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王国冒険者の生活  作者: 雪月透
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「あったあった! これが金銀花だよ。ほら! ちゃんと白い部分と黄色い部分で分かれてるの」

マイが目当ての花を見つけて自慢げに特徴を説明する。

タカヒロは少し反応が鈍く、上の空な感じで相槌を返す。

タカヒロとマイは、二人で採取の依頼を受けているのだ。

リベルテに依頼を受けると言ったところ、金銀花などの採取が時期的に良いことを教えてくれたためである。

しかも、ご丁寧に王都から見て南側の方角で見かけられたという情報も一緒に。

そのレッドたちはというと、そういう気分じゃないから、と王都に残っている。


王都も決して明るい雰囲気ではない。

対帝国にあたり、出陣していた兵たちが戻ってきたのだ。

装備も様相もボロボロで、出陣していった数を半分ほどに減らして……。

異形のモンスターの乱入に、オルグラント王国、グーリンデ、帝国は多くの犠牲者を出すことになったのである。

異形ではあるがただのモンスターだと交戦した部隊があったそうだが、これまでのモンスターと何もかもが違いすぎていた。

直前まで帝国と戦って疲労していたこともあって、異形のモンスターを倒すよりも倒される方が多い結果となってしまったそうである。

これに対して帝国は、予想外の被害に早々と一部の兵を殿に残して撤退したそうである。

グーリンデとオルグラントは、帝国が退いたことを確認して、兵に犠牲を出しながらそれぞれの城や砦に撤退した。

この時、残った帝国の殿部隊が皮肉にもグーリンデ、オルトランドの兵の犠牲を少なくする一助となったそうである。

その殿部隊は最後まで戦い抜いて全滅したという話である。


一応、帝国が退いたということで歓声をもって迎えられてもいいのだが、失った命の多さと怖ろしいモンスターへの恐怖が勝り、国全体が沈んでいるのである。

だが、悪い話ばかりではない。

帝国は失った兵を整えるために数年は大人しくなるはずであり、その間は帝国との戦いは無いと考えられている。

また、グーリンデも失った兵を整えるのはもちろん、突如表れたモンスターへの対応を重く見て、オルトランドと正式に同盟を結ぶ話が上がっているそうだ。

同じ戦線で同様に犠牲を出し、備えるべき共通の相手が現れたことが歩み寄る起因となったのである。

これからしばらくした後、徐々にグーリンデとの交易を始める商会が動き出す流れが出来ているらしい。


モンスターを使役できる者が居て、帝国、グーリンデ、オルトランドに被害を出させたのだから、アクネシアは周辺国家全てに宣戦布告したに等しい。

帝国もグーリンデより警戒してアクネシア側に兵を動かしているらしいし、グーリンデもアクネシアに対しても備えを厚くしているそうである。

オルグラント王国はグーリンデとの国交がひらかれることになったため、アクネシア側への備えを厚くするよう動き出している。

オルグラントも、モレクの町から北のアクネシア側に、新たに砦を建設し始めたのだ。

報復としてこの三カ国がアクネシアにすぐさま攻め込まないのは、例のモンスターがどれほどのものかわからなく、まずは守りを固めようとしたためである。

逆に、アクネシアがその使役するモンスターを使って攻め込んでこないのが不穏さを感じさせ、三カ国をより警戒させることとなっていた。


兵と違い、モンスターであるため、維持するのにかかる費用や物が多く、厳しいのではないかという考えが大多数を占めている。

だが、一部からは、あのモンスターの行動はアクネシアにとっても予定外であり、アクネシア内で意見が統一されていないからではないか、という話も聞こえてきている。

いずれにせよ、これまでアクネシアと国交を開いていた所は、どこにも無くなったということだけは確かである。


マイが手馴れた手つきで金銀花のつぼみ部分を摘んでいく。

ちらっとタカヒロを見ると、プチプチとつぼみ部分を摘んでいた。

「タカヒロ君! ダメだよ、全部摘んじゃ! 次から採れなくなっちゃうから、大き目のものだけ採るようにしてよね?」

