異世界に行くなら特殊能力を下さい
〜プロローグ〜
生きる目的を見つける事って大変だと思う
現実は時として小説のような物語を紡ぐ時もあるが
基本的には同じ毎日の中に事件があるだけ
充実した毎日なんて世界でいったい何人いるのだろうか?人類の中で何パーセント存在しているのだろうか…。そんな自問自答を繰り返す毎日だった。
少し薄暗い埃っぽい部屋の中に向かい合う2人が話し合っている。
「まだ、そんな事を言っているのか?10年働いて、お子ちゃまみたいな事を言ってるから昇進できないんだよ!」
俺は、怒りを表しに立ち上がり声を荒げた!
「部長、この会社の効率が悪いのは事実です!改善すべきです!あと、昇進は私を誰も評価してくれないからしていないだけです!私は最低限の売り上げを上げています。今のは明らかにパワハラに該当します!訴えますよ!」
普段は静かな部長も、さすがに血圧が上昇し叫び返す。
「そういうところだよ、昇進できないのは!!最低限じゃダメなんだよ!!こんな、たかだか50人程度の会社にパソコンのシステムを入れてどうなる?その費用はどこから出すんだよ!」
「社員旅行や新年会、お花見等のイベントの費用を全部削れば可能じゃないですか、だいたいウチの会社は行事が多すぎます!2ヶ月に1回は何かに託けて事務員を飲みに誘いたいだけでしょ?それなら、システムを入れて仕事効率を上げた方がプライベートが充実し、仕事も頑張れます。」
「では、時田くんはこの会社に交流は必要なく飲みに行きたい人は自分たちの金で勝手にやってくれと?」
「極端に言うとそうなります。」
「ふざけるな!!!君の意見は通るわけがないだろう!早く仕事に戻って余計な事は考えるな!!」
そう言うと部長は足早にその場を立ち去った。
バタン
会議室兼物置の扉が周囲に風を撒き散らせながら閉まる。
「ほんとにどいつもこいつも、頭が悪い奴ばっかりだよ」
長机4つで正方形に作られた机に向かって頭を抱える
「なぜもっと効率を考えない、無駄な行事がどんなコミュニケーションになるのか、それでどれだけお金が稼げるのか?潤滑な業務ってなんだよまったく」
俺は、埃の舞った部屋で独りごちる
しばらくすると業務終了のチャイムがなり、隣の部屋では社員たちはいそいそと帰るフリをはじめるのだろう、馬鹿らしい!!どうせ、今から明日の用意を始めて帰るのだから1〜2時間後の帰宅だろう、形だけ働き方改革は順調に進んでいるようだ。
キーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーン
「チャイムってなんでいつもこれなんだろ」
小学校の頃から聞きなれた電子音のチャイムを聞きながら窓の外を見ると外はもう真っ暗になっており、時折吹く風が窓を叩き冷たい空気が漏れてくる。
「さむっ!早く帰ろ」
会議室兼物置の扉を開けると数人が一瞬こちらを見るがそのまま「さー帰ろっかな」とかいつもの働き方改革ごっこが始まる。
自分の机に置いてある鞄を持ち上げて帰ろうとすると、
「時田、もう帰るのか?」
身長は俺と変わらないが白髪が目立ってきて妙に老け込んだ男が声を掛けてくる。
「ええ、課長!!定時を過ぎましたので帰らせて頂きます」
「飯食いに行こうぜ!」
「お供させて頂きます」
と、精一杯の嫌味を撒き散らす。
「相変わらず荒れてんな…」
「同期入社の方がドンドン出世していきますと否が応でも、心は荒んでいきますよ」
「はいはい、行くぞ」
そう言うと、お世辞にも大きいとは言えない自社ビルを出て歩いて10分程で着く駅前の居酒屋で同期会がはじまった。
「また、部長に噛み付いてたみたいだな…」
いい加減に呆れたような顔をしていつものセリフからスタートする
「仕方ないだろ、何度言ってもわかってくれないんだから。」
ビールが苦手な俺は梅酒ソーダを流し込みながら独り言のように小さくつぶやく
「馬鹿、部長は優しいから聞いてくれているだけで専務とかに言ってみろヘタしたらクビだぞ?」
「ムダな事をムダって言って何が悪いんだよ!!」
「はぁ…。だから出世できないんだよまったく。。」
「俺は、田中みたいに媚びを売ってまで課長になりたいとは思わないね」
目線を外し、たこわさびを口に放り込む
「お前なぁ、はぁ…もう33だぞ仕事クビになったどうするつもりだよ、なかなか次は見つからないぞ…それにけっこ「結婚なんてするつもりもないし、クビならクビで出るとこ出てやるよ!俺は悪いことなんてしてない!!」はぁ……。これだもんな、お前も大人になれよ、長いものに巻かれていかないと苦労するぞ」
「ホイホイと結婚もしないし媚びも売らないそれが俺の生き方だ!!」
ため息と沈黙が周りの話し声をより大きく感じさせる
