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17.【ジェイムズ】ワシの時代

 ワシはジェイムズ・バーナード、この地で領主を務めておる。


 今朝、ワシの屋敷に一人の男が訪ねてきた。緊急の謁見だという。

 普通なら、そんなもの一蹴するのだが、なんとSランク冒険者らしい。

 冒険者は主に魔石の調達を行う者で、どちらかというと何の職にもつけなかった連中がなるものだ。自然とあまり品の良い人間はいないし、世間的にもあまり良い目では見られない。


 だが、Sランクは違う。


 Sランクの冒険者はその隔絶した能力により、Aランク以下とは一線を画す扱いとなる。どこかの国に属す者ではないため、明確な爵位こそないものの、男爵相当として扱われる。また、1人で戦況を覆す実力を持つため、特定の国が戦争に徴用することが禁止される。そして、冒険者ギルドからの依頼には応じる義務はあるものの、自由と権限を持つ。


 そもそも世界で両手で数えられる程度しか存在していない。

 そんな人間がワシになんの用だ?


「このたびはお時間いただき、ありがとうございます」


 冒険者が恭しく頭を下げる。

 ふむ。野蛮な連中ばかりだと聞いていたが、思ったよりまともそうではないか。Sランクともなると、態度もそれなりになるものなのだろうか。


「本日はぜひとも、子爵様にお聞きいただきたいことがあり、馳せ参じました。きっとお喜びいただける話かと存じます」


 いい話だと?本当にそうならいいけどな。

 近頃は隣のフェイン伯爵にバカにされっぱなしだ。フェイン伯爵領は海に接するため、海産物の交易が盛んだ。対してうちは産業と呼べるほどの産業がない。


「ダンジョンができておりました」


「なに!?」


 思わずワシは立ち上がる。

 見れば、側近達も一様に驚き、その後、喜ぶ連中と疑いの目を冒険者に向ける連中に分かれる。


「この領地にか!?それは本当なのか?場所はどこだ?」


「本当です。この目で魔族もダンジョンコアも確認致しました。場所はセレンの町の北にある森です」


 セレン……どこだそれは?聞いたことがあるようなないような……。

 いや、待て。今なんと言った?


「今、なんと申した?」


「場所はセレンの町の北にある森、と」


「そうではない。その前だ!」


「はい?魔族とダンジョンコアも確認済という件でしょうか?」


「ダンジョンコアを見つけたということはダンジョンを攻略したということか!?ならばなぜダンジョンコアを獲ってこない!?」


「ふふふ……」


 冒険者がなんとも愉快そうな顔でこちらを見てくる。

 こやつ、随分と礼儀をわきまえたやつだと思ったが……逆にそのふてぶてしい様が腹立たしく感じてきたぞ。


「いえ、子爵様のためを思えばこそでございます」


「は?ワシのため?」


 意味が分からない。ワシのためというのであれば、ダンジョンコアを獲ってきて、献上してくればよい。


「ダンジョンコアを獲ってしまうと、もうその地から魔獣は生まれてきません。それよりも子爵様にとっては、定期的・安定的に魔石を手に入れられた方が好ましいものと存じます」


 ……なるほど、一理ある。


 ダンジョンコアが手に入れば、それを使うことで、それこそ魔導船の建造や長期にわたる都市全体への魔力供給など計り知れないメリットが生みだされる。だが、それも一時の事。

 魔獣が生みだされる場所は天変地異が起こるリスクとの隣合わせだ。そのリスクなく、定期的に魔石を供給してくれる魔獣を狩ることができる場所が手に入るというのは、ダンジョンコアの利用に劣らぬ利益を生み出すだろう。いや、領地に新たな産業が生まれることを考えれば、長期的にみてむしろメリットが大きい。


