85.決着!
ティナが倒れる。
あのどでかい杭が打ち出される魔法をティナがモロに受けた時、思わず飛び出しそうになった。
あんなもの直撃して無事で済むはずがない。
そんな俺を冷静にしてくれたのは揺らめく小さなモノだった。
「「「《ウインドボール》」」」
揺らめくモノから魔法が放たれ、女冒険者を襲う。
「……これは?」
女は少し困惑しながらも軽々と躱す。
だが、それでは終わらない。次々と魔法が冒険者に飛んでいく。
「よし」
「(いや~ギリギリやったな~どうなることかと思ったわ)」
「あとは頼んだぞ。ルビー」
「(任せとき~)」
ルビーが女の頭上へと飛んでいく。
「(ほな、シルフ達、やったって~)」
ルビーの合図のもとに、魔法の弾幕はさらに激しさを増す。
そう、これこそが、俺達がこの女冒険者を打ち崩すための作戦だ。
大量に創造したDランクのシルフの中にティナがこの女を呼び込み、数の力で圧倒する。
というはずだったのだが、ティナめ、調子にのって戦闘に熱中しやがって……危うくやられるところだった。あの女が途中から何かおかしな様子になって、周囲への警戒が薄れたから、そのスキにシルフ達で囲むことができたが……本当に危ないところだった。
本来であれば、ティナにももう一働きしてもらう予定だったのだが、まぁなんとかなるだろう。
女の方に目を向けると、シルフ達による風の塊が女冒険者に殺到する。
だが、それをあの女は躱す躱す。
シルフの魔法は決してスピードのあるものではないが、絶え間なく、囲むように放たれている。それにも関わらず、人間とは思えない瞬発力で躱し続ける。
魔法が放たれるタイミングを正確に掴んでないとできない動きだ。
「くっ……」
だが、徐々に被弾することが増えてくる。
それはそうだろう。そんなに長々と集中し続けられるわけがない。
そう。集中だ。
人間の冒険者はみな魔力を探知できる魔道具を持っている。前回襲われて撃退した際に、その魔道具をこっちも手に入れた。
それを使って色々と検証をした結果、分かったことがある。
探知の魔道具はそれほど万能のものじゃないってことだ。
探知の魔道具は、魔力のある方向、大きさに応じて反応する。不思議なもので、装備していれば、ダイレクトにその反応が伝わってくる。ポイントは分かるのは「方向」と「大きさ」だけってことだ。離れた大きな魔力も近くの小さな魔力も同じようにしか伝わってこない。
俺ら魔族は、自力で魔力を探れば、「方向」と「大きさ」だけでなく、「距離」もなんとなく分かる。遠くにある大きな魔力なのか、近くにある小さな魔力なのか、感覚的につかめる。
人間達の魔力の探知は完璧ではないのだ。しかも、複数の魔力を探知すると、その反応が波のように押し寄せてきて、正直わけが分からなくなる。魔族だからそうなるのかと思ったが、ダットンに使わせてみても、
「いや、3つくらい魔力の反応があったら、もうごっちゃごちゃですぜ」
だそうだ。
つまり、「数」が探知の魔道具対策になるわけだ。
目の前の女は10近くの魔法が同時に襲いかかってくるタイミングもあるにも関わらず、最小限の被弾でさばいている。魔道具の性能の違いもあるのかもしれないが、よくもまぁ対応できるものだ。
だが、明らかに限界。
この状態なら、ロクに魔力の探知はできないだろう。
あとは俺が……
「うざったい!《ファイアウォール》《ファイアウォール》《ファイアウォール》」
俺が動く前に、女が魔法を使い、シルフ達の魔法を相殺する。
「《ファイアボール》」
「(うぉっと!!)」
さらに魔法の弾幕が止んだこのスキにと、女はルビーを狙う。
「おまえが司令塔か」
まずいな。宙に浮くルビーが簡単にやられるわけはないが、単純な戦闘能力で考えたら、ルビーじゃ太刀打ちできない。
もう一度なんとかシルフに魔法の弾幕を張らせて……
……ん?
「……なめないでよ」
この声は……
「獣人の力をなめないで……」
離れたところでゆっくりと立ち上がる。
「アタシはまだこんなもんじゃない!!」
完全に戦闘不能のはずだったのに、力強く声を上げる。
ティナ……
左腕は二の腕が変な方向に曲がり、ぶらんと垂れ下がる。
右手もよく見ると、指が動かせていない。
立ち上がってはいるものの、片足を引きずり、口から血を吹いている。
立っているだけでもつらいだろうに……。
「まだ死んでなかったの。ちょっとびっくり」
「アンタに勝つまで死なないわよ!」
「別に私は負けてもいいけど、あなたは殺すわ」
「(シルフ達、構えてや!姉御はもう戦えん)」
ちっ、介入するタイミングを逃した。このまま二人の戦いが始まるとちとまずいかもしれん。いや、ティナのこの状態じゃ戦いにもならん。
「アタシの力を見せてあげるわよ!《無音の探索者》」
いや、それを敵の目の前で今使ってどうする!?
ティナのやつ、ボロボロで頭も働いてない。これは本格的にまずい!
「《アースニードル》」
さらにティナが自分の魔道具を使い、擬似的なステータス上昇を試みる。
だが、それは……
「……自滅?」
女のいうとおりだ。ティナの体は今その技を使える状態じゃない!
だが、そんな俺の考えを無視してティナが動き出す。
「《ウインドボール》《アースニードル》《ウインドボール》《アースニードル》」
「なっ!!」
縦横無尽にティナが駆け回る。
土の塊に押し出され、女に突撃したかと思ったら、風の魔道具で軌道修正。そこからさらに《アースニードル》で別方向に跳ぶ。ありえない場所でありえない速度で動き回るティナ。
魔道具の扱いにもこの戦闘で慣れたのか、かなりのスピードで連続で使う。
「(やめや!姉御死んでまう!)」
「くっ追いきれない!いえ、魔道具が反応してない?」
女冒険者もとまどっている。
そりゃそうだ。《ウインドボール》一発でも死にそうな状態だったのだ。
それが、何度も魔法を受けても元気いっぱいに動き回っている。
まるで残る命をすべて燃やし尽くし、力に換えて目の前の敵に挑んでいるかのように……
「ぐぁっ!」
女を中心に跳び回り、打撃で加えていくティナ。
俺もティナの動きを追いきれない。
「あんたの目に、アタシの生き様焼き付けなさい!!」
そう言ったかどうか、いつのまにか女の頭上にいたティナの高速かかと落としが綺麗に決まる。
「ッ!」
女冒険者は気を失ったのだろう。静かに倒れる。
そして倒れる者がもう一人。
「見てた?カイン兄……」
文字通り、すべてを出し尽くしたティナが女冒険者の隣に横たわる。
ヘッジ「え……なんすか、この終わり方……ヒロインはいなくならないっすよね?常識っすよ?」
ティナ「……」
ヘッジ「アネキーーーーーー!!!」
◇◇◇◇◇◇
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