表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/78

セレスタン教会(4)

 そのころ、ジャンシールはモロワ所長とこんな軽口を交わした。

「ありゃすごい男前ですね! まるで英雄(たん)から抜け出たみたいだって、娘さんから婆さんまで浮き足立ってますよ」

 居合わせた仲間が「あれでしょっちゅう転ぶから放っておけないのよね」と受けあう。

 だがエーテル使いの(おさ)は浮かない顔だった。

「彼はよい人だけれど、休息日の本礼拝が混んで困るわ。祈りに行って腸詰めの具の気分で出てくるなんて」

 冗談まじりのため息に陰がのぞき、ジャンシールは「おや」とうかがう。彼女はがっしりした頭をかしげてみせた。

「私はウォルメリ司祭長に残ってほしかったのですよ。小さなことにもよく気がついてくれる人だったから……」


 老司教をずっと支えてきた司祭の(かしら)は、ランドレンと交換する形で王都へ引き抜かれてしまっていた。

 確かにいい人だったが、とジャンシールはうなずく。

「そうそう優秀な者ばかりやれないよってことでしょう、下手したらこっちが首都になっちまう。そしたらここが魔導本庁で、あんたは長官ですよ」

「成りあがる機会を失ったわ。いよいよ口惜しいわね」

 軽く返しながらも所長はまだウォルメリに未練があるようだった。しかし町はすでに新しい体制を受け入れていて、ジャンシールにしても同じだった。



 初めて挨拶をした時、ランドレン司教は「おや、あなたは西の方ですね!」と邪気のない様子で彼をのぞき込んだ。

「はい、ブルネの山の出です」

 そう答えるジャンシールの緊張を解くように、司教は気さくに握手を交わしてきた。

「ブルネリアンの目は森の色というのは本当だなあ。私が魔導をかじっていた頃はリートの者ばかりでしたが、よい変化です」

 この喜ばしい言葉には一緒に来ていた仲間も調子に乗り、

「ところで司教様。こっちが猫、こっちがタマネギ。ふたりは仲良しです」

とジャンシールとピオを示した。すると司教は「駄目な組み合わせですよ、離れましょう!」と本気で慌てて皆を笑わせ、やがて自分も笑い出したのだった。


 しかし今、詳しい事情を聞いたランドレン司教は「そうですか、ギルーさんが……」と顔を曇らせた。

「司教様は彼を見かけましたか?」

「それが、会合があって数日ここを離れていたんです。最後に顔を合わせたのは先月の休息日だったかなあ」

と、なめらかなまぶたで宙を見上げる。

「その時、彼に変わった様子は」

「お仕事の話をしたくらいで、特別には…… 何かお役に立てればよかったのですが」

 すまなさそうな彼に、ジャンシールは「そんな、とんでもない!」と両手を振る。

 ここで頭上の鐘が大きく鳴り出した。

 音の終わりを待っている間、となりに立つアニスが小刻みに揺れていることに気づいた。


 そんなに帰りたいのか?

 ちょっとおかしくなり、彼は「そういうことで、またうかがうかもしれません」と手短に切り上げた。司教は心配を表しつつも明るく答える。

「いつでも喜んで協力します。彼が無事に戻りますように」

と祈りの印を切って、聖堂へ引き返していく途中で芝草につまづいて宙を泳いだ。

 やっと扉が閉まるのを見届けたジャンシールが、

「よし!」

と言うや否や、アニスは「それではまた」と声を残して急発進した。濃紺のマントがその速さにひるがえる。

 ジャンシールはなかば呆れてつぶやいた。

「猟犬みたいだな……」

 これからどこかに行くんだろうか。

 ふとそんな気がしたが、確かめる(すべ)もない。彼は相棒と反対の方へ歩き出す。人々に混ざって落ち葉舞う広場を渡りきろうかというときだった。

「おい、何を嗅ぎ回っていたんだ」

 投げつけられた(とげ)々しい声が、魔導士の足を止めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