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王国冒険者の生活  作者: 雪月透
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「わぁ~。大きいですねぇ」

これまでに通ってきたメレーナ村やモレクの町に比べれば大きく、頑丈そうな壁に圧倒されていた。

「そりゃ伯爵領だからな。悪いが村や町に比べたら力が違う。それに見ろ。荷物検査と人物照会をやってるだろ? だからちょっとした列ができる。もう少しかかりそうだな、これは」

レッドたち一行はハーバランドに夕方近くになって到着できた。

陽が暮れてきてはいるが、レッドたちと同じようにこの時間から入ろうとする人たちがいて門のところで列を作っている。


「これ、今日中に入れるのかな?」

「さすがに大丈夫だと思いますよ。これより遅くに並んでたら、ここらで一泊するしかなかったと思いますけどね」

タカヒロのまだ入れないのかという不満を含めた疑問に、リベルテが危なかったかもしれないが入れるはずだと気楽に答えてくれる。

「確認ってどうやってるんですかね?」

暇なのだろうマイも加わってくる。


「人物照会は、俺らの場合はこの冒険者の証だな。荷物については、依頼票と荷物のリストを提示するんだ。まぁ、荷物検査の方が時間かかるだろうなぁ」

「偽造とかされないんですか?」

「無いとは言えないから確認してるんだろ。まぁ、この冒険者の証はそれなりに更新するし。国とギルドの印章を毎回押してるものだし、自分の名前も刻んである。なりすましは難しいんじゃないか? 名前を偽ってもギルドで人物記録見たらわかるしな」

「え? 記録つけられてるんですか!?」

よくある偽造や成りすましの可能性について軽く質問しただけだったのだが、知らぬ間に自分たちの記録がつけられていることに驚いていた。


「そりゃあ、どんな依頼を受けてきたとか、どんな人物かは残さないと評価できないだろ。年数だけ見たらすごく見えるかもしれないが、ずっと給仕とか王都内だけの配送やってるやつだったら、有事の際に強制召集かけても役に立たんだろ。そうしないためにも記録は取られてるし、こういった照会するときに使われるんだ」

ギルドと契約の下、記録の写しが国や領主の下に貸し出されている。

それにより冒険者の身元確認に使われているが、確認作業はとても時間がかかるものだった。

ましてや、冒険者でこのようなのだから商会の者も同じように確認になるし、他の職もあれば膨大な数になる。

そのため、警備担当になる者は激務になるので、給与は高いが人気は低い。

さらには文字の読み書きができるという最低条件に、兵としての訓練をある程度こなす必要があるため、年中募集をしているのになかなか集まらないというほどである。

人が増えればそれだけ一人当たりの仕事量が緩和されるため、警備担当からの勧誘は熱い。


「顔写真とかあれば確認早そうなんだけどね~」

「なんだそれ?」

また何気に漏らしてしまったタカヒロの言葉に、また向こうの言葉と理解しながら確認してみる。

「ん~と、精巧な絵っていうのがたいていの場合の説明だったかな? レッドさんの顔を精巧に映した絵を簡単に作ったりできるのが写真で、それがあれば見比べれば本人かわかるかなと」

