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王国冒険者の生活  作者: 雪月透
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新年祭も恙無く終わり、新しい年のいつもどおりの生活が始まる。

だが、例年よりも寒い日が続くこの冬に、肥沃な土地が多い王国では冷害による作物の不作が実しやかに話をされるようになってきている。

だがそれとともに、新しい作物の研究をしているファルケン伯爵領では冬の寒さに強い品種が作られそうだとの話と比較的寒さに強いパタタの栽培に切り替えていた農家が多く出たおかげで、最悪食べるものが無いという事態は避けられそうであることは朗報と言えそうであった。


「いつまで続くんだろうな、この冷え込み。冬は寒いもんだからおかしいわけじゃないんだが……」

レッドが今日も寒さを凌ぐように、白湯を入れたコップで手を温めながら窓を見て呟く。

「過去にもこれくらい寒さが続いた年と言うのはあったようですよ。その教訓が生かされてパタタの栽培に切り替えていた農家さんが多かったのだと思います」

「それはいい話なんだが、しばらくはパタタばかりになりそうだなぁ」

「何も無いよりマシですよ」

レッドがリベルテと最悪な事態ではないことだけを喜び合う。


「ん~、その寒い中、リベルテさんが起きてきているのが不思議と思ってしまうのは、慣れちゃったからだろうか?」

そう、寒い日はベッドから出てこないか、暖炉の前でうずくまっていることが多いリベルテであったが、冬用の服をきっちりと着込んでレッドたちとリビングで談笑しているのである。

もちろん、新年祭で着ていた冬用の服はまた丁寧に仕舞い込まれているらしく、今着ている服は生地が厚手であるものを何枚か重ねてきているものである。


「早めに仕事しておいてゆっくり家にいるためじゃない?」

久しぶりに朝早くから皆揃っているリビング。

マイは朝からいい事がありそうだと考えていた。

そんなちょっとずれている二人に気づいていたレッド。

「さすがにリベルテも今日ばかりはジッとしてられなかっただけだ。今日はグーリンデからの使者が来るらしいからな」

「私たちが何かすることなんて無いんでしょうけど、ね……。やはり敵国ですから」

長く争い続けてきており、和平交渉の芽は事あるごとにグーリンデ王国のゴーマ将軍によって潰されてきたグーリンデからの使者が来るのである。

王都の人々はこれでグーリンデと争わずに済む、などと楽観してはいない。

長らく戦ってきている相手だからこそ、なにかあるのではないかと警戒しており、王都は普段よりひっそりとしていた。


「え? それじゃあ、今日は一日家にいた方がいいんですか?」

相手の国から偉い人だったりが来るのではと、街のひっそり加減と相まってそんな考えに至るマイにつっこみを入れるのはもちろんタカヒロ。

「そんなわけないじゃない……。その人たちは城に行くんだから、こっちは関係ないよ」

「だな。俺たちは自分たちの生活をするために仕事するだけだ」


ひっそりとしていたのは道どおりだけで、建物の中では今日のグーリンデの使者のことが一番に話に上がり、ワイワイとした喧騒が響き渡っている。

「うわ、ギルドの中、盛り上がってるね」

外の静けさとの差に、マイは思わず耳を塞いでしまう。

「外まで聞こえてたから分かってたでしょうに……」

「まぁ、話に出さないわけはないわな」

依頼板から仕事を取っていく人もいるのだが、仕事を選んでいる人よりもリーダーを待っている人や仕事をする気は無いが話をしたい人たちが自身の意見を言い合っていて、ギルドの中が混みあっていた。


