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王国冒険者の生活  作者: 雪月透
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モレクの名物料理ピザを食べた翌日、町長へ荷物の受け渡しに向かうレッドたち。

昨日のうちに荷物の搬送する旨を伝えてきていたため、町長への面会はスムーズだった。

「はい。これが王都からの荷物になります。確認をお願いします」

荷物の伝票を確認し、町長の後ろに控えていた少しご年配の男性に回す。

その男性がうなづくのを見て、依頼完了の手続きを行う。

「うむ。間違いないようだ。ありがとう」

町長だからというわけではないが、レッドたちへ接する態度は実に誠実でレッドたちにとってありがたい相手だった。

冒険者という職が他の職からあぶれた者たちなどの受け皿ということが大きく影響していて、冒険者を低く見る者は権力を持つ人に多いのである。


「君達はハーバランドまで行くのかい?」

ここでの配送の依頼が終わったので早々に辞去しようとしていたのだが、町長はレッドたちに話しかけてきた。

さすがに話しかけてきているのに無視して出て行くわけにはいかず、上げかけた腰を下ろして町長に向き合う。

「ええ。あちらまでの配送依頼を受けていますので」

「そうか。最近あちらには凄腕の冒険者がいるんだが……どうにもね。君達は大丈夫だと思うんだが。王都の冒険者としてあちらのギルドに顔を出しておいてはくれないかね? 何事もなくあちらだけで済めばいいんだが、どうにも気になってしまってね。昨年は賊に襲われた村もあったが、ここより大きなあちらでなにかあったら、とてもじゃないが大変なことになる。あんな胃が痛い思いはしたくないのでね」

昨年、アクネシア王国側から賊が押し寄せ、アクネシアから近い村が襲われ、多くの村人が殺されてしまった。

賊といいながらアクネシアの手の者で、村の蓄えを奪うのではなく、村を壊滅させていくことが目的であったことで近隣の村やモレクも大きな騒ぎになっていた。

賊自体はレッドたち王国の冒険者が動いたことで退治できたが、失った命は戻らないし、壊された村を再建するには多大な労力と年月が必要となる。

王都より現場に近く、それなりに大きな町であったため、生き延びた村人の生活支援、近隣の確認のための警戒調査依頼、さらには村再建の段取りと任され、町長にとってかなり負担になっていた。

村再建については村に移住する人がなかなか集まらなく、まだ目処が立っていない。

しかし、生活支援と警戒調査はそろそろ区切りをつけられる状態になってきたため、町長は一安心していたところだったのだ。


「凄腕の冒険者、ですか? 心強いと思うのですが……」

わざわざ凄腕というからには、討伐の依頼を主にこなす冒険者なのだと思われた。

であれば、そういう冒険者が居てくれたほうがモンスターが出たときに心強いものだ。

それにいくら強いといっても所詮は人であるため、悪さをすれば兵によって捕まる程度である。

「うむ。そうなんだが、どうにも彼は好きになれん。こう……施政者にとって頭が痛くなる相手というか、あまりこの街に来て欲しくはないんだよ」

「わかりました。あちらのギルドに顔を出してきます。情報ありがとうございます」

「いやいや、余計な手間をかけさせて申し訳ない。またこの町に来てくれ。君達なら歓迎するよ」

町長と握手をした後、レッドたちはハーバランドへ向かうため、馬車に戻った。


「レッドさん。先ほど町長が言った冒険者ってどう思います?」

「王都では聞いたことないよな? 凄腕かぁ。そう言われてみたいもんだ」

「あれ? レッドさんもそういうの気にするんだ? でもさっき、町長さんが好きになれないって言ってたでしょ? 会いたくないかな」

早速と凄腕の冒険者を話題に盛り上がるレッドとマイの馬車。

会いたくないと言いつつ、マイはレッドと変わらず興味津々といった感じでどんな相手なのか楽しげに想像し合っていた。


一方のタカヒロ、リベルテの馬車の方は沈黙を保っていた。

リベルテは先ほどの冒険者について考え込んでいて、タカヒロは面倒ごとに関わるつもりは全くなく、話題にするつもりもなかった。

こちらの二人の馬車は、にぎやかな前の馬車に静かに付いていくだけであった。

モレクからハーバランドまではだいたい4日掛かる距離であり、また多少駆け足にしても3日目の夜近くの予定である。


「今日はあの辺りで野営だな」

「は~い」

街道沿いには、これまで旅をしてきた商人や人が野営できる地点を長年かけて整備してきている。

だいたい水場が近くにあり、周りに危険が少なそうな場所が選ばれており、レッドたちもこの旅ではそういったポイントを必ず利用するようにしている。

野営と聞いて少し落ち込んだような声で返事をしたマイは後ろの馬車に合図を送り、近くに馬車を止めて野営の準備を行う。

ここまでの間に何度も野営を繰り返してきたため、準備自体は手馴れてきている。

レッドが周囲の警戒、リベルテが水場を探して汲んできた間に、マイとタカヒロであっという間に準備を終えてしまっていた。


火に鍋をかけてゆっくりとスープを煮込んでいる。

焦がさないようにと、マイが真剣な目つきでスープをかき混ぜている。

この世界での料理は得意ではないということで、リベルテに教えてもらいながら料理をし始めていて、他に食べるものが無いので食べられれば良いと言うリベルテの強弁でこの旅も練習の一環で作らされていたりする。