「ふ~ん。ちょいと怪我したとか年取ったら面倒そうだな。それも結構更新していかないとダメっぽいな」

「それはありますかね。これ物ができたら売れるかな?」

「何かを残したいという気持ちは誰しもありますから、欲しがる人がいるかもしれません。でも、出来るのですか?」

自分から話題に出したものの、タカヒロは写真の作り方なんてまったく知らなかった。

すでにあるものを使ってきただけであり、一から物を作る必要などなかったからである。

なので、その目はあさっての方を向く。


「おい。自分で言ったんだろうが」

「いや、調べればすぐわかるから、作り方を記憶しておくことなんてないんですよ。それにたぶん……必要な材料とか……違ったりしそうですし」

言い訳であることは確かであるが、そもそもどんなものかをよく知らないレッドたちからすれば深掘りするほど興味はない。

そもそもに『神の玩具』が何かする場合、それが起こす影響が大きい。

作れるとなった時は、どうやって作らせない方向に収めるかを考えていただけに助かってもいた。


「もうすぐですね。あ~、やっと宿で寝れる!」

前の組の検査が始まり、もうすぐだと喜ぶマイ。

その目はまだ見ていない宿屋のベッドを見ていた。

「ん? なんだあれ?」

レッドが目を向けた先には1人の男性の周りに4人の女性が居て、その男性にくっついたり、話しかけたりしているようだった。

「ハーレム?」

タカヒロがボソッとつぶやく。

マイが目つき厳しくタカヒロを見るが、彼はまったくうらやましそうにはしていなかった。

「女性の冒険者って少ないって、レッドさん言ってませんでした?」

なので、そのままの目つきでレッドを見る。

「少ないが居ないとは言ってないぞ。女性だけで組んでるチームだってあるしな。ああいうのも無いわけじゃない。あれの逆だって無いわけじゃないしな」

そんな目を向けられてもレッドも気にしていなかった。


「レッド。彼らの後方ですが、あれは……?」

そんなやりとりに耳は傾けつつも、その一団を注視していたリベルテが不審なものを見つけたような声をあげる。

「あれは……グリズリーか!?」

過去に、街を襲ったブルートルグリズリーは国の兵士に多くの犠牲者、怪我人を出したモンスターである。

その時に救援に飛び込んだ王都のギルマス、ギルザークが居なければ、冒険者含めてもっと犠牲がでていたとされている。

レッドの言葉に門衛を含め、検査をしていた警備担当も入場待ちの人たちも騒然となる。

だが、警備担当の一人が先のハーレムの一団を目にし、周囲に落ち着くよう呼びかけ始める。

「大丈夫だ! 落ちついてくれ。あそこにいるのは剣神だ。すぐに討伐してくれる。だから大丈夫だ」

それを聞いたレッドたちは一斉にあの一団に目を向ける。


女性たちも慌てている様子はなく、あの男性が剣を抜く。

「仕事じゃないのに働きたくないんだけどなぁ」

「ユーセー様なら余裕です!」

「ユーセー様の格好いいところみたいな~」

「あ~ん。ユーセーさまぁ怖いですぅ」

「ユーセー様が居なかったら大変なことになったでしょうから、その分をもらいましょうよ」

あまりやる気ではない男性、ユーセーという名前のようだが、に対して女性達が応援らしきものをしている。

「あれが凄腕……なのか? やたら舐めてるやつなんだが。一応こっちも準備しておこう。万が一の場合は、皆が門に逃げ込む時間稼ぎをするぞ」

レッドが皆に指示を出し、リベルテが短剣を構え、マイとタカヒロもおっかなびっくり剣を構える。


グリズリーが巨体に似合わない速度でユーセーに駆け寄り、鋭い爪の腕を勢いよく振りぬく。

タカヒロとマイは巨体に合わない俊敏さで迫ったグリズリーの動きに、驚愕で足が震えていた。

レッドとリベルテはまずいと駆け出そうとするが、男性はその爪を剣で防ぎ、受け流す。

そしてその剣を鮮やかに振るい、グリズリーの首を跳ね飛ばす。

4人の女性達は歓声を上げて、男性にしがみ付き始め、男性はとても満足そうに、そして当然であるようにしていた。


「あいつ、どう思う?」

レッドは訝しげに男性を、剣を見ていた。

モンスターの首を跳ね飛ばすというのは出来なくはないが、かなり難しい。

まず動きを止めなくてはいけないし、よく斬れる剣であっても綺麗に剣を当てなければ、骨にぶつかって引っかかる。

そしてなにより、力が要る。

だが、先ほどのは片手で軽く振っているように見えた。


「剣……がすごい物、というわけではなさそうです。手にとって見ないとわかりませんが、王都で普通に買えそうなものに見えますね。それに先ほどの動き。あの人には見えていなかったように思えました」

少し離れた所からあっという間に近寄ってきたグリズリーに、レッドと言えどもおそらく剣で受けることが出来てそのまま吹っ飛ばされたら上出来だと思うほどであった。

おそらく、剣で受けることすらできないか、受けても剣ごと叩き伏せられていた可能性の方が高いだろう。


そう思えるほどの相手に、あの男性はそもそも反応できていなかったように見えたのだ。

だから、レッドたちは駆け出そうとしていた。

しかし実際には、剣でしっかりと爪を防ぎつつ、その威力を流して地面に爪をめり込ませていた。

剣の打ち合いなら受け流すこともやれるが、モンスターの攻撃を受け流すと言うのはレッドでもできない。

かわすか剣で受けるのが手一杯になる。

もっともグリズリーのように爪を振りかざしてくるようなモンスターを相手取ったことがほとんどない、というのも間違いなくあるだろう。


レッドたちが固まっている中、彼らの一団が門に近づいて門衛に一言いって中に入っていく。

門衛が礼儀正しく挨拶しているのに対して、あの一団が横柄であったのが力関係をわかりやすく見せ付けていた。

「なにあれ。感じ悪い。それに並んでた私達を無視して先に入っていくし」

マイは不満をあらわにし、タカヒロも目を細めて相手を見ていた。

「あれが、凄腕の冒険者、なんでしょうね」

「あの感じだと問題になってそうだな……。あれは良くないだろうよ。確認してみないとなんともだが、思ったよりこの街は良くないのかもしれん。領主様はどうすんだろうな……」


強い者がいるというのは、先のモンスターなどが現れた場合に心強い。

だが、力を持ちすぎている者、そしてその力を振りかざすような者は望まれない。

特に権力を持っている者にすれば、自分を脅かす存在として目を付けるものである。

先ほどの男は人柄的にも尊敬できる感じではなかったために、より強く危うさを感じさせる。

自分の好き勝手に生きている。

それは悪いことではなく、だれもがそう生きたいと願い、そのように振舞えるものをうらやましく思うものだ。

しかし、何事にも限度というものがある。

平然と他者を押しのける生き方を快く思う人はいない、と言うことである。


「あ、そうだ。リベルテ。マイ。おまえら気をつけろよ」

レッドが思い出したかのように女性二人に声をかける。

「え? 何にですか?」

マイは首をかしげるが、リベルテは頷いていた。

「さっきの男、かなり女好きのようだ。おまえらも狙われそうだぞ」

それを聞いたマイは身震いをし、リベルテはどうやったら回避できるのか頭を悩ませる。

「あ、検査続けてくれるみたい。次は僕らだねぇ」

いつもどおりの気の抜けたタカヒロの声が、なんとなく皆の気持ちを楽にしてくれていた。

ここまでお目通しいただき、ありがとうございます。

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