「じゃあ、なんか選んでくるが……別々に動くか?」

レッドがさすがの混み具合を見て、タカヒロたちにどうするか聞く。

レッドが取ってきた依頼をこなす場合、レッドが選んでくるまでこの人混みの中、待ち続けなくてはいけない。

なにやら自分の考えを話したくてしょうがない人たちが、ちらちらとマイたちを見ている雰囲気もあった。

「いえ、何かさっさと選んで稼いで帰るのがいいんじゃないでしょうかね?」

そういう面倒くさそうな雰囲気に敏感なタカヒロがマイに下手でお願いする。

「ん~、一緒の方が楽なんだけどなぁ。あ、そうだ! 私とリベルテさんは給仕とかの仕事探してきますよ。今日も寒いですしね」

ね、の辺りでリベルテの方を向いて同意を促す。

「ええ、構いませんよ、マイさん。私としてもその方が助かりますし。あ、それじゃあマイさんが選んできてください。私が待ってますので」

女性陣はこういうことを決めるのは早い。

リベルテの指示に、マイはは~いと返事をしながら依頼板の方に向かって行ってしまった。

給仕の仕事を選ぶ気は無かったが、一緒に行動するものと考えていた相手がサクッと別の人と動いてしまったことに取り残されるタカヒロ。


「あ~、タカヒロ? 俺と仕事するか? 依頼は選んできていいぞ。お前ならそんな変なもんは選びそうにないしな」

「あ~、はい。……行ってきます」

一人で仕事するよりはと考えたタカヒロは、レッドの微妙な信頼を背に依頼板へと向かっていく。

残ったレッドとリベルテの元に話したい連中がすりよってくる前に、ギルマスが声をかけてくる。

「よう。新年早々賑やかなことになったもんだ」

「賑やかなことは悪いことじゃないですけどね」

さすがにギルマス相手に自身の考えを披露、自慢したいという者はいなかったらしく、そのまま周囲と話始めていた。

「だれの考えが正しいとか合ってるとか。話をする分には構わんのだが、相手に押し付けたり、自慢したりしてもしょうがないだろうにな」

ギルマスが目を細めて周囲で掴みかからんばかりに話をしている連中を見やる。

「皆さん暇なんですよ。皆さんで話が出来る話題なんてあまりありませんし、あった時は大事だったりしますから」

「十分、大事な話なんだがな」

ギルザークの言葉に苦笑するしかないレッドたち。


日々のその日暮らしが多い冒険者では、娯楽が少ないのである。

いや、この王都、王国で暮らす人々も自身の仕事にその日一日を費やしているのだから、時間を余すようなことは少なく、娯楽が発展しないということがある。

はるか昔に娯楽を広めようとした人がそれなりに居た様であったが、先に言ったような生活をしている人たちにはそんな時間は仕事を休んだときくらいしかなかった。

仕事に影響出すほどのめり込んだ人もいないではないが、そういう人は職を失ったりしていて、逆に娯楽にはまりすぎたらどうなってしまうかのオチや例にされてきている。

そんな中で何も使わず、いろいろと言いたいことを言いあえる話題というのは、格好の娯楽である。

そんな甘い話にならないとか、歴史を見てもうんぬん、しかし帝国がかんぬんと話せるのは楽しいのである。

それも相手を唸らせることを言えたときは、勝利の気分を味わえる。

もっともそんな勝敗は実際には存在しないのだが。


「アクネシアも動いているらしいのは知ってるか?」

ギルザークが少し声を落としてレッドたちに質問する。

それに対してリベルテが小さく頷き返す。

「そうか……。まぁあんたがいるなら知ってるか。今日の相手よりもあっちの方がおれは胡散臭い」


グーリンデ王国はその立地が関係しているのだが、兵が多い国である。

北は帝国、南はオルグラント王国に挟まれているのだ。

北東にナダ王国があって帝国と戦い続けていたため、グーリンデ王国とは小競り合い程度であった。

しかしいつかは本格的に攻めてくることは明白であった。

その帝国と来る時のためという考えのもと、肥沃な土地を持つオルグラント王国と戦い続けてきたのがグーリンデ王国である。

オルグラント王国は何度も正面からぶつかり合ってきたグーリンデ王国であるので、姑息な手を使わない、と信頼されていた。


だが、アクネシア王国は違う。

こちらも北西は聖国、南にオルグラント王国と挟まれている立地であるが、こちらは外政を主流に国を守っている。

といってもただの外交ではなく、相手の国に謀略を仕掛け、常に安心して兵を向けられないようにしてくるものである。

聖国内にはアクネシアに通ずる者が国の中枢にいるらしく、オルグラント王国にもちょこちょこと暗躍する者が入り込んでいる。

オルグラント王国も大きな事態に発展させることが出来るほどには入り込ませないよう警戒しているのだが、村を壊滅させられたり、国が主導する政策の一環にケチが付くように動かれてしまっている。

