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魔法使いと呼ばれる人は存在するが、その力はばらばらである。
ちょっとした火や水を作り出す人が居れば、広範囲に火を熾したり、大きな竜巻を起こしたりできる人も居るのだ。
力に差はあるが、他には持っていない力であるため、魔法使いの多くは国や貴族が雇い抱え込んでいる。
レッドたちはタカヒロの凄まじい力に慣れてしまっていたが、タカヒロの力はこの国で相当な力だった。
タカヒロ本人にその気があれば、城に勤めるようになることも、貴族の屋敷に出入りするような立場を間違いなく手に入れることができてしまうほどである。
もっとも、面倒ごとを嫌っているタカヒロであるから、堅苦しい礼儀作法や身分差に縛られる城勤めや貴族仕えは選ばないと、二人は考えている。
さて、そんな魔法使いたちを囲ってどうするのか。
戦力として集めているというのはもちろんであるが、貴族たちは魔法使いたちの力を警戒している、と言う面も存在する。
警戒するにはその力を知る必要があり、魔法の解明、研究のために集めているのだ。
どうして魔法が使える人と使えない人が存在するのか。
魔法を使えてもその力の差は何故なのか。
魔法の力を強化することは可能なのか。
魔法の力を国の発展に活用する方法はないか。
このように解明を進めなければならない課題が多くあり、ほとんど魔法について分かっていないのである。
そのため、城や貴族仕えになることで給与が他の職に比べて破格になるとは言え、かなりの激務が待っている。
「で、魔道具があった、と」
ギルマスから伝えられた内容は、国が管理も把握していない魔道具が見つかった、と言うことであった。
魔道具と呼ばれる物はどのような物なのかは、城や貴族が管理して制限しているためなのか、一般に広まっている物は少ない。
魔道具とは知識であり、技術の集まりであるのだ。
だから、技術も知識も確立して一般に広まっていて、なおかつ、国に害を与える力は無い物。
もしくはその魔道具を無効化出来る道具が作られるくらいになっていなければ、出回ることが無い。
それはそうだろう。
強力な武器だったとして、一般に売り出されれば、その武器を買った敵が向かってくるかもしれないのだ。
その武器を防げる物が無ければ、自分を危険にさらすだけになるのだから、国が制限するのは当然である。
ちなみに、過去の『神の玩具』が使っていた魔道具として、『銃』と呼ばれる物があるが、『神の玩具』が亡くなった後、他の誰にも使える者が居ない。
仕組みも解明できていなく、誰も扱えない魔道具と言うことで、厳重な警備付きではあるが、一般に公開されている。
「それで、どんな魔道具なのですか?」
見つかった魔道具が生活の役に立つくらいの物であれば、国が管理していない物であっても警戒しなくても良いのでは? とリベルテは思ってしまう。
暮らしに役立つ物であれば、人々にとっては国が管理していない物であっても、ありがたいだけなのだ。
「状態を保つ魔道具だそうだ」
確定した言葉でないのは、ギルマスであっても魔法についてよく分かっていないものであり、知人の魔法使いから聞いただけであるためである。
「それが、何かあるのか? 言葉だけ聞いたら便利そうだよな?」
「ええ。状態を保つと言うのでしたら、食べ物が腐らないのか、腐りにくくなる、と言うことですよね? 欲しいかも」
その魔道具の効力が言葉通りであるなら、危害を及ぼす力は無さそうであり、レッドは肩の力を抜き、リベルテは使える道具だと興味を示していた。
「まぁ、話だけ聞けばありがたい代物に思えるよな。だがな、そんな物が本当に出回ってるとなると、混乱する所があるんだよ」
ギルザークが面倒な話だと、頭に手を当ててガシガシと動かす。
「商会と……研究所、ですね」
リベルテが答えれば、ギルザークが頷く。
「たしかにな。遠い所から食べ物なんかを鮮度を気にせずに運べることになる。どこの商会もこぞって動きだしちまうな。早く手に入れようと他の手を割いてでも動いているとなれば、今ある品にも影響が出るかもしれない……か。手に入れた商会が出てきたら、一気に価格が大きく変わって国が、俺たち平民が混乱させられるな」
今までは距離がある場所から食物を運ぼうとすると、途中で傷んでしまい売り物にならなくなっていたが、それが傷むことなく王都まで運んで来られることになる。