人差し指を立てて注意するマイに気の抜けた返事をするタカヒロ。

そのまま、また手を動かそうとするが、何か考えることがあってか動きを止めた。

「どうかした? タカヒロ君。あれ? 気分悪くしたかな? そんなに強く言ったわけじゃないんだよ?」

マイはタカヒロがぱたりと動きを止めたことに不安になり、タカヒロの顔を下からのぞき込む。

タカヒロはそんなマイの顔をじっと見返していた。


「このままでいいと思う?」

何に対しての言葉かわからなかった。

ただ、タカヒロの顔と声はとても真剣で、適当に返事をしたらダメだということだけはわかった。

「僕たちは力を持ってる。今の生活は楽じゃないし、大変だけど……嫌じゃないんだ。でも……、このままでいいのかな? 何か大変なことが起きてるのはわかるよね? 僕たちの力は、それをなんとかするためにあるんじゃないのか?」

タカヒロは自分の手に目を落として、じっと見ていた。


「確かに……、他の人よりすごい力を持ってるなっていうのはわかってるけど……。だからって何かをしなきゃいけないの? それじゃあ、私たちは、私は自分の生き方できないじゃない」

「力があるっていうのは、そういうことなんじゃないか? お金を持ってる人は、お金を使わなきゃ意味が無いんだよ。貯めこんで使わなきゃ、貯めてる人も他の人も幸せになんてならない」

「お金とは違うよ!? 辛いことも悲しいこともあるだろうけど、今のように皆で暮らしていけばいいじゃない。私たちは偉くもなんともないんだよ? 何か大きなことをしなきゃいけないだなんて、そんな決まりはどこにも無いでしょう? ……それに、力を使ってどうするの? また、ここに居られなくなるだけじゃないの?」

過ぎた力を持つから、狙われ、逃げて、ここまできた二人。

マイとタカヒロも最初から二人で居たわけじゃなく、逃げてたどり着いた先で偶然出会えただけだ。

ここで力を大きく使えば、また誰かから追われることになる。

次は逃げられるのか。どこに逃げられるのか。逃げた先はどうなのか。

やっと、この世界での普通の生活を過ごせるようになってきているのに、それを捨てるのは恐怖でしかない。


「僕たちだけじゃない。『神の玩具』って言われるような人は他にも居るんだ。モンスターを呼び出したって人は間違いないと思う。僕らが集まれば、逃げなくてもよくなるはずだよ」

どんなに強い者でも、数に勝つのは難しい。

戦い続けて何時かはその数に飲まれ、押しつぶされてしまう。

それは人である限り当然なこと。

しかし、その強い者が多く集まれば、押しつぶそうとする側はそれよりずっと多くの数を集めなければならなくなる。

それは手が出せなくなるということに繋がっていく。


「ねぇ? なんでこんなこと、急に言い出すの?」

大本の疑問。

これまで面倒くさがって自分から何かしたがることなんて少ない性格なのに、急に積極的に動き出そうと言いだしてきたのだ、疑問を覚えるのが普通だろう。

タカヒロは空を見上げてから、マイを真正面から見つめる。

「僕らはこの世界の人じゃない。帰りたいと思ったりしたことは無い?」

口にしないようにしてきた言葉。

この世界に来た『神の玩具』の多くが、中にはその力で好きに生きようとする人も居るだろうが、考えるだろうこと。

だからこそ、マイの目に怒りが篭っていく。

「帰りたいよっ! なんでいるのか分からないところで……。お母さんにも! お父さんにも! 友達にだって会いたいよ! でも、どうしていいか……わからないじゃない。何も、何も分からないのに」


この世界は王政で、貴族がいて、戦争をしていて、モンスターがいる。

自由にあちこち行くことはできなくて、何かを調べるにも本を買うお金は無いし、何か希望が持てるかもしれない本なんて、手軽に手に入れられるわけがない。

そんなものがあれば、厳重に管理されているはずだ。

この世界について何も分からないのに、ただ何かしらの特別な力を持っているからと、何でもできるわけがない。

いつかレッドたちが言っていた様に、過ぎた力は異端であり、周りから排除されていくだけである。排除しようとしなかったとすれば、その人たちにとって利となるようにタカヒロたちを使おうとするだけだ。