大きな事態にはなっていないが、対応に時間と人手と金を費やされているのだ。

そんな相手であれば、このグーリンデ王国と比べれば信用などできるはずもない話である。


「どうもグーリンデ、オルグラントの同盟にアクネシアも加わる話だそうです。アクネシアも帝国に領地が近いところではありますし、グーリンデとオルグラントが普通に手を結んでしまうと、危ないのはアクネシアですからね」

そう、グーリンデとアクネシアも隣同士であり、ここも長らく争っている関係でもあるのだ。

だが今回、グーリンデが帝国と対するにあたり、後背に位置するオルグラントと手を結ぶ話は、アクネシアにとって元々周囲全てが敵であるからこそ、黙ってみていられる話ではない。

帝国に対するための話であれば、アクネシアもそこに加われる余地があると考え、動いていると推測されている。


「だが、あそこはそんな簡単なことで済ますような国じゃないだろ。帝国相手に勝ちを拾える手を持ってるか、グーリンデとこちらにぶつけてその隙に動くつもりか、最低なのは帝国に付くかだな」

レッドがアクネシアという国であればしそうなことを上げる。

「最後のは無理では? 帝国は自身の国による統一を掲げて動いてますから。帝国についてもいずれ潰されますよ」

帝国は『国が複数あるからこそ対立し、争いが耐えない。優れた指導者の下に一つに治められるべきだ』という言葉を掲げ、軍事行動を取り続けている。

その最初が帝国のすぐ近くで対立し続けてきたナダ王国を滅ぼすことだったのだ。


レッドたちが難しい顔をして話しているところに、マイとタカヒロが戻ってくる。

「リベルテさん、遅くなってすみません。受付も混んでて」

「関係ない人とか済んだ人はどいてもらうように整理してくれないと、あれは邪魔くさい」

近くでギルマスが聞いているのにも気づかずに、マイとタカヒロは疲れた仕草で時間がかかったことを説明する。

「……そいつはすまなかった。今度からは職員たちに人の整理をするよう言っておくぜ」

ギルザークの声を聞いてやっとギルマスがいたことに気づいた二人は身を固くする。

「それじゃあ、仕事行ってきますね」

マイのことを案じたリベルテはマイの手を引いてギルドを出て行く。

仕事は給仕と決めていたので、場所と内容の確認を道すがらするだけでよかった。


「あ~、タカヒロ。選んできた依頼はなんだ?」

「……荷物の配送です。薪値上がりしてるので、狙われたりしないように警戒が必要らしくて」

「護衛を選ばなかったのはいい判断だな。あれは面倒くさい」


配送の依頼の中には、護衛の内容もあったりする。

この護衛というのはとても気を遣い、とても気を張る仕事である。

護衛対象を気遣いながら、文句は言えず、何時襲われるかを警戒し続けなくてはいけないし、いざ襲われたら護衛するものを守らなくてはいけないのだ。

これが荷物であれば不平不満は言わないが、人であれば不平不満が出てくるものだ。

チームの人数が多く一人当たりの対応時間を分担できるとか、この手の仕事に慣れている者達でなければ面倒以外に言いようがない。


「そんなの面倒くさそうなのが分かりきってますからね」

ちょっと得意げに言うタカヒロ。

「それじゃ、ギルマス。済みませんがこれで」

「おう、しっかりこなしてこいよ」


冒険者は国の政治に関わることはない。

大きく動き始めた世界を感じながらも、日々の生活を送ることに変わりはない。

レッドたちは今日も王都内での仕事をこなしていくだけである。


「あ、意外と薪が重い……」

「楽なら依頼してこねぇよ」

くだらないことを言い合いながら、レッドたちは冷える王都を歩き出した。

ここまでお目通しいただき、ありがとうございます。

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