ウルクの港からシュルバーンやハーバランドまで、海の物を食べられる状態で運べるとなれば、そこに生まれる利は大きいものになるのだ。
その魔道具がどれくらい出回っているのかは知らないが、その数が少なければ、すでに入手している商会だけが利益を得られることになる。
遠方から入ってくる物の方が、人々にとっては物珍しく目を引くことになるし、同じ野菜や肉だとしても、新鮮な方を手に取るのが当然となる。
価格がどのようになるかは商会次第だが、多少値が上がるくらいであれば人々は手に取るし、価格が同じか安くでもなれば、その商会の物しか買わなくなってしまうだろう。
そうしたら、他の商会は張り合うために値を下げるしかできなくなる。
人々にとっては安くて良い物が手に入ることは良いことにしか思えないが、売値が下がると言うことは、仕入れする際の値も下げられると言う事である。
今まで商会が買い取ってくれていた額を減らされると言うことなのだから、畑仕事であったり、森や山で採取してくることを生業にしている人たちにとっては、生活を切り詰めなくてはいけなくなってしまうのだ。
そうなってしまえば、その職から離れようとする人が増えるだけだろう。
この混乱をある程度抑えるには、商会ギルドに制限をかけるのが手っ取り早いのだが、儲けを制限されるなど商売人としては聞けないし、受け入れられる話ではない。
強制できなくはないだろうが、市場の足を引っ張るだけになりかねなく、こちらもまた商会を畳んでしまうことになったりしかねないことになる。
商会から税を取っているのだから、自ら税収を減らすなど、言い出すはずが無いのだ。
となれば、他の方法としては、その魔道具を見つけて国が回収してしまうか、その魔道具を作っている者を国が囲いこんで、管理の下で増産させて一気に広めるという魔道具側に対処する方法しかない。
魔道具を作っている者に作らせなくすると言う手段もあるが、相手が不明であるし、すでに出回っているのだ。
国が作らせなくした、などと噂にでもなってしまえば、城に対する不信を持たせることにしかならない。
本当にやっていないとしても、作っていた者が居なくなってしまったら、否定しきれなくなる。
そしてその不信は、他の国との外交に大きく影響を及ぼすことになりかねない。
「そうすると、この作ってるやつを探せって話しなのか?」
「冒険者に出す依頼とは思えないのですが……」
レッドたちが難しそうな顔をするのも当然である。
国や貴族が囲いたいだろう相手を、何故、一介の冒険者が探すのかと単純な疑問が最初に来る。
最初から国なり貴族なりが、遣いでも走らせればいい話なのだ。
「国としては公に招致の形式を取りたいんだが、相手が誰かわからないからできないんだ。本当に本人なのか確認できていないからな。どんなやつがどれだけ騙ってくるかわからんだろ? それに……どんな裏を持っているかわからんのだ。お偉いさんとしちゃ、警戒しないわけにはいかないってことだ。そして、城に仕えている貴族たちってのは気位が高い……。どんなヤツか分からない人物を探す、なんてやりたがらん。万が一、違うやつなんて連れてきたらとんでもないことになるからな」
困った話だとギルザークは頭を振るが、そんな話を聞かされる側であるレッドたちの方が頭を振りたかった。
「そんな話を聞かされたらもっと受けたくなんて無くなるわっ! こっちが見つけたとしても本人かなんて証明のしようが無い。貴族たちが負いたくない責任を押し付けてるだけじゃないか」
不確かな情報で探して回る苦労に加え、もし違ったらその責を負わされるのであれば、受けたがる冒険者など入るはずがない。
居るとしたら、全てを楽観視しているか何も考えずに生きている者くらいである。
「何名か候補を見つけてくれれば、それでいい。後のことは城に投げる。こっちが責任なんて負えるかってんだ。絞りこむまではやってやるから、そこから選別するくらいは責任もって城に居るやつらがやれって、放り込んでやるさ」
誰でも彼でも受け入れるなど、国の中枢がするわけがないのは当然であるが、まったく人を迎えいれないと言う事は、何時か老い死んでいく人である限り、出来るはずが無い。
必ず、人を見るための部署があるはずなのである。
