33. 【オスカー】ゴブリンじゃねぇ
本日は3話投稿。こちらはその2話目。
俺達は看板の先、より森の奥の方へと進んだ。
当然、厳戒態勢で、だ。
これまでのところ特に危険な目にはあっていない。
魔獣にも出くわしていない……わけではないのだが、戦闘にはなっていない。
「あ、またいたわ」
イザベラがまた魔獣を見つけたらしい。
「なんか拍子抜けだな。いるのはスライムばっかじゃねーか」
そうなのだ。さっきからスライムだけがやたらといる。
そこまで歩き回ったわけでもないので、他の魔獣と出くわさないことは不思議というほどではないのだが、スライムの発見頻度は少々不思議だ。
だが、スライムは俺達の脅威とはならないし、積極的に狩る気にもならない。
やつらは狩っても素材になる部位がない。もちろん魔石使えるのだが、なんせやつらは核を潰さない限り再生してきやがる。つまりスライムを狩るってことは、魔石を砕くってことだ。わざわざ戦っても得るものがない。
スライムの方も、基本死肉をエサとしているので、俺らに向かってくるようなこともない。木の影でふよふよとしているだけだ。
「もしかして、あの看板の『これより先』ってこっちじゃなかったんじゃない?」
……その可能性はある。なんせ森の中に看板が1つ立ってただけなのだ。
看板の裏側の方が『先』なのだろうとは思うが、確証はない。
「まぁ、そもそもの目的は看板の先の『調査』だ。何もないならないで、それは1つの成果だろう」
『特に何もなかった』ということが分かっただけでも、まずは十分だ。
俺達はそんな事を話しながら歩いていた。
すると、そんな俺達の警戒心の緩みを狙ったかのように、突然やつらは現れた。
「前方敵多数!!」
デイジーは安価なものではあるが、近づいてくる魔力に反応する魔道具を持っている。
その魔道具が反応したのだろう。魔獣の気配に気づき、警戒を促す。
俺達は陣形を整える。
槍を使う俺とタンク役のハリソンが前衛、短剣のデイジーが中衛、弓のイザベラが後衛だ。
そうこうしているうちに、魔獣が姿を現す。
「ゴブリンよ!数は5!」
「イザベラ、頼む!」
イザベラは弓をつがえ、矢を放つ。
ゴブリン相手なら、近接戦闘に入る前に2匹くらいは矢で減らせるはずだ。
ところが……
「うそでしょ……」
ゴブリンどもは木でできた盾をかかげ、こちらに走ってくる。
イザベラは何度も射掛けるが、ほとんどが盾に当たって、ゴブリンは1匹も倒せていない。
「ゴブリンが盾を使うなんて聞いたことないわよ!」
短剣を振り回すゴブリンくらいならいるが、盾は見たことがない。
「ハリソン、行くぞ!デイジーはイザベラを守れ!」
俺は指示を出し、自身もゴブリンに向かう。
ゴブリン達は俺達に近づくと、3匹が盾を捨て、槍を両手に持つ。
「なんだコイツら!隊列を組んでやがる!」
ゴブリンはEランクの魔獣。ランクとしては最底辺だ。
だが、Eランクとはいっても、魔獣は魔獣。人間より力は強い。
ハリソンが盾持ちのゴブリン1匹に押し負けている。
俺も槍で突こうとするものの、盾で防がれ、ダメージを与えることができていない。
これはまずい……。
「うっ」
盾持ちのゴブリンの後ろから、別のゴブリンが槍で攻撃してくる。
理想的な陣形だ。
というか、ゴブリンごときがなぜこんな動きをする!?
俺とハリソンが必死に5匹を相手取っていると後ろからデイジーの叫び声がする。
「なんでこっちに来ないのよ!?」
そうだ。それも異常だ。
普通、ゴブリンはてんでバラバラにこちらに向かってくる。
こちらの武器がなんであれ、考えなしに、だ。
だから、5匹もいれば、何匹かはデイジーやイザベラ達に向かっていくと思っていたのだが、5匹全員が俺とハリソンを狙ってくる。
まるで、近接戦闘に入れば、後衛達は攻撃して来ないと理解しているかのように……。
「クソっ!デイジーこっち加われ!」
守る必要がないなら、デイジーを遊ばせておく必要はない。
デイジーを呼び寄せ、盾持ちのゴブリンの後ろに隠れている槍持ちゴブリンを襲撃させる。
「イザベラ、魔道具を使え!」
「ちょっと!ゴブリン相手よ!」
「コイツらは普通じゃない。出し惜しみしてると死ぬぞ!」
イザベラは魔道具を取り出し、準備にかかる。
1撃ごとにEランクの魔石を消費する燃費の悪い魔道具だが、仕方ない。
「行けるわ!」
「散開!」
俺の合図で俺、ハリソン、デイジーがゴブリン達から距離をとる。
「《アイスニードル》」
5本の氷の塊がゴブリン達を襲う。
「ゴブー!!」
さすがにこれは盾では防ぎきれない。
倒せてはいないようだが、盾持ち2匹と槍持ち1匹がそれぞれ体の一部を氷に貫かれている。
無傷なのは槍持ち2匹だけ。これならどうにかなる。
「よし、イザベラは後方待機!デイジー、ハリソン、行くぞ」
「「了解」」
俺達は三方から再度ゴブリン達に向かって走り出す。
だが……
「きゃあっ!」
「!?」
後ろを振り向くとイザベラが倒れている。
その横には2匹のゴブリン。
クソっ。戦闘が長引きすぎたか……別のゴブリンを呼び寄せてしまったようだ。
「おい、オスカー!」
「分かってる!デイジー、ハリソン、助けるぞ!」
「えっ!あっ……」
(ドサッ)
「なにっ!?」
デイジーの声がした方に顔を向けると、そちらにも2匹のゴブリンがいる。
そいつらは倒れたデイジーを弄っている。
くそっ俺達を無視してこんなところでおっぱじめる気か!