使われるタカヒロたちのことを、考えてくれるものではない。

だから、逃げて、ここ王都で生きていけるように必死だったのだ。


「うん、……そうだね。お城にだなんて僕らじゃ入れない。入れる人は限られてるし、簡単に入れるんだったら、王様とか居ない国とか出来てるだろうからね。それに……僕はもう帰れない人だから」

「え?」

あっさりと聞き捨てならな言葉をこぼすタカヒロに、マイはぽかんと口を開ける。

「気づいて……、いや、思い出そうとしてないのな? 僕らは向こうで死んでるはずだよ。僕は事故。対向車線から突っ込んできた車とぶつかってね。向こうの余所見かなぁ。さすがに生きたまま違う世界にだなんて、魔法があるなんて言っても無理でしょ? どれだけ距離あるのか、時間がずれてるのか知らないけどさ。物語じゃあ、元の世界にそんなに変わらない時間に帰れたりしてるけど、どれだけこっちの世界に居た時間を無かったことにしてるんだろうって、不思議でしょうがないんだよねぇ」

少し楽しそうに淡々と話し始めるタカヒロ。

今まで知らない男性に見えて怖くなってくるが、それは相手を知ろうとしてこなかったということでもある。


「向こうで死んだりして違う世界にきたのに、向こうの世界にこっちの力を持ったまま戻ってみたりとか。面白いけど、ありえないよね。ありえないから楽しいんだけどさ」

「ねぇ……。本当にどうしちゃったの? 私たちのような人が集まってって……、それって戦争をしたいってことを言ってるの? だったら、私はそんなの嫌だよ」

力があるから逃げることになったけど、だからといってその力で暴れて良いなんて理屈はどこにもない。

そもそも暴れる気があったのなら、最初からそうしている。


「……僕らが持ってる、いや、持たされてる力って、所詮借り物なんだよ。だから、いつ、どういう状況になるかはわからないけど、この力はきっと無くなる。いつか、安心できるような、頼れるものは無くなるんだ。なら、無くなる前にっていうのは、あってもいいんじゃないかな?」

マイは出てきそうになる言葉を、喉に力を入れて飲み込む。

飲み込んだ言葉は、疑問でも否定でも叫びでもありそうだった。

こんな力があるからと思ったことは多い。

だけど、力があったからと思えることも多かった。

それが無くなってしまった時、自分に何が残るのか。

このまま暮らしていけるのか。

足元が急に不安定であやふやな状態なんだと気づかされる。

この世界で生きていこうとしながらも、この世界に過ぎる力に頼って生きていることに。


それでも、ふと思い出す。

メレーナ村のこと、フィリスのこと、レッドのこと、リベルテのこと、王都に暮らす人たちのこと。

力は使ったけど、自分自身で関わってきた人のこと。

力が無くなったとしても、自分で無くなるわけじゃないこと。

それが自分だということを。


「……まだちゃんとわかってないことが多いけど。それでも私は……、それなら私は、私として、皆で、レッドさんやリベルテさんと、タカヒロ君と生きていきたいよ……」

目尻に浮いてくる涙に視界が滲む。

その視界に、いつもと違う知らない男性が、いつもの知っている、どうしようもないなって呆れたような目だけど、優しい目で見てくれていたタカヒロに見えてきた。


ゆっくりと歩いてきた男性は、軽くマイの頭を叩き、近くの木に向かっていく。

「後はレンギョウだっけ? 黄色い小さな花が多いヤツだったよね? 実って……これ?」

さっきまでの雰囲気と変わり、いつものマイが知っているタカヒロ。

その変わり身に、さっきまでの話が嘘なのか本当なのかわからなくなる。

だからマイはタカヒロに近寄り……、

「あいたっ」

その背中を力を入れて叩いた。


「ちゃんと次の年にも続くように、全部採ったらダメだからね」

「はいはい……」

差し込んでくる陽射しはまだまだ明るく、林の中とは言え、陽射しはその強さを増してきていた。

ここまでお目通しいただき、ありがとございます。

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