王様の憲兵隊(1)
出た。
と、ジャンシールは思いっきり顔をしかめた。
無視したところで突っかかられると知っているので、仕方なしに声の主と向き合う。
鮮やかな赤の制服、瑪瑙色のビロードのマント。似たりよったりの長身が三つ並んだ真ん中に、目つきの悪い梟のような男が胸を張っていた。
ジャンシールはなるべく平静に話しかける。
「これから見回りかい。憲兵どのは忙しいな、ゼルガー」
すると相手は大きな目を不快そうに細めた。鋭く垂れたまなじりは穏やかさよりも高慢さを感じさせる。
「気安く呼ぶな。何をこそこそしていた、騎竜兵なんて役立たずと一緒に」
この言い草には魔導士もムッとなり、わざとらしい笑顔を作ってやった。
「ああ知らされてないのか。あんたの地位も大したことないってわけだゼルガー小隊長、いや“極小”隊長かな?」
「何だと、貴様!」
ゼルガーはすぐさま顔色を変える。その習性は、ここで暮らした三年足らずで嫌というほど見せられていた。
ジャンシールが「よせよ、ひよっこ連れて魔導士をいじめるのが仕事じゃないだろう」とお手上げの形をとる。
「質問に答えてもらおうか、エーテル使いの三角頭」
「仕事をしてた、中身はおたくの上に聞けばわかる。俺だって忙しいんだ」
と、苔色のマントをそよがせすり抜ける。しかし、
「……逃げ足が速いな、ブラカイム領民め」
とゼルガーが吐き捨てた言葉が、ジャンシールをキッと振り向かせた。
立ち止まった彼は、つかつかと戻って噛みつかんばかりに相手を睨み上げた。
「俺はブルネリアンだ」
深いフードの奥で緑の目が燃えている。低く抑えた声に怒りが滲んだ。
「俺たちの山の名は、昔も今もブルネだ。領民なんて二度と言うな」
だがゼルガーは動じない。
「どう思おうと事実は事実、お前が腰抜けの末裔であることに変わりはないだろう」
「…………!」
ジャンシールの目がいっそう吊りあがり、火花が散ったその時。
「おおーい、ジャーン!」
と、すっとんきょうに裏返った声が水を差した。
見れば、光石の籠を振りまわすピオがタマネギ頭を揺らしてひょいひょい駆けてくる。そしてゼルガーが口を開く前に素早く友人を引きはがした。
「よかった、さっきから所長が“黒猫はどこだ”って一階から屋上まで上がったり下がったりで庁舎が揺れてるんだ、崩れちゃうから急ごう。ああ皆さんこれで失礼しますごきげんよう!」
ひらひらした挨拶に気勢をそがれたのか、ゼルガーは「ふん」と鼻を鳴らして睨みつけるにとどめ、部下に顎をしゃくって踵を返した。
ピオは友人の背を押し押しささやく。
「相手するだけ無駄! そんなに毛を逆立てるなってば」
「……ここはいい町だ。あいつらがもう少し大人しければな」
と、ジャンシールは広場を離れながらようやく息をついた。




