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竜の遠雷(2)

 雨に湿った二人は、すでに見慣れたギルーの部屋に入った。

 ひもを手にしたアニスが、つながれた竜をベッドの上へ送り出す。しきりに周りを嗅いでいた遠雷号だが、やがてじっと固まって動きを止めた。ちっぽけな瞬膜(しゅんまく)が半分閉じている。

「……眠っちまった?」

 ジャンシールが問うと、アニスは「しっ」と指を唇にあてた。

「匂いを覚えているところです。少し待ちましょう」

 木枠の端に腰を下ろし、外したマントを膝に広げる。

 午後も遅く、外は小雨で薄暗い。沈んだ町を眺めるジャンシールの頭に、昨日のホークとの会話がよみがえってきた。



 三十から零! とやかましく舞い戻ったジャンシールを、薬屋の老人はため息で出迎えた。

「謎の言葉ときたか。何か隠してるとしたらとんでもない阿呆だな、ギルーとやらは」

「そう思うかい?」

「当たり前だ。リートの若者にして魔導士、何の不自由もなかったろうに……」

と、部屋に流れてきたかすかなエーテルを目で追う。視線に気づいたジャンシールが笑った。

「そこにあるのか。相変わらずいい目だな」

 魔法の素質は一定の年齢を過ぎると衰えるのが普通だが、ホークは数少ない例外だった。

 しかし、彼の力への関心は薄い。

「こんなものは役に立たん。直感があったって、シェピの国は()けてしまったからな」

と亡国の故郷を苦々しく語る。

 もう上は()りたと迷宮に暮らす彼の過去を思うとき、ジャンシールの心に別の人生が浮かんでくる。

 少し時代が違えば、俺の歩みはホークと限りなく近いものになっていたかもしれない。

 この爺さんはもう一人の俺なのだ。


 老人は別れ際にこう受けあった。

「まあ、それらしい男を見たら知らせてやる。間違ってもわしの店には来ないだろうが」

と口をひん曲げる彼に、ジャンシールはしみじみとつぶやいた。

「長く生きろよホーク」

「おや、どうしたねブルネリアン」

 不意をつかれた老人は、珍しく楽しげに目を細めた。笑った瞳の青がシェピの国を今に残していた。



「テアドレ調査員? もういいですよ」

 アニスの声が届き、ジャンシールはわれに返って瞬きした。

「ああ、それじゃあ始めよう。その前に……」

と、彼はふと動きを止めて騎竜兵を見上げた。

「その堅苦しい呼び方やめてくれないか、アニス? そっちの相棒と同じように思ってくれて構わないんだが」

「承知しました。どこへ向かいますかテアドレ号」

 にこりともせず返され、テアドレ調査員が黒い眉を情けなく下げた時だった。


「おっ、どうした!?」

 じっとしていた遠雷号がぺたぺたと走り出し、ベッドの下へ潜り込んでしまった。意外な素早さを見たジャンシールが色めき立つ。

「何か見つけたぞ!」

「虫ですか」

 アニスは冷静に返すが、ジャンシールは這いつくばって暗がりに目を凝らした。

「ううん、ベッドはどかせないか…… その辺に光石がなかったか?」

 棚を見回したアニスが、「半透明の石」とつぶやいて小さな女神像をつかみ上げた。受け取った魔導士は、

「サイデアの導きだ」

と笑ってエーテルを込める。

 翼の女神がぼうっと輝き出し、かろうじて竜の姿を照らし出した。丸い顔のそばに小さな段差が影を作っている。

 そこへ手を伸べたジャンシールが声を上げた。

「床板が外れる! ……何か入ってるぞ!」

「えっ?」

 驚いたアニスも彼の隣に膝をつく。寝台の下に頭を突っ込んでいたジャンシールは、くったり柔らかい物を恐るおそる引き出した。

「これは……」

 二人は顔を見合わせる。

 床の上に広がったのは、三角頭巾のついたマントだった。

 そしてその襟元には、大事な身分記章…… 魔導士のメダリオンがそっくりそのまま残されていた。

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