ならば、その部署が魔道具を作った者を探せばいいのでは? と思ってしまうのだが、そんな労力を自分たちが払いたくない、と言う貴族たち階級意識が見えていて、ため息しかでない。
「はぁ……。じゃあ最後に。なんで俺らなんだ? 普通に依頼に出しても、誰かが受けるかもしれないだろ?」
わざわざギルマスの部屋に連れてきて、他に漏れないように言ってくる理由が分からなかった。
レッドが真剣な目つきでギルマスに問いかけると、ギルザークはレッドたちに身を寄せ、さらに周囲に漏れないように小声で話す。
「これは俺の勘でしかないんだが、その魔道具を作ったのは『神の玩具』じゃないか? 魔法研究所に知り合いの魔法使いがいるんだが、そこに居る奴らの誰も作れなさそうだって話なんだ。まぁ、もっと解析すると出来るかもしれないとも言っていたがな。だが、国が抱え込んでる魔法使いたちでも作れなさそうなもんを作り出せるだなんて、それだけの差があるって考えたら可能性が高いだろ? だから、他より接点を持ってるおまえ達に頼みたいんだ」
レッドは椅子に深くもたれかかって、盛大にため息をこぼした。
『神の玩具』は過ぎた力を持っている。
だから、この国で、王都で暴れだしたりしないでくれと警戒していただけであり、話をすることが出来たマイやタカヒロだったから、近くで見てこられたに過ぎない。
話が通じないような相手であったなら、レッドもリベルテもどうなっていたかわからないし、マイたちと出会ったのも、依頼でたまたま向かった先で会っただけなのだ。
「俺らはそんな専門じゃないし、本当にそんな相手だったとしても手に負えるってわけじゃないんだがなぁ……」
「少なくとも何も知らないやつらより、問題を起こさずに済むだろ? 俺はそこを期待している」
リベルテと顔を見合わせるが、答えは一つしかない。
マイやタカヒロたちはレッドたち王都で暮らしている人たちと近い考えを持っていたが、他の者たちがそうであるとは限らない。
すでに、それらしい者たちによって事件があったのだ。
……だからこそ、レッドたちは何もしないで不安を抱えるより、自分たちが動いている方が気持ち的にマシであると考えてしまう。
「わかった……。指名の依頼として受けますよ。ただ、報酬は上げてくれ。そもそも当てもなく探す時点で相当な依頼だろ?」
レッドがお手上げだと肩を竦め、それぐらいはと報酬の値上げを要求する。
「それはまぁ……、そうだろうな。挙げてくれた数とその確度で色つけてやる」
そのまま手続きをしてギルドを出た頃には、陽が沈み始めていた。
「変な話で時間使っちまったな……」
「ですが、何も知らないままだったより、良い話でしたよ?」
肩を落として歩くレッドに、リベルテが微笑みながら横を歩く。
「明日から忙しくなるな」
「冒険者ですからね。蓄えを多く持ってでもない限り忙しい生活になりますよ」
「それはまぁ……、そうだな」
久方ぶりの二人だけでの仕事に、レッドはリベルテに笑いかける。
少し二人の顔が赤かったのは沈みかけている陽のせいかもしれない。
「まずは手に入れたやつを探して、どこで手に入れたか聞ければいいんだが……。まともなヤツならいいな」
「あのお二人のような方なら良いですね。楽しそうです」
「ハーバランドのアイツみたいなヤツだったら最悪だな。どうなるかわからん」
「そうなったらもう国の出番でしょう。個人で対するのは犠牲を出すだけです。怪我人が少なく終われば良い話になりますね……」
相手の話を聞かず、思い込みで判断するような相手であったらどうすることも出来ない。
話では止められないし、話をすることで余計に激するかもしれないのだ。
過去に居たとされる『神の玩具』には、その力で暴れまわった者が居る。
それと同じことが起きてしまうかもしれないと考え出してしまい、どんどんと気が重くなってくる二人。
明るくしようと話しはじめたのだが、『神の玩具』など簡単に流せる話ではないのだ。
「なんで現れるのかねぇ……」
マイやタカヒロのような者達に会えたのは良かったと思うが、マイたちが稀だったのだろうとも思える。
あの二人を知っているから、『神の玩具』に会ってみたい気もするし、他の者達を知っているから居て欲しくないとも思う。
二つの反する思いから漏れたレッドの言葉は、ずっと側に居るリベルテにしか分からない言葉だった。
ここまでお目通しいただき、ありがとうございます。