「知ってるよ、お前と話してるとため息しか出ないよ…。」
「田中ってお節介焼きだよな。。」
「どこかの同期さんを心配していますからね」
「いらねぇよかちょーさん」
「お前な!!いい加減に子供みたいな事言ってる場合じゃねぇぞ!!世の中にはどうあっても逆らっちゃいけない状況ってのが来るぞ!その時もお前は無駄だとか俺の生き方だとか言うのか!あ!?」
「当たり前だろ!人生は一度きりなんだからやりたいようにやるよ!最悪、法律さんが僕を助けてくれまちゅから」
「アホくさ、お前みたいな奴は首に刃物でも突きつけないと考え方は変えなさそうだな。。」
「ハッハハ、刃物を出されても押し通すよ」
「ハハッ、長生きできなさそうだな。。」
そう言っていつもと同じようにたわいもない事で
盛り上がり雪がチラつく中、千鳥足で家に帰ったところで記憶が途切れた。
途切れた、とは少し違うのかもしれない。
目の前の景色が大きく歪み真っ暗になると次の瞬間、景色が切り替わった。
酔っ払っているからなのかわからないが今の状況がまったく理解できない。
足元には記号のようなものが書かれ光っていた、その周りには柵のような…。いや、檻だ恐らく俺は檻の中にいる四角い虫かごの様なものに入れられているみたいだ周りを見渡すと外には多くの人影が見える
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ
自分の置かれた状況が朧げながら見えてくると
体の中のアルコールが一気に飛び去ったような錯覚に襲われた、いわゆる酔いが覚めたと言う奴か?
いや、そんな事を考える余裕も無いほど、追い詰められていた。周りを何度も見渡したが状況は変わらない
恐らく、周囲では数秒の事なのだろうが俺には数十分の様に感じられた。どこだ?なんだ?捕まったのか?
なんで?なにをした?なにがあった?
答えのない自問自答を繰り返していると頭の中から
音?イメージ?テレパシーと言う奴なのか?
こちらと意思の疎通をはかろうと言う事なのだろう
流れ込んできた
〝ようこそ、ライラック王国へ簡単にお伝え致します。貴方はこれからこの国を救って頂きたいのです。
理解できますでしょうか?〟
は?意味は理解している、だが処理が追いついていない?
〝伝わっていますか?伝わっていれば右手を上げて頂けますか?上げて頂けないのであれば申し訳ありませんが貴方を殺さなければなりません〟
は?いや、わかってるよわかってるが国を救う?殺す?何を言っているんだ、いや言ってはいないのか…。
〝10、9〟
「えっ!ちょっと待ってくれ」
〝8、7〟
「なにを言ってるんだ」
〝6、5〟
「待ってくれ」
大きな声を出すが声が届かないのか反応がない
〝4〟
檻の周りに異様な空気が流れ始める
その時、やっと右手を上げてくれと言っていた事を思い出す。
〝3〟
周りの人影が騒がしく感じるがどう言った反応なのかまったくわからない状態だ
〝2〟俺は急いで右手を大きく振り上げた。
〝伝わっていたようですねよかった〟
張り詰めた空気が少しだけ緩んだように思えた。
テレパシーがドンドン頭に流れ込んでくる
〝でわ、続きを申し上げます。貴方が危険な生き物である可能性があるので檻の中で召喚させて頂きました〟
ん?召喚だと。。
〝はい、召喚致しました〟
え?今、答えを返してくれたか?
〝コミニュケーションが取れ貴方が安全であると確認ができましたら檻から出させて頂きます。ご質問がありましたらどうぞ!〟
会話は成立するのか?それより、
「いや、いきなり檻に入れておいてご質問もないだろ!?いったいなんなんだよ!!」
〝はい、頭の中で考えて頂ければ伝達は…。すみませんが貴方の話す言語は理解できませんので頭で考えて頂けますか?〟
は?つまり、考えた事はお前に伝わり、話す言葉は伝わらないって事か?
〝はい〟
「なんじゃそりゃ」
で、ライラック王国?召喚?ここは、日本じゃないのですか?
〝はい、ライラック王国です。貴方を召喚しました。日本というのはよくわかりませんが恐らく町の名前でしょうか?日本と言う町は聞いたことがありません〟
えっと、つまり、他の世界に召喚されたと言う事か?えっとアメリカ、イギリス、中国、ロシア、アフリカ、オーストラリアとか言う国の名前は知っていますか?
〝いえ、この世界では聞いた事はありません。オーストーラと言う国はありますが〟
うん、酔い過ぎたか?夢か?死んだか?なんだもう、答えが見つからない。
〝先程から、申し上げておりますが私どもが貴方を召喚致しました〟
えっと、つまり、僕が住んでいた世界と違う世界ってことですか?
〝恐らくは〟
えっとつまり
「異世界召喚って奴ですかぁ〜!!」
こうして俺の新しい人生が今スタートするのでした。