その5
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閑散とした教室内で、ぼんやりと席に座っていた。腕時計を確認すると、午後六時が迫っていた。
あの後、俺たちは少し話し合いをして解散した。不安感を抱いたままに行った話し合いは、通夜のようにどんよりとしていた。
決めたことと言えば、チーム・コンパスの一番の目的が、秘密を暴くことから、大切な記憶を探すことに変わったことくらいだ。そりゃそうだ。秘密も気にはなるが、身の安全が第一。この街以外の場所に行ける方法があるなら、早急に確保しておくべきだ。
各自大切な記憶について思い当たることはないか考えることを告げ、俺たちは帰路についた。
俺は、なんとなく帰る気になれずに教室に留まっていた。さすがに腹が減ったから、そろそろ帰ろうとは思うけれど、頭に浮かぶのはさっき見た墓のことでいっぱいだった。
「まだ帰っていなかったのね、繋くん」
小さな足音と共に聞こえたのは、凛とした静かな声。鞄を肩にかけた夕凪が教室の後ろに立っていた。
「夕凪、帰ったんじゃなかったの?」
「少し生徒会室の片づけをしていたの。今から帰るところ」
「……そっか」
夕凪はさほど先程のことを気に留めていなさそうだった。いや、気にはしているのかもしれないが、夕凪はあまり顔に出るタイプじゃないから分からない。
「……ねぇ、本当にこの世界の調査を続けるの?」
俺の隣の席に鞄を置いた夕凪が、訊ねてきた。立ったままの夕凪を見上げれば、珍しく沈んだような目をしていた。
「一応ね。単純に好奇心っていうのもあるけど、ここまで来たら後戻りできないっていうかさ……」
「……そう」
「夕凪は反対なの?」
「そうじゃないわ」
「じゃあ、どうしてそう聞いてきたの?」
今度は俺が質問すれば、夕凪は一度口を閉ざした。何度か瞬きを繰り返すと、消え入りそうな声で言った。
「ただ、不安なだけよ」
「不安?」
「えぇ。繋くんたちが、壊れてしまわないかって」
「壊れるって、そんな大袈裟な」
「……ごめんなさい、不安になりすぎたわね」
夕凪はそう言って深呼吸をした。
壊れるって、一体どういう意味だ。世界の秘密を知ってなのか、逃げ出そうとして、いるかも定かではない犯人に壊されることなのか。
「繋くん、私は何があっても貴方を信じてるわ」
夕凪が、綺麗に微笑んでそう告げた。
ひとまず、ありがとうと礼を言ったが、真意は分からない。夕凪は、この世界について何か知っているのだろうか。何か重大な秘密を握っていて、俺たちに何かを伝えようとしているのか。
考えても、彼女のことは分からない。
俺は様々な疑問を抱えながら自宅へと歩き出した。
顔を覗かせた非日常。これから何かとんでもないことが待っているような気がして、俺は僅かな期待と纏わりつく不安を感じながら青空の下を歩いた。