聞き逃さなかった男
男は、スポーツジムで汗を流し自らを追い込んだ。
ここまで来て衰えるわけには行かず
何とか体力を維持するため
マシンと向き合った。
いつものメニューをこなした後
男は、もう一踏ん張り
負荷を多めにかけ
それを、グイっと持ち上げた。
おそらく顔は、かなりの形相だったと思われたが
男は、それを持ち上げ切った事に
確かな手応えを感じた。
今日追い込むのは此処まで。
男は、シャワーを浴びて心地良い疲労感とサヨナラし
ロビーで一息ついた。
隣に居合わせた二人組の中年男子も
満足そうに、今日の己のトレーニング成果について
語り合っていた。
男は、帰ろうとして鞄を持った瞬間
隣の二人組の会話に、思わず振り返った。
二人組のうちの一人が、こう言った。
「 今日のプールは、良かったですわ!
わし、久し振り長い時間歩きました 」
男は、水中ウォーキングをされていたのかと思い
その先を聞き、思わず二度見した。
「 やっぱり良いですねぇ、水中プール 」
( プールは水中と、相場は決まってる。)
例え充実した時間を過ごしたとしても
やはり、言い間違えは良くない。
男は、それを今日の締めの一言にした。