エーテルは熱を生むもの、油断をすれば危険もある。ジャンシールはヒリヒリする手を振り、恥ずかしさから弱い笑いを浮かべた。
「少しだけ。こんな失敗、訓練時代以来だ……」
大量の石との戦いを終えた真昼、彼は矢のように飛び出していった。
息を切らして騎竜隊の宿舎に辿りつく。柵で囲った騎場に竜と人の姿がある…… と思った瞬間、手綱を引いていたアニスが顔を上げた。
まだ怒っているだろう。
ジャンシールはそう覚悟していたのだが、寒空の下で向き合った表情は頼りなくて寂しげで、幼さまで感じさせた。
今までにない様子に彼は戸惑う。冷たい風に背を押され、ようやく言葉を絞り出した。
「本当にすまなかった、その…… 大事な物を。壊れたりしなかったか?」
彼女は黙っていた。
主が答えに迷っているのを見てとったのか、かたわらの竜が首をふるって「グー」と鳴く。石のついた房飾りがコロコロと音を立て、その場の緊張が少しほぐれたようだった。
竜を見やった魔導士が笑いかける。
「疾風号か。熱石はあったかいだろ?」
鱗の顔が不思議そうにかしげられた。
するとアニスが竜を連れ、柵へと歩み寄ってきた。彼女は言葉を探していたが、見慣れた表情に戻りつつあった。
「気にしないでください、あれは……」
何でもない、と言おうとして口をつぐむ。目の前の小柄な魔導士は彼女を静かに待っている。
期待と不安に輝く瞳。その色が風向きを変えた。
「……話ができますか、ジャンシール」
安堵したジャンシールが心からの笑顔になった。
「俺もそう言おうと思ってた。ついでに美味い食事はどうだ、相棒」