もちろん、レッドたちは反論したが、リベルテの笑顔でありながら寒気がする気配に沈黙していた。

味付けも確認していたので、後は大丈夫だろうとリベルテはレッドの側に行く。

「どうした? もうできたのか?」

リベルテの気配に気づいたレッドが先に声をかける。

「いえ、まだもう少しかかります。あとは煮込むだけなので」

「そうか……。どうかしたか?」

「先の冒険者の話ですが……」

「あぁ、馬車でマイと話をしてたんだが、王都では聞いたことなかったよな?」

レッドが気楽そうに話すが、リベルテは真剣そうな顔であった。


「また『神の玩具』ではないでしょうか?」

「また?」

リベルテはここ最近の遭遇率から問題があるのではないかと深刻そうに、レッドはここ最近の遭遇率から多すぎないかと呆れた反応である。

「いくらなんでも多すぎやしないか? そんなに現れたらありがたみも何もないだろうよ」

「そもそもそんなありがたがるような者か疑問がありますけどね。『神の玩具』ですから、神の気まぐれで現れているのだと思います」

レッドはそこまで言われて事態について真剣に考え始めていると、リベルテがさらに顔を険しくし、声を小さく考えを述べる。


「マイとタカヒロさんは、私達と一緒に居ることで普通に暮らしてくれています。ですが、それは神にとって楽しくはないのではないでしょうか? だから、新しい玩具が送られてきていると考えられませんか? 過去、聖女や魔王が居たとされる時は、この世界で大きな戦いになったりしました。多くの国が混乱するような事態になったときは、『神の玩具』がそう多く居たような文献はありませんでした。ですので……」

「さすがに。さすがにそれはおかしいだろ。過去の文献に無いのは、すべてのやつらに会えなかっただけかもしれないし、マイたちのように大人しいやつが多かったからかもしれないだろ」

リベルテのあまりにも暴論とも言える推測に、レッドは声を荒げて反論する。


「どうかしました~? そろそろできますよ~」

その声にマイがレッドたちの方に声をかけ、少し近くまでタカヒロも様子見に来ているようだった。

「なんでもない。すぐに戻る」

少し大きめの声でマイに返事をし、タカヒロには手振りで問題ないことを伝える。

「多くいるってのはありがたくはないが、少ない人数しか居ないって決まったもんでもない。俺達は俺たちができる限りをするだけだろ? 聖女とか魔王とかそんなのは望まない。王都に暮らす人たちを守るだけだ」

リベルテは自身の考えを落ち着けるため、一つ深呼吸をする。

「そうですね。変なことを言ってしまってすみません。戻りましょうか」


「はい。どうぞ~」

マイが笑顔でスープをよそって皆に渡していく。

「いただきます」

レッドとタカヒロが早速とスープに手をつけ、一口飲んで止まり、黒パンにかじりつく。

その様子に首をかしげながらリベルテも一口飲み、ジロリとマイに目を向ける。

その雰囲気にあれ? と首をかしげるマイに少し声が低くリベルテが声をかける。

「あれから何か手を加えました?」

「味見したら薄かったから、塩足しただけですよ?」

それでかとレッドとタカヒロもマイに白い目を向ける。


「煮込むからあれでよかったんです! 煮込んで汁気が少し減るとちょうど良くなるようにしていたんですよ。なのに塩足したら塩辛くなるだけです……」

レッドと凄腕の冒険者について話をするために、少し場を離れただけで余計なことをしちゃうのか、とリベルテは頭を抱えてしまう。

「あ~、料理があまり得意じゃないって言う人とか、料理をあまりしないのに得意って言う人って、余計な手を加えるの多いよね」

タカヒロがつい漏らしてしまった言葉がマイの胸に深く刺さり、マイも一口味見してその味にうなだれる。


「まぁ、パンつけて食えば、そこまで気にしないでいけるから、大丈夫だ」

「そう、ですね。モレクで買い込んでてよかったです。ピザのおかげか固いパンが安くあまってるようでしたからね。果実もちょっと買っておいたのですが、後で口直しに出しましょうか」

「う~。ごめんなさい~」

「まずいわけじゃないから気にするな。これくらいの失敗なら大丈夫だ」

「昨日の料理の次がこれだとキツイな~」

「タカヒロさん。ダメですよ、いじめたら」

もう慣れ始めてきた旅は明るさを伴い始め、野営している4人は外から見たらとても仲の良いチームに見える。

それは二人がこの世界で生きることを受け入れ始めているようでもあった。

ここまでお目通しいただき、ありがとうございます。

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