「ハリソン、おまえはデイジーを!俺はイザベラを助ける!」
「ゴブーーー!!」
「「!?」」
突然、ゴブリンの大きな叫び声が響き渡る。
声の方に目を向けると、そこには10匹ほどのゴブリンがいた……。
「おいおいおいおい……」
「……オスカー、囲まれてる」
「!?」
なんと気付くと周り一面、ゴブリンがいた。
みな何かしらの武器を持っている。
なんだこれは!?
いつの間にこんな大勢来たんだ!?
「ゴブーーー!!」
1匹のゴブリンが叫ぶ。
すると、イザベラとデイジーを襲ったゴブリンが離れる。
よく見るとその手には何かが握られている。
「おいっまさか魔道具を持っていく気じゃないだろうな!」
ゴブリン達が持っているのは魔道具だった。デイジーの魔獣を探知する魔道具と、イザベラの《アイスニードル》の魔道具。……まさかゴブリンが魔道具を使うつもりか?
「ゴブ!」
さきほど叫んだゴブリンが俺達を睨みつける。
そして手に持つ槍で俺達の後ろを指す。
見てみると、さきほどはゴブリンがぐるっと俺達の周りを囲っていたが、後ろの方だけ包囲が解かれていた。
「帰れってことか?」
「ゴブ!」
俺とハリソンは顔を見合わせ、頷く。
見れば、デイジーとイザベラも既に解放されていた。
俺達はそれぞれ1人ずつ抱え、森の南側へと歩き出す。
ゴブリン達はしばらくこっちを見ていたが、俺達が視界に入るか入らないか、というくらいのところで、去っていった。
ゴブリンがいなくなったのを確認してからもしばらく歩き続け、今朝見た看板のあたりまで引き返してから、一息ついた。
「なんだったんだ、あれは……」
俺達は抱えていたデイジーとイザベラを下ろす。
二人とも打撲程度で、命に別状はないようだ。
「あんなのゴブリンじゃねぇ」
たしかに異常だ。
習熟したような武器の扱い。
盾と槍で隊列を組んでの戦い。
明らかに連携のとられた奇襲部隊。
1匹のゴブリンの指示に従う指揮系統。
あまつさえ、女には手を出さず、魔道具だけ取っていきやがった。
俺が知るゴブリンとは全く違う。
「……あれがダンジョンの魔獣なのかもしれないな」
だとすると、出来たばかりでダンジョンは大したことがない、というのも誤りかもしれない。俺達が相手をしたゴブリンと同レベルで、最後に見たゴブリン達全員が戦えるとしたら、Dランクの冒険者なんてまるで歯が立たないだろう。下手をしたらCランクのパーティだって危うい。
……相手はたかがEランクの魔獣なのに、だ。
「まずはギルドに帰って、この事を報告しよう」
俺達はデイジーとイザベラが目を覚ますのを待ち、セレンの待ちへと帰還した。
その後、この深緑のダンジョンはセレンの町で広く知られ、この森は「深緑の森」と呼ばれるようになった。
ヘッジ「ゴブタロウ達すごいっす!」
ティナ「指示出してたのはアタシなんだけどね。《交信》使って」
ヘッジ「それでも冒険者相手にふつーに戦って勝ったっす」
ティナ「まぁね。たとえEランクっていってもゴブリンだって、地力は人間なんかに負けないからね。ちゃんと考えて相手すれば、あのくらいの冒険者には勝てるのよ」
ヘッジ「野良のゴブリンだとほんとに単純に向かってくるだけっすからねぇ……」
ティナ「しかも、メスと見ればすぐサカッてくるし!ほんとバカよね!」
ヘッジ「……ゴブタロウ達はもう違うっすからね」
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