「ふむ」


「お分かりいただけたでしょうか?」


「つまり、ワシにダンジョンから魔石を採取する産業を作れ、ということだな」


「左様でございます。件の地はセレンの町からかなり距離も有り、森の外側のどこかに新しく町を作られるのがよろしいかと存じます」


 これは……ワシの時代が来たかもしれんな。


「よく伝えてくれた。大義であった。詳しい話は部下に聞かせてやってくれ。褒美には何を望む?」


「私は旅先で目にしたものをお伝えしただけでございますので、褒美など結構です。それでは、こちらで失礼させていただきます」


 そう言うと冒険者はすぐに去っていってしまう。

 側近が慌ててそれを追いかける。


 褒美もいらんとは……Sランク冒険者は仕事を請けた際の報酬もかなりのものだという。金などには困っていないのかもしれんな。

 うちは裕福な領とは言い難い。正直なところ、これは助かる。


 さて。


「エリック」


「はい。ジェームズ様」


 ワシは執事兼相談役のエリックを呼び寄せる。エリックは幼少の頃よりワシの面倒を見てくれている者だ。何かあった時にはこいつに相談しておけば間違いない。


「今の話を聞いてどう思う?」


「非常に良い話かと。ただ、まずは本当にダンジョンがあるか、確認する必要がございましょう」


「教会に頼むのか……」


「致し方ないかと」


 教会は魔族・魔獣の完全排除を掲げている連中だ。やつらの教義によると、魔族・魔獣はこの大地に宿る自然の力を無尽蔵に消費し、繁殖する害虫のような存在なんだとか。それゆえ、この大地を守るためにはやつらの抹殺が必要だと説いている。

 ……魔族・魔獣がいなくなってしまったら、魔石が取れなくなってしまうではないか。この世において、そんなことが許されるわけがない。

 そんなんだから、教徒もさほど多いというわけではない。なんでも敬虔な信者は魔石を使わない生活をするのだとか。アホらしい。

 だが、そんな連中でも役立つことがある。それがダンジョンの確認だ。


 やつらはその地がダンジョン化されているかどうかを確認する魔道具を持っているとされる。


 借りを作るのは好ましくないが……。


「仕方ない。教会に依頼し、あの冒険者が言う地を確認させろ」


「かしこまりました。ダンジョンがあった場合にはあの冒険者の進言のとおり、町を作られるので?」


「そうだな……やつはセレンの町のそばと言っておったが、その町はどこにあったかの?」


「セレンは領の最北の小さな町でございます。コルドロン山脈のふもとに森林地帯が広がっていたかと思いますので、今回ダンジョン化されたというのはその地でしょう。だとしますと、セレンの町からは歩いて1日以上あるかと思われます」


 あぁギアス帝国との境にある、あの森か。我が領はギアス帝国と接する領地ではあるが、間に越えることのできない山脈があるため、侵攻される恐れはほぼない。

 ……断じて、我が領地が侵攻する価値のない領地だからではない。


「それでは、そのセレンを魔石採取の拠点にするのは少々厳しいか」


「左様でございますな。これまでも細々とその森から魔石の採取はしていたようですが、大々的に行うとなると、少々離れ過ぎているかと」


「であれば、町を作らざるをえんな」


「はい。ですが、懸念も少々もございます」


「ん?資金の問題なら覚悟しておるぞ。改めて予算の見直しをし、多少苦しくとも進めねばならんだろう」


「いえ。もちろん資金の問題もございますが、私が懸念しているのはそこではございません。魔族です」


 あぁ魔石に目が奪われていたが、その問題もあったか……。


「魔族による襲撃か……」


「はい。魔族といっても様々な者がいると聞いております。攻撃的な性格の者ですと、近くに町を作るというのは危険かもしれません」


 それはそのとおりだろう。だが、


「徐々に町を大きくしていけば、甚大な被害を受ける前に様子を探れるだろう。なにより、そんなことに怯んではおれん。多少の犠牲は覚悟のうえだ。この機会を逃すわけにはいかん」


 このワシの時代が来たのだ!必ずや、このダンジョンをモノにして、成り上がってみせるわ!


ちなみに、ルークは1つ嘘をついています。

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