セレスタン教会(4)
そのころ、ジャンシールはモロワ所長とこんな軽口を交わした。
「ありゃすごい男前ですね! まるで英雄譚から抜け出たみたいだって、娘さんから婆さんまで浮き足立ってますよ」
居合わせた仲間が「あれでしょっちゅう転ぶから放っておけないのよね」と受けあう。
だがエーテル使いの長は浮かない顔だった。
「彼はよい人だけれど、休息日の本礼拝が混んで困るわ。祈りに行って腸詰めの具の気分で出てくるなんて」
冗談まじりのため息に陰がのぞき、ジャンシールは「おや」とうかがう。彼女はがっしりした頭をかしげてみせた。
「私はウォルメリ司祭長に残ってほしかったのですよ。小さなことにもよく気がついてくれる人だったから……」
老司教をずっと支えてきた司祭の頭は、ランドレンと交換する形で王都へ引き抜かれてしまっていた。
確かにいい人だったが、とジャンシールはうなずく。
「そうそう優秀な者ばかりやれないよってことでしょう、下手したらこっちが首都になっちまう。そしたらここが魔導本庁で、あんたは長官ですよ」
「成りあがる機会を失ったわ。いよいよ口惜しいわね」
軽く返しながらも所長はまだウォルメリに未練があるようだった。しかし町はすでに新しい体制を受け入れていて、ジャンシールにしても同じだった。
初めて挨拶をした時、ランドレン司教は「おや、あなたは西の方ですね!」と邪気のない様子で彼をのぞき込んだ。
「はい、ブルネの山の出です」
そう答えるジャンシールの緊張を解くように、司教は気さくに握手を交わしてきた。
「ブルネリアンの目は森の色というのは本当だなあ。私が魔導をかじっていた頃はリートの者ばかりでしたが、よい変化です」
この喜ばしい言葉には一緒に来ていた仲間も調子に乗り、
「ところで司教様。こっちが猫、こっちがタマネギ。ふたりは仲良しです」
とジャンシールとピオを示した。すると司教は「駄目な組み合わせですよ、離れましょう!」と本気で慌てて皆を笑わせ、やがて自分も笑い出したのだった。
しかし今、詳しい事情を聞いたランドレン司教は「そうですか、ギルーさんが……」と顔を曇らせた。
「司教様は彼を見かけましたか?」
「それが、会合があって数日ここを離れていたんです。最後に顔を合わせたのは先月の休息日だったかなあ」
と、なめらかなまぶたで宙を見上げる。
「その時、彼に変わった様子は」
「お仕事の話をしたくらいで、特別には…… 何かお役に立てればよかったのですが」
すまなさそうな彼に、ジャンシールは「そんな、とんでもない!」と両手を振る。
ここで頭上の鐘が大きく鳴り出した。
音の終わりを待っている間、となりに立つアニスが小刻みに揺れていることに気づいた。
そんなに帰りたいのか?
ちょっとおかしくなり、彼は「そういうことで、またうかがうかもしれません」と手短に切り上げた。司教は心配を表しつつも明るく答える。
「いつでも喜んで協力します。彼が無事に戻りますように」
と祈りの印を切って、聖堂へ引き返していく途中で芝草につまづいて宙を泳いだ。
やっと扉が閉まるのを見届けたジャンシールが、
「よし!」
と言うや否や、アニスは「それではまた」と声を残して急発進した。濃紺のマントがその速さにひるがえる。
ジャンシールはなかば呆れてつぶやいた。
「猟犬みたいだな……」
これからどこかに行くんだろうか。
ふとそんな気がしたが、確かめる術もない。彼は相棒と反対の方へ歩き出す。人々に混ざって落ち葉舞う広場を渡りきろうかというときだった。
「おい、何を嗅ぎ回っていたんだ」
投げつけられた刺々しい声が、魔導士の足を止めた。




