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バーナディーのお屋敷へ(1)

 神の手を借りてようやく会えたティラー・フォンクラム・バーナディー卿は、司教と対照的にどこまでも俗っぽい壮年の男だった。

「心当たりなんてあるものか。私が何を知っていると思ったのかね?」

 応接間はジャンシールの寮の部屋が二十は並べられそうなほど広く、立派ではあるがやたらと装飾がなされ、目にうるさかった。

 中央の長椅子にどっかり座ったバーナディー卿は、狩猟用の弓の手入れをしながら二人を迎えた。肉の厚い堂々とした顔が不機嫌に歪む。

「あの魔導士が消えて困っているのは私の方だ。仕事が早いと信頼していたが、こんな形で投げ出されるとは……」


 ムッとしたジャンシールが、

「庁から代理が来たでしょう。工事は遅れませんよ」

とつい口を出すと、卿は黒髪の魔導士を横目で睨んだ。

「お前か、この屋敷を竜小屋にするとか言ったのは。ランドレン司教を引き入れるなんてどんな術を使ったやら」

「そんな魔法はどこにも……」

「あれば使うんだろうが、ええ?」

 ともかく私は何も知らん、とふんぞり返ったバーナディーの太鼓腹に向かい、それまで黙っていたアニスが口を開いた。

「工事の打ち合わせは、すべてご自身でされていたのですか?」

 卿は、初めてその存在に気づいたように騎竜兵を見た。軽く値踏みしてからうさん臭そうに答える。

「大筋はな。調整は庭師にさせていたが」

「今いらっしゃいますか。お話をうかがいたいのですが」

 バーナディーは最後まで面倒そうだった。裏庭に回れ花は踏むな、とだけ告げると、ぴかぴかになった弓を持ってどこかへ消えてしまった。 



 部屋を抜けながらジャンシールは相棒へ耳打ちする。

「あの態度だ。形だけでも心配しないもんか?」

「正直とも言えますよ。遠雷号も反応していませんし……」

と、アニスがもうひとりの相棒を確認する。マントに隠した首の後ろ、鉄色の竜はただじっとしがみついているだけだ。

 彼らは、やや寂しい色を帯びる晩秋の庭に出た。落ち葉の降る小道を進んでいくと、池のほとりで泥をさらっている庭師を見つけた。

 事情を聞いた彼は、細い目をいっぱいに丸くした。

「消えたって、あの人が?」

 そこには驚き以上のものが表れたようだった。そっと目を交わしあう二人に気づいたのか、

「いや、しばらく担当が代わるとしか聞いてなかったから」

と本人が慌ててつけたした。


「そう、失踪だ。俺たちはそれを調べてる」

 ジャンシールはひとまず通りいっぺんの質問に取り掛かる。

「おたくはよく顔を合わせてたろう、仕事ついでに世間話もしていたんじゃないかと思ってね。先月の初めにかけて、ギルーにおかしな様子はなかったか?」

「さあどうだったか…… あまり喋る人じゃなかったからな。別にいつもどおりだったと思うよ」

「屋敷の外で彼と会うことはありましたか?」

 アニスが尋ねても庭師は首をかしげる。片目の下に薄くなった長い傷跡があり、それが彼に鋭い印象を与えていた。

「ないね。俺はあまり屋敷を出ないし、忙しくて」

 頭をおおっていた布をはぎ取って乱暴に顔をぬぐう。現れた髪は秋の陽ざしで金色に輝く。顎ひげを短く刈り込んだ、背の高い青年……

 作業小屋の窓に、ありふれた茶色の外套(がいとう)がかけてあるのが見えた。



 教会で得た証言…… ギルーと会っていた男の姿に、ぴったり一致する。

 ジャンシールとアニスは、ふたたび合わせた視線の下で小さくうなずき合った。

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